場面緘黙症とは?大人と子どもの症状の特徴

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家族とは自由に話ができるのに、学校や社会で人と話そうとすると声を出して話すことができない…。そんな悩みを抱えている方はいませんか? それは場面緘黙症かもしれません。ここでは場面緘黙症を取り上げ、大人と子どもの症状の特徴などについて解説します。

場面緘黙症とは

緘黙(かんもく)とは、口を閉じて何も言わないこと、押し黙ることという意味があります。

緘黙には、生活全般にわたって全く話せない全緘黙と、家庭などの安心できる場所ではふつうに話すことができるにも関わらず、学校や職場など特定の場所や状況で話せなくなってしまう場面緘黙があります。

場面緘黙は選択性緘黙と言うこともあり、医学的には不安症群に分類されます。これらの緘黙は決して一時的なものではなく、長く症状が続くため、大人になってからの緘黙は社会生活に大きな影響を与えてしまいます。

日本における場面緘黙症

周りの方が症状に気づくのは、幼稚園などに行き始めてからの5〜6歳前後が多いと言われていますが、小学生や中学生になってからも症状が現れる人もいます。

周りの人が緘黙への理解が乏しいと、性格によるものだと誤解されることがあり、人見知りや極度の恥ずかしがり屋と思われてしまいます。
日本国内では小学生約14万7千人を対象とした調査で0.21%が場面緘黙という報告があり、およそ500人に1人の割合となります。

場面緘黙症の原因は?

場面緘黙の原因やメカニズムについては、まだはっきりとわかってはいませんが、単一の原因によるものではなく、本人がもともと持っている気質に加えて、心理学的要因や社会・文化的要因など、複数の要素が影響している可能性が考えられます。

緘黙症の本人は、自分が話している場面をクラスメイトや職場で聞かれたり注目を浴びたりすることに、強い恐怖感を抱いています。

特に場面緘黙症の子どもは、比較的おとなしい性格の子が多いため、口数が少なかったり積極的に友達と関わろうとしなかったりします。まれに大人になってから症状が現れるケースもあります。しかし、場面緘黙の症状に対する認知度が低いため、自分が緘黙症であるということに気付けない場合もあります。

場面緘黙と発達障害の関係

場面緘黙症の症状が見られる子どものなかには、発達障害の特性がある子どももいます。

発達障害には3つの種類があります。

・自閉スペクラム症(ASD):対人関係の困難さや限定された行動や興味がある。
・注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害(ADHD):不注意や多動性、衝動性がある。
・学習障害(LD):知的発達に遅れはないものの、読み書きや計算に困難がある。

発達障害がある場合は、場面緘黙症の治療を受けるだけでなく、特性に合わせたサポートが必要な場合があります。

場面緘黙症の症状

場面緘黙は気質や性格によるものや、わざと話さないことを選んでいるわけではありません。話したいと思っていても、話せないという状態が特徴的です。

もし、幼少期に発症した緘黙症に対して適切な支援が受けられずに大人になった場合、症状の改善が遅くなるだけでなく、うつ病や不安障害などの他の精神障害や、不登校や引きこもりなどの二次的な問題を生じやすくなります。

子どもの症状

子どもの場合は、特に小学校や中学校などの学校生活で大きな影響が出てしまいます。適した支援や配慮があればこのような悩みはすこしずつ減っていくのですが、周りの生徒たちはもとより、教師ですら緘黙症への理解が乏しい状況にあります。

また、友達から遊ぼうと誘われても、いいよと簡単な一言が出てこないという特徴があります。言葉にしたいと思っても、言葉にできない状態であるため、本人もとても苦しい思いをしています。

子どもに見られる緘黙症の症状としては次のものが挙げられます。

・学校のトイレに一度も行けない
・話し方や動作が遅く、過保護で育ったと誤解される
・授業中に意見を求められても発言できない
・体育が苦手で評価してもらえない
・挨拶ができないため、無視していると思われる
・わからないことがあっても質問できない
・発表会や卒業式で声を出せない
・出席をとるときに声を出したり挙手したりできない

大人の症状

大人の場合は、つらい症状をごまかしながら働くことで会社に居づらい感覚になってしまい、二次的な問題を引き起こすきっかけになります。

また、仕事中に上司や同僚とのコミュニケーションがうまくいかず、トラブルになってしまう可能性があります。指示がわからない場合、何か聞きたいことがあってもその声が出なかったり、慣れない場面において思うように身体が動かなかったりという状態が起きることがあります。

大人に見られる緘黙症の症状としては次のものが挙げられます。

・不明な点を聞かなければいけないときに話しかけられない
・のどが圧迫される感じになり、声が出せない
・わからないこと、困っていることがあっても言えない
・挨拶や雑談ができない
・視線が気になってストレスになる
・プレゼンのような話さなければいけないときがつらい

場面緘黙症に気づいたらどうすればいい?

場面緘黙症の症状が見られたら、学校の先生、スクールカウンセラー、専門の医師に相談しましょう。性格の問題と考えたり、慣れたら良くなると放置しておくと、本人はつらく、症状も悪化してしまいます。早い段階でサポートをすれば、ほとんどの場合改善を期待できます。

安全な場所を増やす

場面緘黙は、子どもが話しやすい場所や相手を知り、その子どもにあったサポートを考えていきます。無理に人前で話すことを練習させるのではなく、安心できる環境をつくることが大事です。医師だけでなく、学校に理解者を増やし、周囲と協力して子どもが安心できる環境を広げていきましょう。

スモールステップ

不安な場所をいきなり安心な場所にすることは難しいので、不安が低い場面から少しずつできることを増やしていきます。今より少しハードルの高いことをクリアしていくということを繰り返し、自信をつけていきます。ハードルは相手や場所、活動内容を組み合わせて考える必要があります。

薬物療法と合わせて治療

不安症の治療などに用いられるSSRIという抗うつ薬が有効であると言われています。しかし、これはうつ状態や不安症状を緩和・軽減する効果が期待できるだけで、場面緘黙自体を治療改善するものではありません。

SSRIで不安を軽くしながら、スモールステップと合わせて治療する方法も有効とされています。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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