脾臓の痛みの原因になる脾腫(ひしゅ)の診断と治療

脾臓の痛み アイキャッチ
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脾臓は胃や肝臓などの臓器に比べて話題になりにくい部位かもしれません。しかし、左上腹部や背中の左上部に痛みを感じるようなら、脾腫という脾臓の病気が原因なのかもしれません。

ここでは脾腫をはじめとする脾臓の痛みの原因について解説します。

脾臓の場所と働き

消化器官のなかの脾臓の位置

脾臓は左上腹部にある臓器で重さは約120グラムぐらいであり、胃の外側から裏側に位置して、胃や左の腎臓に接するように存在しています。

脾臓の主な働きは、老化した赤血球を破壊して除去すること、あるいは血小板の貯蔵庫としての機能も有しています。

健康な赤血球は脾臓内の網目構造をすり抜けますが、老化して変形した異常赤血球は脾臓内部に引っ掛かって破壊されます。脾臓は全血小板数の約3分の1を貯蔵しており、必要に応じて血小板成分を放出します。

また、脾臓内にはリンパ球が多数存在していて、体内で最大のリンパ器官であり、免疫機能とも深い関係があり、体内に侵入してきた細菌やウイルスなどと闘うための抗体を作成する役割も担っています。

脾臓の痛みの原因は?

脾腫のイメージイラスト

脾臓の痛みの原因となる疾患について見てみましょう。

脾腫(ひしゅ)

脾臓の痛みを呈する原因の一つとして、脾腫(ひしゅ)が挙げられます。

脾腫は、肝硬変や門脈閉塞によって脾血流がうっ血する、あるいは急性肝炎、マラリア、梅毒などの感染症に伴う炎症、白血病や真性赤血球増加症などの骨髄疾患、遺伝性球状赤血球症などの溶血性疾患、悪性リンパ腫などを含む腫瘍性疾患などが原因となって出現します。

脾臓が腫れて大きくなる状態である脾腫は、脾臓そのものの病気ではなく、他疾患の影響によって引き起こされることが多く、脾腫になって脾臓が大きくなると、血球成分や血小板を沢山貯えて血液中の血球と血小板が減るために、貧血や出血傾向を認めることがあります。

脾腫自体は確固たる病気ではありませんが、脾腫を認める際にはその原因になっている感染症や悪性腫瘍といった病気の存在が疑われます。

脾腫では、通常自覚症状に乏しく特有の症状がみられることは少ないですが、時に左上腹部や背部に膨満感や痛みなどの症状が出現することがあります。

脾腫に伴って脾臓が大きくなると隣接している胃が圧迫されて、軽食を食べただけで満腹感を催す、あるいは腹部の左上や背部にある脾臓周囲を中心に疼痛症状が出現する場合もあります。

脾臓損傷

脾臓は、腹部外傷のなかでは肝臓などとともに損傷頻度が比較的高く、交通事故や高所からの転落などによって外からの物理的な力が生体に加わることで脾臓損傷が起こると、脾臓が位置する左上腹部や左側背部に激しい痛みを自覚します。

脾臓が損傷すると、左上腹部を中心とした痛みだけでなく、放散痛として左肩に痛みが生じる場合もありますし、外傷による高エネルギー損傷が起こった場合は、脾動脈など脾臓周囲の主要な血管が傷ついて大量に出血所見を合併することも見受けられます。

脾臓の実質や脾動脈の血管損傷に伴って腹部内へ大量に出血を認めるケースでは、血圧低下や意識障害などの出血性ショックの兆候におちいることもあります。

以前は脾臓損傷を認めた場合には脾臓をすべて摘出することが一般的でしたが、近年では脾臓の免疫学的な機能が重要視されていて、脾臓を摘出すれば免疫能が低下して感染症が重症化するリスクがあるため、なるべく脾臓温存に努める方向になっています。

脾機能亢進症

脾臓が正常であれば、老化した赤血球や損傷を受けた赤血球が血液中から自然と除去されます。しかし、脾臓が腫れて大きくなって脾機能が亢進状態になると、脾臓によって過剰な赤血球数が蓄えられることで、貧血、白血球減少症、血小板減少症などを引き起こします。

このプロセスを経て、血球を多く取り込めば取り込むほど脾臓が大きくなり、脾臓が大きくなるほど、取り込まれて破壊される血球がますます増加するという負のスパイラルにおちいることにつながります。

脾機能亢進症に伴って重度の貧血になると、日常生活動作によって疲労感や息切れなどの症状が生じますし、白血球が少なくなると感染症を合併しやすくなる、あるいは血小板が減少すると皮下出血が出現しやすくなり軽度の外傷でも容易に出血しやすくなります。

脾腫の検査と診断

腹部エコー検査

一般的に、左上腹部や背中の左上部に膨満感や疼痛症状を患者さんが訴える場合は、身体診察で脾腫が疑われます。

脾腫を診断する上で、触診を用いて脾腫をある程度は判定できますが、腹部超音波検査などの画像検査を同時に実施して、脾臓の大きさを測定することもあります。

脾腫の原因を深く追求するためには、慢性的な炎症状態、急性の感染症、血液の悪性腫瘍疾患など幅広く病気を鑑別して考慮する必要があるため、超音波検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査を含めた腹部画像検査や血液検査などを行うことがあります。

また、MRI(磁気共鳴画像)による画像検査でも脾臓の大きさや他の臓器を圧迫していないかを調べることができるだけでなく、脾臓を通過する血流を評価することもできます。

脾腫の場合には、血液検査所見にて赤血球、白血球、血小板の血球数の減少がみられますし、顕微鏡で詳細に調べた血球の大きさや形が異型となっていることが認められることで、脾腫の原因を突き止める手がかりになることもあります。

脾臓に針を刺して組織を切除すると、止血できない出血を引き起こす恐れがあるため、組織を簡単に採取することはできませんが、他疾患の治療目的で行った手術で摘出した脾臓が腫大していた場合には、臓器を病理検査に提出して脾腫の原因が判明することもあります。

脾腫の治療

CARE

脾腫の治療に関しては、一般的には脾腫を引き起こしている背景となっている病気を根本的に治療することで対応しますが、時にスポーツ損傷や交通外傷によって腫大した脾臓が裂けて大量に出血している際には脾臓を摘出しなければならないこともあります。

脾腫を認める場合には、脾臓組織が損傷を受けると出血が制御できなくなる危険性が存在するため、人と接触するスポーツをあらかじめ回避するなど、腹部に物理的な外力が加わらないように配慮する必要があります。

脾臓の外科的な摘出術は、特定の細菌による感染症を起こしやすくなるといった副作用が生じるためにできる限り回避する必要がありますが、脾機能亢進状態によって重大な問題が生じている場合には脾臓を手術で切除しなければならないこともあります。

特に、脾腫に伴う赤血球の破壊が急速で、重度の貧血が起きている場合や脾臓が大きくなりすぎて脾臓の一部に出血や壊死所見がみられる場合には、脾臓自体を早期に外科手術で摘出する必要性が高くなります。

やむを得ず脾臓を摘出した場合には、免疫機能が低下して感染しやすい状態になる恐れがあるので、肺炎球菌や髄膜炎菌、インフルエンザ菌、インフルエンザウイルスに対する予防的なワクチン接種や抗菌薬服用などの対応が必要となる場合もあります。

まとめ

これまで、脾臓の痛みの原因になる脾腫の診断と治療を中心に解説してきました。

脾臓が異常に大きくなった状態を脾腫と呼んでいて、さまざまな原因疾患に伴って合併することがあります。

脾腫に伴って認められる症状のほとんどは基礎疾患によるものですが、腫大した脾臓が隣接している胃を圧迫することで脾腫自体によって早期満腹感が引き起こされることもありますし、左上腹部痛の原因につながる場合も存在します。

感染症が慢性的に繰り返される、貧血の症状が目立って日常生活で疲労感や呼吸苦などを自覚する場合には脾腫が疑われます。あるいは血小板が減少して皮下出血などの症状が認められる際には、脾機能亢進症に伴う汎血球減少症を疑う必要があります。

脾腫に対する治療策としては、まずは原因になっている病態や病気の治療を優先したうえで、脾臓の機能が病態に影響を及ぼして血球減少がひどくなっていると判断される場合には、時に腹腔鏡を用いた手術療法などによって脾臓の摘出が必要になるケースもあります。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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