症状はある?ピロリ菌の検査と除菌治療について解説
ピロリ菌に感染しても、初期のうちは自覚症状がないことがほとんどです。しかし、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどを引き起こした際には、それぞれの疾患に特有の症状が現れることがあります。
ここではピロリ菌を取り上げ、ピロリ菌感染によって引き起こされる疾患や症状の特徴について詳しく解説します。
ヘリコバクター・ピロリ菌とは
通称ピロリ菌(Helicobacter pylori)とは胃の表層を覆う粘液の中に住みつく菌です。
ピロリ菌に感染した状態を放置しておくと慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどが引き起こされることがあります。
もともとは1982年にオーストラリア研究者であるBarry MarshallとRobin Warrenがピロリ菌の単離、培養にはじめて成功し、2005年にはこの功績によってノーベル医学生理学賞を受賞しています。
ピロリ菌の感染率には衛生環境が関連するといわれており、日本では中高年に多く、若年層では近年において減少傾向にあって、10代以下の感染率は10%以下といわれています。
ピロリ菌の感染経路に関しては、完全には判明していませんが、経口感染するのではないかと考えられていて、具体的には、ピロリ菌に感染している大人から赤ちゃんに口移しで食べ物を与える、糞便に汚染された食物・水の摂取などが考えられます。
ピロリ菌に感染する時期として、多くは免疫機構が十分に発達していない乳幼児、特に4歳以下であるといわれています。
また、衛生環境がピロリ菌感染に関係しているため、新興国よりも発展途上国においてピロリ菌の感染者が多く認められていて、わが国においては60歳以上の80%が感染しているとされています。
ピロリ菌の感染に伴う症状
ピロリ菌の感染によって胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどが引き起こされると胃の痛み、腹痛、吐き気、嘔吐、下痢といった症状が現れることがあります。疾患ごとの症状の特徴を見てみましょう。
胃炎の症状
胃が荒れてピロリ菌に感染すると胃炎が引き起こされます。
胃炎になると、胃の粘膜が充血してむくみが生じ、さらに刺激を受けることで胃内に小さな点状の出血やただれのような病変がみられるようになります。
胃炎を引き起こす3大原因は、薬剤性、アルコール性、ストレス性と言われていて、それ以外にも、アニサキスやピロリ菌による感染症も原因となります。
胃炎を発症すると、みぞおち辺りにキリキリとした痛みや吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状が生じると言われています。
胃の粘膜の障害が強い場合には、胃の粘膜からの出血が強くなる結果として吐血をしたり、下血を起こしたりすることもあります。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の症状
胃潰瘍の実に70%以上においてピロリ菌が原因であると考えられていて、このピロリ菌に仮に感染したからといって胃潰瘍や胃癌が必ず発症するわけではありませんが、感染した人のほとんどに萎縮性胃炎が引き起こされると言われています。
胃潰瘍という疾患はストレスや薬物などが原因で発症することが多く、現代社会における代表的な病気であると言えます。
胃液中に含まれる塩酸やペプシンといった物質が、過剰に産生されて胃を保護している消化管粘膜を消化してしまう、あるいは胃粘膜を防御している因子が減弱することによって胃壁に潰瘍性病変を形成します。
胃潰瘍における自覚される症状の約9割は腹痛であると考えられており、そのほとんどが上腹部のみぞおち周囲に腹痛を感じることが多く見受けられ、基本的には食後に痛みが出現しやすく、食事を過多に摂取しすぎると長時間に渡って腹痛が継続します。
胃潰瘍に罹患しても全く症状を感じないケースもあって、自分で気が付かないままに知らず知らずのうちに潰瘍が悪化して胃に穴が空いて穿孔を引き起こすことによって、初めて腹部の激痛を自覚して胃潰瘍が発見される場合もあります。
胃潰瘍では胃粘膜が胃酸などによって傷つけられて、吐き気や嘔吐症状を引き起こす比較的身近な病気であり、胃の粘膜が強い炎症を起こすために、胃の痛み以外にも腹部不快感、吐き気、嘔吐など多彩な症状を呈することが予想されます。
胃潰瘍を発症した場合には、胃酸と共にどす黒くなった血液成分を吐血することがあって、このような場合には、出血性胃潰瘍と呼ばれています。
出血性胃潰瘍では、ちょうど潰瘍が認められる部位の血管が破裂するのが原因であり、出血して吐血した際には冷や汗、頻脈、血圧低下、腹部の激痛を自覚することもあります。
また、十二指腸潰瘍は、胃酸で十二指腸の粘膜組織がただれて障害を受けている状態であり、主にヘリコバクター・ピロリ菌の感染、鎮痛薬など薬剤の副作用、過度のアルコール摂取、喫煙、日々の過剰なストレスなどが原因となります。
万が一、十二指腸部位に潰瘍が形成されると、腹部の疼痛症状やみぞおち周囲部の痛み、胸やけ以外にも食欲不振や腹部膨満感などの症状が自覚されます。
胃がんの症状
胃がんの原因はさまざまであり、通常であれば正常な胃の粘膜の細胞が変化することで発症します。
特に近年になって、胃癌の原因として注目されているのがピロリ菌の感染であり、これまでに数々の研究でピロリ菌感染者と、そうでない方を比較すると、胃がんの発生率リスクが大きく異なることが判明してきました。
胃がんの特徴として、早期には自覚症状が現れにくいということが挙げられます。進行した場合でも、目立った症状が現れないことも少なくありません。
時には、胃がんの進行度の早い段階から消化不良による胃の不快感、食後の膨満感、胃痛、胸焼け、血の混ざった黒い便、食欲不振などの症状が現れることがあります。
胃がんを予防的に早期発見および早期治療するためには、少なくとも年に1回程度は定期的に胃カメラ検査などを受けることが重要です。
ピロリ菌の検査方法
ピロリ菌感染を調べる検査はさまざまであり、各施設によって実施される検査が異なる場合があります。
多くは、上部消化管内視鏡検査を必要としていて、患者さんの体への負担が大きい検査と、胃カメラを必要とせず患者さんの体への負担も少ない検査に分けられます。
上部消化管内視鏡検査によって、胃のびらん病変や出血、潰瘍の有無などを確認して、胃の粘膜の状況を詳細に評価できますし、ピロリ菌の存在を評価するための検査が追加されることもあります。
上部消化管内視鏡検査を使用する場合には、内視鏡により胃の粘膜を採取し、その検体を用いて迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法といった方法を用いて検査を行います。
迅速ウレアーゼ試験は、ピロリ菌が持っているウレアーゼという酵素が試薬内の尿素を分解してアンモニアを生じさせることを利用した方法であり、ピロリ菌が感染しているかどうかを短時間で判定することが可能です。
鏡検法では、採取した胃の粘膜にさまざまな染色を行い、顕微鏡下でピロリ菌を検索するとともに組織学的な評価を行いますし、培養法においては検体をすりつぶして5~7日程度培養し、実際にピロリ菌がいるかどうかを調べます。
一方で、上部消化管内視鏡検査を必要としない検査としては、尿素呼気試験、抗体測定、糞便抗原測定が挙げられます。
尿素呼気試験は、検査用の薬を服用する前と後に呼気を採取する簡便かつ精度の高い検査ですし、抗体検査は血中や尿中のピロリ菌に対する抗体を調べます。
また、糞便抗原測定では糞便中のピロリ菌抗原の有無を調べることができます。
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌は、基本的に1~2週間の治療で除菌することが可能です。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がん、MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病などに対してピロリ菌の除菌治療が有効であることが判明しています。
日本において胃がんは患者数が多い悪性疾患であり、胃がんを予防するという意味でもピロリ菌除菌の有用性が示されています。
根治的に除菌しない限りピロリ菌は胃内に生息し続けると考えられています。
ピロリ菌の除菌治療には、プロトンポンプ阻害剤(ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾール、ボノプラゾンのいずれか)と「アモキシシリン」「クラリスロマイシン」という2種類の抗生物質を組み合わせた多剤併用療法が行われます。
これら3種類の薬を1日2回7日間続けて服用する1次除菌治療を実施することで70%以上の方が除菌に成功して治癒すると言われています。
まとめ
これまで、ピロリ菌に感染するとどのような症状が出るのか、ピロリ菌の検査と除菌治療などを中心に解説してきました。
ピロリ菌に感染しても、初期のうちは特徴的な自覚症状がないことがほとんどですが、感染した状態を放置しておくと、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、さらには胃がんなどの合併症を引き起こします。
これらの病気が引き起こされると、胃のむかつき、胃の痛み、吐き気などの自覚症状が認められるようになります。
上部消化管内視鏡検査を始めとしてピロリ菌の検査を実施して、陽性であった場合には専門医療機関で1次除菌治療を実施することが推奨されています。
ピロリ菌の除菌治療を終了したあとに、4週間以上期間をあけてから再度ピロリ菌の検査を行って、実際に除菌できているかを調べます。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。