肋骨にひびが入ったときの原因と症状…早く治すためのポイント

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心臓や肺などの臓器を保護する肋骨に外力が加わるとひびが入ったり、骨折したりします。原因は交通事故や高い場所からの転落、転倒、コンタクトスポーツなどさまざまで、咳をすることで肋骨にひびが入るケースもあります。

ここでは肋骨にひびが入る原因や症状、早く治すための過ごし方について解説します。

骨折とひびの違いは?完全骨折と不全骨折

肋間神経痛

完全骨折は、骨が完全に折れてしまっている状態である一方で、不全骨折とは完全には折れておらず一部が折れた状態であり、俗に「ひび」といわれる状態です。

完全骨折は骨が折れた方向によって、横骨折(骨の長軸に対して垂直に折れた骨折)、らせん骨折(骨の長軸に対してらせん状に折れた骨折)、斜骨折(骨の長軸に対して斜めに折れた骨折)、粉砕骨折(ひとつの骨が2つ以上の骨片に割れてしまった骨折)、分節骨折(粉砕骨折の1種で、いくつかに分かれた骨折)に分類されています。

不全骨折は、骨が完全に断裂しておらず、部分的につながっている骨折であり、いわゆる「骨にひびが入った」状態です。

骨にひびが入った程度の「亀裂骨折」、あるいは外見的には変化が見られないものの内部が離断している「骨膜下骨折」などがその典型例であり、見た目だけでは骨折と判断がつきにくく、捻挫や打撲と間違えられることもあります。

肋骨にひびが入る原因

肋骨は、左右12対の骨で構成されており、脊椎から両側に湾曲して内臓を取り囲むように形成されています。

肋骨の役割として、その中に存在する心臓や肺だけでなく、腹腔内の肝臓、脾臓、腎臓の一部を保護していますが、11、12 番目の肋骨の前方は胸骨には付いていません。

肋骨にひびが入る、あるいは肋骨を骨折することは、胸部外傷の中で最も多くみられる疾患であり、その原因は机やタンスの角にぶつけたというような軽度の外力によるものと、交通事故や高所からの転落といった大きな外力によるものがあります。

交通事故でシートベルトやハンドルによって胸を強打する、転倒して高い場所から転落して胸を強打する、ラグビーや柔道などの激しいコンタクトスポーツをしている際中に胸を強打するといった状況で肋骨にひびが入る、あるいは同部に骨折が起こります。

肋骨にひびが入って骨折することは、肋骨に外力が加わることで起こり、ゴルフのスイングなど体を捻ることで発生することもありますし、咳で骨折することもあります。

さほど強くない外力でも、それをきっかけに肋骨骨折が生じることがあって、気管支炎や肺炎などによって繰り返される咳症状が刺激となって、肋骨にひびが入って骨折が生じることがあります。

それ以外にも、子どもが突然胸に飛び込んでくる、胸を机の角にぶつけるといった状況も肋骨にひびが入る原因として挙げられますし、骨粗鬆症の高齢者においては軽い転倒や身体を捻る、咳を繰り返したりすることで肋骨にひびが入って骨折を起こす場合があります。

肋骨にひびが入ったときの症状

肋骨にひびが入った時の骨折の症状は、骨折部位の痛みや出血、皮下出血、局所の腫れなどが見られますし、局所的な痛みは、呼吸や身体の捻じれ動作に連動して増悪する傾向があります。

通常であれば、肋骨にひびが入る骨折の痛みは数週間続き、呼吸をするたびに胸が痛むために患者さんの呼吸が浅くなって、その結果肺の一部の虚脱を起こす無気肺や肺炎などの合併症を引き起こす場合があります。

特に、高齢者や複数の肋骨にひびが入る骨折所見を有する人では、さまざまな合併症を起こす可能性が高くなります。

肋骨は、心臓、肺、肝臓、脾臓などの臓器を保護しているため、肋骨骨折によってこれらの臓器が損傷することがあり、損傷を受けた臓器に起因した症状や臓器からの出血にともなう血圧低下などに繋がり、重篤な症状が現れることがあります。

また、肋骨のひびが複数部位にわたって認められると、呼吸への影響が大きくなります。

具体的には、ひびの箇所や骨折部位に生じる痛み、圧痛、皮下出血、腫脹や骨折部位の圧迫時に軋轢音(骨がきしむ音)が発生しますし、呼吸やくしゃみ、咳に伴う痛み、息苦しさや呼吸困難、体を反る、捻る、手を挙げるなどの動作に伴う強い痛みなどが生じます。

特に、フレイルチェストと呼ばれる状態は、連続する肋骨2か所以上においてひびが入って折れている時に発生する場合があります。

フレイルチェストを起こす程度の打撲は、胸膜の下にある肺の組織に損傷を与えることもあり、胸壁の一部が残りの部分から分離して、呼吸によって分離した部分が残りの部分とは反対方向に動きます。

フレイルチェストが起こると呼吸が一層困難になり、呼吸に疲労を伴いますし、肋骨のひびや骨折が複数部位に及ぶと、胸郭内にある肺などの損傷のために肺の表面が破れ、空気が肺から外側に漏れる気胸を起こします。

また、肺やその血管周囲に損傷が起こって、胸腔内に血液が溜まる血胸になると命に係わりますので、早急な外科的治療が必要です。

肋骨のひびや骨折の治療の流れ

肋骨骨折が疑われる状況では、医師による触診やレントゲン撮影により、骨折の有無が確認されますが、たとえレントゲン撮影を行っても、肺の影や肋骨同士の重なりによって明らかに骨折が判明しにくい場合も想定されます。

基本的には、肋骨にひびが入る骨折が疑われた場合、医師による問診、触診を行い、痛みの強い部分や症状の程度を確認し、レントゲン撮影により骨折の有無を確認しますし、気胸(肺の損傷)や肺を包んでいる胸膜の損傷も、レントゲン撮影により確認が可能となります。

しかし、肋骨の前方内側部分は軟骨のため、レントゲン撮影では骨折を確認することが困難であり、肺の陰影や肋骨同士の重なりがある場合などにおいてはレントゲン撮影をしても骨折が判明しにくい場合が見受けられます。

肋骨のひびや骨折の有無に関わらず、胸部を損傷した際の治療法は原則同じですので、必ずしもレントゲン撮影により肋骨骨折を確認する必要はありません。

肺の組織の損傷や虚脱など、肋骨のひびや骨折に伴う重篤な合併症を見逃さない為にレントゲン撮影を行いますが、全ての肋骨骨折が写るとは限りませんし、内臓の損傷が強く疑われるケースでは、血液検査、超音波検査、CT検査、心電図などの検査も同時に実施します。

通常、軽度の肋骨のひびや骨折であれば、痛みに対する鎮痛薬やバストバンドと呼ばれる固定具による肋骨の固定などで治療対応します。骨折の程度が重篤な場合や臓器損傷が合併して認められる場合には、外科的な治療も考慮されます。

早く治すための過ごし方

肋骨にひびが入る骨折が疑われる場合の応急処置は、呼吸運動による胸の痛み症状をできるかぎり抑えるために、患部に厚手のタオルなどを当て軽く圧迫する、というものです。

肋骨にひびが入る骨折では、腹腔内の損傷を合併している場合があるため、応急処置をした後、早期に医師の診察を受けるように心がけましょう。

肋骨骨折をした直後は入浴によって身体を温めることで炎症が強く出るため、長時間の入浴行為は控えて、身体を拭く、あるいはシャワーで汗を流す程度にとどめておきましょう。

入浴そのものは急性期の段階を過ぎて胸の痛みなどの症状が落ち着いてからにすると、血行を改善して回復を促すことにも繋がります。

また、日常生活では安静を基本とし、身体を反る、捻るなど痛みが出る動作を控えることが大切であり、症状の程度をみて、痛みが無い範囲で身体を動かすことや、栄養バランスの取れた食生活と十分な睡眠が病気の早期の治癒回復に役立ちます。

肋骨のひびに役立つバストバンド

バストバンド(胸部固定帯固定法)とは、主に肋骨骨折の治療である保存療法に用いられる胸部固定帯のひとつです。肋骨骨折のほか、胸部手術後や胸郭の固定、上腕骨頸部骨折(じょうわんこつきんいたんこっせつ)などに対して使用されます。

バストバンド自体に伸縮性があるため、どのような体型の患者さんにも使用ができて、マジックテープで固定できる着脱のしやすさが特徴です。

バストバンドを用いる理由

特に、肋骨骨折の際に、バストバンドは症状緩和に有効的です。

バストバンドを使用するに際しては、胸部の保護、安静保持を目的としますが、使用状況や健康状態によって、必ずしも完全に保護できるわけではありません。

肋骨骨折が完治するまでの期間は、およそ4〜6週間であり、そのうち4週間は、バストバンドなどによる固定が必要とされています。

実施する目的は、骨折部を保護し安静を保つことです。

骨折部の損傷具合にもよりますが、少し動いただけでも激しい痛みを伴うことがほとんどですので、バストバンドによって患部の固定を行い、骨折部位の変形予防や矯正と、痛みの軽減、関節の保持などを図ります。

バストバンドを使用するときの注意点

特に、肋骨骨折の治療でバストバンドを使用する際は、巻き方を間違えると皮膚トラブルや循環障害を起こすおそれがありますので注意が必要です。

肌に直接装着すると、バンド素材と肌が擦れて、皮膚の発赤や痒みなどを生じやすくなります。そのため、バストバンド使用時は必ず肌着を着用した上から固定しましょう。

そして、実際にバストバンドを装着する際は患部(骨折部)に伸縮性のない部分(広い帯面)を当てて、ぐるりと体に巻き付けます。

息を吸い込んだタイミングで上部のマジックテープをとめて、そのあと続いて、下部のテープをとめる際は、完全に息を吐き、再度息を深く吸ってからもう一度吐き切った時にテープを固定しましょう。

もし、バストバンドを使用中に異常を感じた場合は使用を中断し、医師に相談してください。

まとめ

これまで、肋骨にひびが入ったときの症状と早く治すための過ごし方などを中心に解説してきました。

肋骨にひびが入る骨折とは、心臓や肺などの臓器を保護する肋骨に生じた骨折を意味しており、主に交通事故や高い場所からの転落、転倒やコンタクトスポーツなどにより肋骨に外力が加わることで発症します。

基本的な治療には鎮痛剤を投与して痛みを緩和し、バストバンドにより肋骨を固定しますが、臓器損傷が合併して見られるなど症状が重篤な場合には、外科的な治療も検討します。

肋骨にひびが入る、あるいは肋骨を骨折する際には、時に重篤な経過をたどることになりますので、そういった状況が疑われる場合には、早急に整形外科や呼吸器外科など専門医療機関を受診して、状態を適切に評価してもらうことが重要です。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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