胆のう壁肥厚の原因になる胆のう腺筋腫症の分類と治療

右上腹部痛を訴える女性
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胆のう壁肥厚とは

腹部エコー検査

胆のう壁肥厚とは、胆のうの壁が通常時よりも分厚くなっている状態を指しています。

胆のう壁肥厚の原因となる疾患や病態としては、胆のうがん、胆のう腺筋腫症、急性あるいは慢性胆のう炎、膵・胆管合流異常症に伴う過形成性変化などが挙げられます。
これらを鑑別するために、消化器内科専門医や検査技師など専門家による精密検査が行われます。

例えば、腹部超音波検査(US)、超音波内視鏡検査(EUS)、多列検出器型X線CT(MDCT)などが実施されることがあります。
また、MR胆管膵管撮影(MRCP)、あるいは内視鏡的逆行性膵管胆管造影(ERCP)などの検査も有用となります。
腹部超音波検査では、正常な胆のう壁は1層の高エコーあるいは内腔より低高エコーの2層構造を呈します。

胆のう腺筋腫症に低率ながら癌を合併することがあり、胆のう壁肥厚を指摘された場合には、胆のうがんとの鑑別が最も重要です。
腹部超音波検査にて、胆のう腺筋腫症を強く示唆する場合には約6か月後に腹部超音波検査(US)で経過観察します。

胆のう壁肥厚の原因

胆のうと胆石

胆のう壁肥厚の原因としては胆のうの炎症や胆のう腺筋腫症が挙げられます。

胆のうの炎症

胆のう壁が肥厚する原因疾患としては、急性・慢性胆のう炎が挙げられ、結石の詰まり方の程度によって急激に発症する胆のう炎を急性胆のう炎、慢性的に胆のうに炎症が起こるものを慢性胆のう炎と呼んでいます。

慢性胆のう炎は急性胆のう炎に引き続いて起こることがあり、炎症によって胆のうの壁が厚くなることで引き起こされると考えられています。
基本的には、急性胆のう炎では外科的な処置が必要であり、慢性胆のう炎は経過観察が可能な場合もあります。

通常、胆のう炎とは、肝臓と膵臓の間にある胆のうと呼ばれる臓器に炎症が起こる病気であり、いずれの症状にしても右上腹部の発作的な痛みを特徴とします。

急性胆のう炎は慢性胆のう炎よりも痛みが強いことがあり、発熱症状が伴うこともあります。
急性胆のう炎のほとんどは胆石が原因であり、胆石は胆汁のコレステロール濃度が高くなることなどによって形成されます。
胆石ができると胆汁の流れが滞り、細菌感染が合併すると胆のう炎を発症することがあります。

急性胆のう炎の多くは胆石(胆汁の一部が結石化したもの)によって胆汁の流れが滞ることによって発生し、急性胆のう炎が続くと、慢性胆のう炎に移行して腹痛発作を繰り返すことがあります。
胆のう炎の主な症状は、右上の腹部やみぞおちあたりの腹痛であり、腹部に生じる痛みの特徴や随伴症状は、胆のう炎の種類によって若干異なります。
胆のう炎は胆石がある場合に起きやすくなり、40歳以上の中高年や女性に多いことが知られています。

また、急性胆のう炎のなかで概ね10%程度を占める無石性胆のう炎は、胆石がないのにもかかわらず胆のう炎を発症するタイプであり、主に寝たきりの患者さんや集中治療を受けている患者さんに起こりやすく、重症化の危険度が高いと考えられています。

胆のう炎は、症状と血液検査、画像検査(超音波検査、CT、MRIなど)に基づいて診断されますが、血液検査や一般的に行われる画像検査だけで診断ができない場合は、胆道シンチグラフィー検査と呼ばれる画像検査が行われることもあります。
胆のう所見以外にも、肝臓の機能などを評価するために肝機能検査が同時に実施されることもあります。

胆のう腺筋腫症

胆のう腺筋腫症(ADM)は、胆のう壁内におけるRAS(Rokitansky-Aschoff sinus)の増殖によって胆のう壁が肥厚する病気です。
専門的に言えば、壁内の嚢胞性変化、上皮増殖、平滑筋細胞の増生を特徴とする疾患です。 
胆のう腺筋腫症は、胆石などの存在によって胆のう内圧が高まった状態が持続することによって次第に発達していくと考えられています。

胆のう腺筋腫症は、腫瘍ができるわけでもなく、また炎症が起こるのでもなく、胆のうの壁が厚くなる病気であり、その発症要因としては、胆のう内圧の上昇などさまざまな諸説が考えられていますが、いまだに明確ではありません。

ADMの約90%に胆石を伴いますので、胆石の症状が主であることが少なくありません。
基本的には、日本における胆のう腺筋腫症は胆のう壁1cm内にRASが5個以上増生して、壁が3mm以上に肥厚したものという診断基準が一般的に用いられています。
エコーでRASを示唆する無エコー領域、壁内結石であるcomet like echoが描出されることがADMに特徴的であり、腫瘍性病変との鑑別のためCTやMRCP等にて粘膜面が比較的整であること、漿膜や外壁層が周囲臓器との境界が保たれている所見を確認します。

胆のう腺筋腫症の分類

円グラフで説明する白衣の医師

胆のう腺筋腫症は、病変の広がりによって限局型(底部型)、分節型、びまん型に分類されています。

限局型(底部型)では、胆のうの底部(胆管とつながっている側の反対部分)を中心に、限定的な範囲で胆のうの底部など胆のう壁が肥厚するタイプです。
分節型(輪状型)は、胆のうの中央付近の内壁が全周性に肥厚して、胆のうに「くびれ」ができることで、胆汁が胆のう内にうっ滞して、結石(胆石)ができることがあります。
びまん型(広範型)は、胆のう壁のほぼ全体がびまん性(患部が広い範囲にわたっている状態)に肥厚するタイプです。

胆のう腺筋腫症は、胆のう内腔の表面が平滑で不自然な変形がなく、分節型の胆のう腺筋腫症では胆のう内腔は二房性に砂時計様変形を示します。
また、分節型もびまん型においても、多くの場合には壁内に拡張したRASを反映する類円形の微小無エコー域やコメット様エコーが確認されます。

胆のう腺筋腫症の治療

通院日をカレンダーにチェック

胆のう腺筋腫症のみであれば、侵襲的な治療や手術までに至ることはほぼなく、腹痛など有意な症状が乏しく悪性腫瘍が疑われないケースでは経過を観察して、定期的に状態を確認していきます。

胆のう腺筋腫症に胆石を合併する、あるいは胆のう炎や胆のうがんなどを併発して、腹痛などの自覚症状を伴う場合には手術(主に腹腔鏡下胆のう摘出術)を実施します。
それ以外にも、良性、悪性の判断が困難である、膵胆管合流異常を合併しているなどの場合には、手術による治療を検討します。

胆のう摘出を目的とした手術には、開腹手術や腹腔鏡手術が考えられていて、近年では腹腔鏡手術が選択されることが多く、開腹手術に比べて患者さんの身体への負担が少ないため、早期の社会復帰が期待できるという利点があります。

まとめ

これまで、胆のう壁肥厚の原因になる胆のう腺筋腫症の分類と治療などを中心に解説してきました。

胆のう腺筋腫症とは、胆のうの壁が通常よりも分厚くなる病気であり、胆のう腺筋腫症は、病変の部位やその広がりから、大きく3タイプに分けられます。
胆のう腺筋腫症は、無症状で経過し、特有の症状はないことが多いと言われています。
他の臓器や症状を検査する際に行った腹部超音波検査によって偶発的に発見されることもあり、胆のう内や胆のう壁に胆石性病変がみられる場合があります。

胆石や胆のう炎を発症すると、右上腹部の痛みや腹部違和感などの症状を伴う場合があります。
実際の治療場面では、患者さんの全身の状態や症状を考慮しながら、消化器内科専門医や外科医とともに治療計画を立てていきます。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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