野良猫に引っ掻かれた!猫ひっかき病の症状と応急処置

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ペットが家族の一員として、ヒトとの濃密な接触をする機会が多くなっています。動物を飼育する場合には、猫ひっかき病等の動物と人の間で起こる感染症が問題になることがあります。

感染症に対する正しい知識を持つことは、家族とペットの健康を守る上で大切です。ここでは猫ひっかき病について解説します。

猫ひっかき病とは

猫ひっかき病とは、バルトネラ・ヘンセレ(Bartonella henselae)という細菌による、ヒトと猫との間で相互に感染し得る病気であり、バルトネラ菌に感染した猫に引っかかれたり咬まれたりすることでヒトに感染します。

猫ひっかき病は世界中で発生しており、日本でも特に西日本の比較的暖かい地域で多い傾向があり、夏から初冬に多く報告されます。

発症要因として、外を出歩く猫同士の接触でノミが拡散されて猫の間で広がり、そうした猫と人が接触することが考えられます。

猫ひっかき病の主な症状

腕が赤くなり、かゆみに悩む女性

猫に咬まれたり引っかかれたりしてバルトネラ菌に感染すると、傷口が3~10日以内に腫れ、2週間以内に発熱や周囲のリンパ節の腫れがみられるようになります。

2週間以内に仮にひっかき傷が治っていても、患部付近のリンパ節が腫れて圧痛を生じ、膿で満たされることもあり、場合によっては、発熱、頭痛、食欲不振などの症状が起こります。

リンパ節の腫れは傷口付近に生じやすく、手に傷がある場合はわきの下のリンパ節が、足に傷がある場合は足の付け根のリンパ節が腫れます。

多くの場合、全身症状が出ても軽症で済み、無治療でも自然に回復しますが、症状が消失するまでに数週間から数か月かかるケースもあります。

猫ひっかき病が重症化するケース

積極的な治療を行わなくとも自然に軽快することが多いですが、急性脳症や心内膜炎といった合併症を引き起こし、重症化することがあります。

後天性免疫不全症候群など、免疫機能が低下する病気がある人が猫ひっかき病を発症すると重症化するリスクがあります。重症化すると、急性脳症、髄膜炎、心内膜炎といった重大な合併症を引き起こし、無治療の場合、致死的になることもあります。

バルトネラ・ヘンセレはエイズの患者さんに多い細菌性血管腫からも検出されており、免疫不全の人や、免疫能力が低下した高齢者では同じような症状を起こすことも考えられます。そのほかにも、重症例では麻痺や脊髄障害を引き起こす例も報告されています。

猫ひっかき病の検査

猫ひっかき病を診断するには、血液を検査して、この細菌に対する抗体を測定します。抗体とは、ネコひっかき病の原因菌のような、特定の異物による攻撃から体を守るために免疫系が作り出すタンパク質です。

血液検査では、バルトネラ菌に対する抗体を測定します。

免疫機能が低下している場合や、重症化した場合には採取した血液から細菌を増殖させる培養検査を行い、菌の種類を同定することもあります。

非常に重い病気の人または免疫機能が低下している人の場合は、血液サンプルを採取して検査室に送り、細菌を増殖させて種類を特定する検査(培養検査)を実施します。

リンパ節から採取した体液を用いたPCR検査も可能です。医師が感染したリンパ節に針を刺して体液のサンプルを採取することもあります。ポリメラーゼ連鎖反応法を用いてサンプルに含まれる細菌のDNAの量を増やすことで、より迅速に細菌を検出することができます。

猫ひっかき病の治療

免疫機能が正常な場合は、感染した部位を温め、鎮痛薬を使用すれば通常は十分です。

免疫機能が低下している人(特にHIV感染症)で感染が全身に広がった場合は、抗菌薬が必要になります。

シプロフロキサシン、ゲンタマイシン、ドキシサイクリンなどの抗菌薬を数週間から数か月程度にわたって、継続する必要があります。

リンパ節の腫れを抑え、病気の拡大を防ぐために、アジスロマイシンなどの抗菌薬を投与することもあります。

野良猫に引っ掻かれたときに自分で行う応急処置

流水で冷やす

猫ひっかき病を予防するには、まずは猫に引っかかれるような状況をつくらないことが求められます。

猫を飼っている方は猫の感染を防ぐためになるべく家の外に出さないようにし、猫に傷を舐めさせない、猫の爪を定期的に切る、ノミは定期的に駆除するといった工夫も重要です。

もし、猫に咬まれたり引っかかれたりした場合はすぐに傷口を洗いましょう。リンパ節の腫れや発熱、頭痛などの症状が続く場合は、専門医療機関の受診が推奨されます。

まとめ

これまで、猫ひっかき病の症状、野良猫に引っ掻かれたときの応急処置などを中心に解説してきました。

猫ひっかき病は、バルトネラ・ヘンセレというグラム陰性細菌によって引き起こされる感染症です。

主な症状は主にリンパ節炎で、ネコに引っ掻かれた後10日頃から傷が赤くはれ、手の傷なら腋窩リンパ節が、足の傷なら鼠径リンパ節が腫れ上がります。

ほとんどの人で微熱が長く続き、全身倦怠、関節痛、吐き気等がありますし、免疫機能が低下している場合には、感染が全身に広がり、治療しなければ死亡することもあります。

医師は血液や体液の検査を行って、この細菌の有無について調べます。

通常は感染した部位を温め、鎮痛薬を使用することで十分ですが、免疫機能が低下している人には抗菌薬が投与されます。

猫に引っかかれた後でリンパ節が腫れたり、微熱が続く場合には、専門の医療施設を受診して相談しましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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