痛風の症状の特徴と症状のよく似た病気

痛風の経験がある方は、この病気が非常に痛みが強く、まさに「風が吹いただけでも痛い」といった表現が適切なのを実感されたのではないでしょうか。痛風になったことがない人でも、健診で尿酸値をみて痛風の心配をしたことがあると思います。ここではそんな痛風について解説していきます。
目次
痛風を発症するメカニズム

痛風とは血液中の尿酸が増えすぎて、関節の中に結晶を形成し、その結晶が関節を傷つける病気です。
では、そもそも尿酸とは何なのでしょうか。尿酸というのは、体の中にあるプリン体という物質を排出しやすくするために代謝された代謝産物です。プリン体は体のエネルギー源となる物質の原料となったり、体の遺伝情報を伝える原料になったりする物質です。
ATPの原料になるプリン体
エネルギー源の原料としては、ATPという物質の原料となります。ATPというのは、プリン体にリンが3つ付着した構造をしています。このリンが1個分離すると、ADPという物質に変化しますが、この変化が起こるときに大きなエネルギーを放出します。
体は常に代謝をしてエネルギーを産生して利用していますが、エネルギーを使用する度にエネルギーを産生するのでは効率が悪いです。そのため、ATPという形でエネルギーを保存しておき、必要なときにATPからエネルギーを取り出して生命活動を行う仕組みになっているのです。
DNAの原料になるプリン体
一方で、遺伝情報を伝える材料としては、プリン体はDNAの原料として使用されています。DNAのなかでもアデニンやグアニンという成分はプリン体から作られています。細胞分裂をしてDNAが複製されるときには大量のプリン体が必要となります。
人の体が生命を維持するためには細胞分裂が欠かせません。そのため、プリン体は常に必要とされているのです。
プリン体と尿酸の関係

もちろんプリン体が作るそれらの物質は非常に重要ですから、体の中にはプリン体を合成したり取り込んだりする機能が備わっています。食物から摂取する事で吸収されることはもちろん、不足すると肝臓で合成もされます。
しかしプリン体の欠点として、排泄がされにくいという特徴があります。普通、体内の物質は摂取と排泄のバランスを取ることで貯蔵量を一定に保つようにしています。しかし、プリン体は腎臓や肝臓から排泄されにくい構造をしているため、そのままでは貯留してしまう一方です。
そのため、生体は体内から排出しやすくするよう、プリン体を代謝して水に溶けやすい物質を合成しています。これが尿酸です。尿酸自体は酸性の物質で、液体の中では尿酸塩として溶ける性質を持っています。水に溶けやすいですから、尿にも排泄されやすくなっていますので、人は常に尿酸を尿中に放出することで体内の尿酸、ひいてはプリン体の量を適切に保つようにしているのです。
痛風発作のメカニズム
しかし、塩にはある一定以上の濃度になると結晶として析出してしまうという特徴があります。また、腎臓から排出する量には限界があります。そのため、ある一定以上プリン体を摂取しすぎてしまうと尿酸の量が血液中で過剰となってしまい、尿酸塩が析出してしまうのです。
概ね、血液濃度が7.0mg/dLを超えると、結晶として析出しやすい状態となってきます。この状態のときに血液が酸性に傾いたり、温度が下がったりすると結晶として析出してしまうのです。
特に析出しやすいのが関節の中になります。ですので、高尿酸血症となると全身のさまざまな関節の中に尿酸が変化した結晶が沈着していきます。結晶は関節を内側から刺激して炎症を起こします。そしてある時、突然その炎症が痛みとして感じられます。これが痛風発作です。
痛風発作が起こりやすい人
痛風発作が起こりやすい人には特徴があり、まず遺伝的要素があります。痛風の遺伝がある人は、主に尿酸の排泄に障害がある場合が多く、普通の人よりも尿酸が排泄されにくい体質であることが多いのです。
さらに、尿酸が排泄されにくい状態に加えて、プリン体を取り過ぎる過食や大量飲酒、さらにはストレス等が加わることでプリン体、ひいては尿酸値の急激な上昇をきたします。これにより、発作が起こりやすい状況となってしまうのです。
症状の出ない無症候性高尿酸血症とは
血液中の尿酸値が、7.0mg/dLを超えた状態のことを、高尿酸血症と言います。尿酸値が高くなると、痛風発作が起こりやすくはなってきますが、必ずしも尿酸が高いことイコール痛風を起こすというわけではありません。発作が起きず、尿酸値が高いだけの状態が続く状態のことを無症候性高尿酸血症と言います。
症状が特にないので、健康診断で指摘されてもそのまま放置してしまう患者さんも少なくありません。しかし尿酸が高いと、様々な場所に蓄積してしまい、合併症を知らず知らずのうちに起こしてしまうことがあるのです。
様々な合併症を予防するために、無症候性高尿酸血症の時には、基本的には生活指導によって尿酸値を基準値の6.0mg/dL以下にすることを目標として治療します。
痛風の腫れ方に特徴はある?

痛風と言えば、概ね足の片側の母趾の付け根に激しい痛みと腫れをきたします。他の関節に出現することもありますが、ほとんどの場合はまず母趾に症状が出現し、その後に他の関節にも症状が出てくるのです。
その他の関節の場所としては、足の甲や足首、かかと等です。手の関節に生じることもありますが、稀です。基本的に圧力がかかりやすく、関節に負担がかかっている場所の方が結晶による炎症が起こりやすく、発作が起こりやすいと考えられています。
また、時間帯にも特徴があります。多くの場合夜間就寝中におこってきます。日中に関節内に体液、尿酸がたまっていきますが、夜になって活動をやめると体液が先に血液中へと戻っていき、尿酸のみが関節内に残されます。それに伴って尿酸の濃度が上昇してきますので、結晶ができやすく、炎症も起こってきたしやすいとされています。
発作が起こると、突然の痛みが起こりますが、その後さらに痛みがどんどん強くなってきます。およそ半日以内には痛みが最高点へと達します。痛む関節はだんだんと赤みを帯びて熱を持ち、腫れてきます。
痛みは多くの場合1週間程度続きます。また、痛風を繰り返している人には特徴的な前駆症状が起こります。関節が痛んでいるので、少しの結晶でも異常が出始めるのです。具体的には患部がほてったり、関節に違和感がおこったりしてきます。このような前駆症状のときに内服する薬もあります。
痛風を放置したときのリスク

痛風は一過性のものなので、痛み止めを使用して我慢をしているとだんだんと痛みが治まってきて治ったかのように思います。しかし、そのまま放置すると様々な合併症が起こってくることがあるため注意が必要です。
痛風結節
痛風の発作が起こった後に、適切な治療を受けずに放置していると、痛風発作が起こった関節だけではなく、手足の様々な関節や耳たぶ、肘、膝、アキレス腱などにこぶのようなものができることがあります。これを痛風結節と言います。
痛風結節は、慢性化して増え続けた尿酸が、皮膚の下にどんどんと溜まっていくことによってできると考えられています。痛風結節ができると関節を動かしにくくなったり、大きくなった結節と靴や衣類などの間に摩擦が生じることによって皮膚に傷ができやすくなり、感染症の原因になることもあります。
結節自体は炎症を起こしているわけではありませんから、痛みを感じないことも多いです。しかし大きくなると、時々皮膚が耐えきれなくなって皮膚を突き破ってしまうこともあります。皮膚を突き破って痛風結節が破裂してしまうと、潰瘍となって重度の感染症を引き起こすことがあるので予防が大事です。
痛風結節ができた初期であれば、薬を飲むだけで改善することもあります。しかし結節が大きくなってくると、薬物治療だけでは十分ではないことが多くなり、手術を検討します。ただし手術に関しては、神経障害などの合併症が起こらないとなかなか行わないのが実情です。再発も多いので、より一層の尿酸値のコントロールが必要となってきます。
尿路結石
尿酸は、尿に排泄されます。しかし排出される尿酸が多くなると、尿の中で結晶化して、尿路結石が生じます。尿路結石は痛風患者の1割から3割程度に発症すると言われています。
特に尿管に結石ができた時には、非常に激しい痛みを感じることがあります。痛みなく、血尿だけの症状で発症することも時々あります。基本的には尿によって流されることを期待して、水分摂取を励行することがほとんどです。どうしても流れなくて大きくなってしまった場合には、手術によって結石を破砕することがあります。
腎障害
尿の中の尿酸が過剰になると、結晶化したものが腎臓の中にもたまってくることがあります。腎臓自体は結晶がたまると、機能をだんだんと落としていきます。
初期であれば血液検査で腎機能の値の異常が見つかることがあります。病状の進行に伴ってむくみや息切れなどの症状が出てきて、さらにひどくなると、尿毒症と言って、毒素が体に溜まることによって様々な症状が出ます。
痛風による腫れとよく似た病気

痛風のように、母趾の関節に痛みを感じる病気にはどのようなものがあるのでしょうか。
外反母趾
外反母趾は母趾の付け根から先の骨が外側に曲がっている状態です。そのため、母趾の付け根の辺りがうちがわに突出し、変形に伴う痛みを強く感じます。ハイヒールなど、足の形に合わない靴をはき続けて負担がかかりつづけることでおこってきます。
さらに、普段からズキズキと痛むだけではなく、時折関節に炎症が起こってきて痛みがさらに強くなってしまう場合があります。これが痛風発作のように感じられる場合もあるのです。
変形性関節症
全身のさまざまな関節でおこる、加齢による変形です。通常関節は骨と骨を繋ぐために間に関節液が貯留し、必要に応じて軟骨が存在することで骨と骨が直接触れることがないようになっています。しかし、加齢によってそのような構造が摩耗してくると、だんだんと骨と骨が接するようになってきます。進行すると骨と骨が当たってすり減り、さらに変形が進んできます。
このような変形性の関節症は体重がかかりやすい膝や股関節に起こりやすくなります。足の指等に起こってくる事はほとんどありませんが、鑑別疾患には入ってきます。
偽痛風
痛風は、尿酸が関節内に貯留する病気でした。偽痛風というのはピロリン酸カルシウムという物質が関節内に貯留し結晶となり、関節炎を起こす病気です。カルシウムが貯留しますから、レントゲンやCTで骨と同じように白いものが関節内に貯留します。
この偽痛風は、関節があまり動かないときによく起こってきます。寝たきりの人の首にも起こってくる事がありますが、多くの場合には股関節や足首の関節におこります。
痛風とは異なりますので、痛風の治療薬は効果があまりありません。基本的には痛み止めで様子を見ながら、痛みが治まっている間に関節を動かして結晶を崩壊させ、改善させるようにしていきます。
関節リウマチ

自己免疫疾患の一種です。自己免疫疾患というのは、自分自身の体に対して免疫が異常に反応して攻撃してしまうことで組織が破壊され、症状が起こってくる病気です。
関節リウマチの場合には、関節を包む関節包という組織に対して免疫が攻撃してしまうことでおこってきます。多くの場合には手首の関節などに炎症が起こってきますが、全身どの関節にも症状が起こってくる可能性があります。炎症が高度となってくると、だんだんと関節の変形もおこってきます。
痛風の痛みが突然起こるのに比べて、関節リウマチは慢性的に痛みが強くなってくるという特徴があります。また朝のこわばり、すなわち朝起きたときに関節が動かしにくいといった症状も関節リウマチに特徴的です。
蜂窩織炎
蜂窩織炎とは、皮下組織に何らかの細菌が感染し、炎症が起こっている状態です。関節の近くの皮下に感染が起こると、関節を動かしたときの痛みの症状が起こってくるため、痛風と似たような症状を呈する場合もあります。
しかし、関節自体が損傷しているわけではありませんので、動かしたときの痛み方が関節の痛みではなく皮膚が引っ張られて痛いという、感じ方の違いが見られます。
蜂窩織炎は放置するとあっという間に感染が広がって命に関わることがあります。蜂窩織炎の疑いがあるときは病院を受診することをおすすめします。