脂肪の塊の正体は?脂肪腫などの良性腫瘍と悪性の脂肪肉腫

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体の一部に瘤(こぶ)のような脂肪の塊ができることがあります。この脂肪の塊は何なのでしょうか? 原因はひとつではなく、いくつもの可能性が考えられます。ここでは脂肪腫や粉瘤をはじめとする脂肪の塊と、悪性の脂肪肉腫について詳しく見ていきましょう。

脂肪の塊の正体は?

脂肪の塊の原因としては脂肪腫、粉瘤、ガングリオン、神経鞘腫などが考えられます。順に詳しく見ていきましょう。

脂肪腫の特徴

脂肪腫とは、脂肪細胞における皮下腫瘍で良性軟部腫瘍のひとつであり、脂肪細胞のある体のどの部分にもできる比較的多い病気です。

およそ1000人に1人ほどの割合で発症し、年齢では50代前後の人が発症しやすく、脂肪腫の大きさは稀に10cmを超えるものもありますが、3cm前後のものが多くて、柔らかく痛みを伴わないのが特徴的です。

また、通常であれば病変はひとつだけの発症ですが、稀に複数部位にできることもあります。 

脂肪腫を発症する原因やメカニズムは明らかになっていませんが、何らかの原因で脂肪細胞が増殖することで腫瘍化すると言われていて、主に高血圧・肥満・糖尿病の人などが発症しやすいことから、生活習慣が関係している可能性があります。

多発性の場合は、特に遺伝、あるいは日々の生活における飲酒習慣との関連性が高いのではと考えられています。 

脂肪腫は原因とともに、どのような人にできやすいのかなどもはっきりと解明されていないのが実情ですが、遺伝子との関係も考えられることから体質によってできやすい人もいる模様です。

粉瘤の特徴

粉瘤は皮膚の表面にできやすく、脂肪腫よりも弾力性を有して、しこりのような感触であり、腫瘍の内容物は皮脂や老廃物です。

粉瘤自体は、本来であれば自然と剥脱する皮膚の垢成分である角質や皮脂が、皮膚の下部にある袋状の内部に貯留して形成されたできものです。基本的には、皮膚に袋状の構造物が形成されて、その袋の内部に脱落した皮膚の角質や皮脂が貯留して徐々に拡大した病変を指しており、細菌が侵入して患部が化膿すると赤く腫れあがって、痛み症状を伴うこともあります。

粉瘤は、疲労、ストレス、睡眠不足、偏った食生活など生活習慣の乱れなどが原因となって毛穴の一部である表皮が内側にめくれて袋状の病変ができ、痛み症状が乏しいことから放置する場合も多いですが、自然に治癒することはほとんどありません。

基本的な治療は手術による腫瘍の切除であり、手術処置によって形成されている腫瘤を取り除くことが重要です。症状を放置したままで自然に治癒することはほぼ無いため、腫瘤が小さい段階で耳鼻咽喉科など専門医療機関を受診することが肝要です。

ガングリオンの特徴

ガングリオンは関節に発症することが多く、脂肪腫より少し硬めで中身は脂肪ではなく液体がゼリー状になったものです。

ガングリオンとは、主に手首周辺にできる良性の腫瘤であり、見た目はコブのように感じることが多く、その大きさは米粒大〜ピンポン玉大くらいで、腫瘤の硬さは硬かったり柔らかかったりと腫瘤によってケースバイケースです。

ガングリオンは身体のあらゆる場所にできる可能性がありますが、最も発症しやすい場所が手首の甲側であり、ガングリオン全体の7割程度が手首の甲側に集中して発症しています。

手首の甲側以外にガングリオンが発生する部位としては、親指の延長線上にある手首の掌側、掌側の指の付け根、脚のくるぶし、脚の指、膝の半月板、脊椎の椎間板などが挙げられます。

滑液包炎(かつえきほうえん)の特徴

滑液包炎は、肘・膝・肩・股・かかとなどにある滑液包が炎症をおこして発症します。

中身は液体で比較的さらっとしており、脂肪腫はほとんど痛みが無いのに対して滑液包炎の場合は押すと痛みを感じます。

滑液包とは、薄く粘りのある滑液を含んだ袋状のもので、関節の可動部分の摩擦を軽減してくれ動きやすくしてくれる役割があります。

滑液包炎は、急性滑液包炎と慢性滑液包炎に分けられていて、前者は炎症反応が強く、少し関節を動かしたり触ったりするだけでも痛むような状態であり、膝や肘などは滑液包が皮膚の表面近くに位置しているため、皮膚が赤く腫れるようなこともあります。

これらの症状は、通常数時間から数日間かけて発生します。

また、慢性滑液包炎は、急性滑液包炎が繰り返したり繰り返し摩擦が起きたりすることで発症する病気であり、痛みや腫れが続くと、関節の可動域が狭くなっていたり、動作時に強く痛むことで筋力低下なども同時に引き起こされる可能性があります。

滑液包炎の初期症状としては、関節を動かす際に違和感を覚えることから始まることが多く、関節の痛みも初期症状のひとつとして認識されています。

動作した際に圧迫や引き延ばされるために痛みを伴いますし、患部を強く押したときには圧痛を感じることもあるでしょう。

また、関節部分に腫れが見られることがあって、特に肘関節などの場合は、滑液包が皮膚表面に近いこともあり、痛みよりも腫れの方が顕著に現れる場合もあります。

滑液包炎の原因のなかで最も多いのが外傷であり、スポーツや事故などによって外傷を受けた際に発症するケースがあります。

神経鞘腫の特徴

神経鞘腫は、末梢神経から発症し浅い部分にできた場合、脂肪腫と似たこぶのようなできものです。深い部分にできた場合はしびれや痛みが出ることから発見されることがあります。

神経鞘腫そのものは、末梢神経を取り巻くシュワン細胞が異常をきたして増殖することで発症しますが、この増殖の原因は明確にわかっていません。

しかし、遺伝性疾患である神経線維腫2型の病気にかかっている方は聴神経における神経鞘腫が多発しやすいといわれています。 

神経鞘腫は基本的に良性腫瘍であり、悪性は非常に稀です。

悪性末梢神経鞘腫と呼ばれる腫瘍もあって、皮膚の病変を特徴とする神経線維腫1型に関連して発生することが多いと言われていますが、通常の神経鞘腫が悪性化する可能性は低いです。

脂肪腫は良性だから安全?治療が必要な場合とは

脂肪腫は良性の腫瘍であり、一般的に病変部が急に大きくなったり生活に支障をきたしたりしない場合は、急いで受診する必要はないように思うでしょう。

しかし、時に脂肪腫に類似した腫瘍のなかには悪性の脂肪肉腫も含まれていますので、精密検査をして良性の脂肪腫と悪性の脂肪肉腫を判別して見極めることは重要です。

万が一、皮膚にできた腫瘍が急激に大きくなった、腫瘍部位に触ると痛む、腫れた皮膚が周りの部分と違って血管が浮いているなどの所見が出現している場合は、病院で検査を受けましょう。

軟部腫瘍で悪性のものはまれですが、適切に検査を受けることによって早期発見や早期治療につながります。

悪性の脂肪肉腫とは

脂肪肉腫は悪性軟部腫瘍のひとつです。

主に、脂肪組織から悪性の腫瘍が生じる病気であり、悪性軟部腫瘍自体は比較的まれながん(希少がん)です。

悪性軟部腫瘍の中で、脂肪肉腫はおよそ40%を占めています。脂肪肉腫は、さまざまな年齢の人にみられ、発症年齢の中央値は60歳前後で、男性の発症率がやや高いです。

主な好発部位は四肢や臀部、後腹膜であり、特に後腹膜に生じた場合は腫瘤を自覚しにくく、かなり大きくなるまで気が付かない場合もあり、健康診断で受けた画像検査で偶然腫瘍を発見される場合も少なくありません。

脂肪肉腫は組織型を問わず、自覚症状が乏しい傾向がありますが、発生部位によっては痛みのないしこりを自覚できることもあります。特に、5cmを超える大きい腫瘍の場合は脂肪肉腫を含めた何らかの悪性腫瘍である可能性が積極的に疑われます。

脂肪肉腫の診断

脂肪肉腫が疑われた場合、まずは血液検査や画像検査で異常の有無を確認したのち、これらの検査で疑わしい病変が発見された場合には、その組織を採取して顕微鏡で評価して確定診断を行います。

血液検査では、特に腫瘍が大きく、悪性度の高い悪性軟部腫瘍の場合には、血液中のLDHやCRPと呼ばれるマーカー数値の上昇がみられることがあります。

画像検査に関しては、X線検査や超音波検査、CT検査、MRI検査などを行いますが、そのなかでも特にMRIが有用ですし、造影剤を用いたCTでは腫瘍周辺の血管の位置や状態を確認できます。

脂肪肉腫の確定診断には生検が必要であり、生検に必要となる腫瘍の組織は、皮膚から針を刺して採取、あるいは一部を切開して採取することもあります。

また、病変をまるごと切除して採取することがあり、症例に応じて適した方法を選びますが、なかには手術による切除で採取し、治療後に正確な病名が判明することもあります。

さらに、特異的な遺伝子変異を有する粘液型脂肪肉腫は、採取した組織を用いた遺伝子検査によって確定される場合があります。

脂肪腫と脂肪肉腫の見分け方

脂肪腫は、柔らかく痛みのない通常1から10㎝ほどの腫瘍であり、正常な脂肪細胞が存在する部位のどこにでも認められます。

特に、体幹部位に脂肪腫は多く見られ、軟部腫瘍では最もよく発生し、1000人に1人以上が罹患し、40〜60歳代の男性に多く認められる傾向があります。通常、病変はひとつですが、5〜10%の方には複数の脂肪腫ができるといわれています。

脂肪腫が良性腫瘍である一方、脂肪肉腫は悪性腫瘍です。脂肪肉腫は中年以降に発生することが多く、初期は脂肪腫と同様に痛みなどの自覚症状は乏しいといわれています。

脂肪腫のしこりは長期にわたり少しずつ成長しますが、脂肪肉腫の場合、数か月で急激にしこりが大きく成長するケースも見られます。

皮膚のできものは痛みなど自覚症状の乏しい場合も多く、外表上の所見だけでは良性か悪性かを区別することは難しいので、皮膚のしこりに気がついて心配であれば、皮膚科など専門医療機関で診察を受けることをおすすめします。

まとめ

これまで、脂肪の塊の正体、脂肪腫や粉瘤の特徴と治療が必要な場合などを中心に解説してきました。

脂肪腫は体の脂肪細胞のある部位にできる良性の腫瘍で、比較的多くみられる疾病です。

小さな脂肪腫の場合はあまり気にならないために病変を放置しがちになりますが、稀に悪性の場合もあるのでできれば早急に皮膚科や形成外科を受診して診断を受けましょう。

脂肪腫と診断された場合には、そのまま様子を見ることもありますが、脂肪腫は自然に治癒することもなく、薬などで治療することもできずに手術で取り除く治療を実施する場合もあります。

体のどこかにしこりを触れて発見したら、自分だけで判断せずに専門医に相談することをおすすめします。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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