腱鞘炎との違いは?手首の小指側が痛いTFCC損傷の診断と治療法

手首が痛い女性
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手首に痛みを感じることはよくありますが、特に小指側だけが痛いという場合は、もしかしたらTFCC損傷による痛みかもしれません。TFCC損傷とはどのようなものなのでしょうか。TFCC損傷の特徴や腱鞘炎との違い、診断と治療法について解説します。

TFCC(三角線維軟骨複合体)とは

TFCCとは?

TFCCは三角線維軟骨複合体の略で、手首の小指側にある組織の総称です。総称と言うとおり、一つの構造物、例えば靱帯とか軟骨、骨をさしているのではなく、その場所にあるさまざまなものを総称してそう呼んでいます。

この場所にあるものは1つ1つが仕事をしていると言うよりも、全てのものが共同して働くことによって手首の動きをスムーズにしているため、複合体として捉え、診察し、治療をすることになるのです。

では、TFCCはどのような働きをしているのでしょうか。

手首というのは前腕と手を繋ぐ関節です。そして、手の動きは非常に精密にコントロールされることで、さまざまな活動を可能にしています。スムーズに手首を動かすための構造が手首には集中しているのです。

前腕の方からみていきましょう。前腕には橈骨と尺骨という二本の骨があります。一本の骨ががっしりと存在するだけであれば、肘で骨の動きは制限されてしまい、手は肘を中心に曲げ伸ばしをすることができるだけで、手を表に向けたり裏に向けたりするために前腕をねじる動きはできなくなってしまいます。

橈骨と尺骨の関係は非常に繊細です。まず、肘関節で上腕骨としっかりとした関節を作るのが尺骨という、小指側にある骨です。そして、もう一つの橈骨という骨は、手のひらを上に向けた状態で尺骨より親指側に平行に付着しています。橈骨の肘側の関節は、円柱状になっていて、尺骨との間に関節を形成していて、スムーズに橈骨がくるっと回ることができるようになっています。

一方で、橈骨と尺骨の手首側の接着はある程度しっかりしており、二本の骨が接する場所はしっかりと固定されています。とはいえがっちりと固定されてしまっては二本の骨の位置関係が変わらず、前腕をねじる動きができなくなってしまいます。

実はTFCCは、このような前腕の橈骨と尺骨を繋ぐ構造物としての働きを担っています。二本の骨が離れることなく、かといってがっちり固定されてしまうこともなく、といった絶妙な強さで結びつけているのです。具体的には親指側の橈骨の方をしっかり把持し、尺骨側の固定をやや柔らかくすることで、手首をうまく動かせるようにしているのです。

TFCCは前述のようにさまざまな構造物が複合してできているものです。特にしっかりと固定するべき橈骨のあたりでは靱帯ががっちりと固定していますが、尺骨の近くでは腱や軟骨など、比較的柔らかい構造物が常にクッションとしての働きを果たしています。

まとめると、TFCCは手首の関節部分にあり、前腕の骨がスムーズに動けるようにしっかりと、かつ柔軟に固定する役割を担っている組織になります。

TFCC損傷とは

スマートフォンを持つ女性の手

TFCC損傷はその名の通り、TFCCが何らかの原因で痛んでしまい、種々の症状が出てくることをいいます。痛んでしまう原因はほとんどの場合が外傷になります。外傷に加えて、加齢性にダメージが蓄積してくることによって炎症が起こり、痛みが起こってくるのです。

外傷として多いのが、手首に負担がかかるスポーツや仕事です。スポーツで言えば、野球やテニス、ゴルフのように手首をぐるんとまわし、なおかつ一過性に強い力がかかるスポーツがTFCC損傷を起こしやすいスポーツとして知られています。仕事としては、繰り返しドライバーを回す仕事や、手や指をよく使うデスクワークが原因となります。

加えて、最近多くみられる原因がスマートフォンの使いすぎです。スマートフォンを使うときは手は固定していて動かないため損傷を起こさないような印象がありますが、小指で本体を支えながら親指で画面を操作するような片手持ちの場合はとくに、小指に常に力がかかり続けてしまうためTFCCに負担がかかり、損傷を起こしてしまうのです。

他の原因として起こりうるのが、手首の骨折です。骨折をしたときには骨が損傷しますが、骨が損傷されることでTFCCが牽引されて痛みが起こってくる場合や、骨折をかばおうとして普段しないような手首の動きが増えることによってTFCC損傷が起こってきます。

骨折による痛みが起こった場合は、痛みが主症状であるTFCC損傷はなかなか見つかりません。しかし、骨折がだんだん治ってきて普通に動かせるようになっても痛みが残っている場合、TFCC損傷を疑うことになります。

加齢による影響も考慮しなくてはなりません。加齢がおこるとだんだんと手首の形状が変化してきます。また、骨の長さもだんだんと変わってきます。このような骨の位置関係のズレがTFCCを引っ張る力となり、損傷が起こりやすい原因となります。

一部、稀ですが先天的に尺骨と橈骨の長さが大きく違うという人もいます。このような人も常にTFCCが引き延ばされていますから損傷が起こりやすくなります。

TFCC損傷の症状の特徴

雑巾を絞る手

TFCC損傷を起こすとどのような症状が起こってくるのでしょうか。主に手首の痛み、手首の不安感、手首の関節可動域制限といった症状が出てきます。

手首の痛みは、最も多く、そして初期からみられる症状です。特にTFCCが存在する小指側の手関節に痛みを感じるのが特徴です。初期のように症状が軽度であれば、安静にしていれば痛みは感じません。しかし、ドアを回す、ぞうきんを絞る、といった手首を回すような動作を行うと痛みを感じます。

重症化してくると、安静にしていても痛みを感じるようになります。特に少し手首を動かしただけでも痛みが起こっているようであれば、早期に治療を開始することが勧められます。

手首の不安感というのは、手首が抜けてしまうのではないかという感覚に陥ることを言います。TFCC損傷では手首を安定化させるためのTFCCが損傷によって引き延ばされています。そのため、力がかかったり手首を動かそうとしたりしたときに普段では感ることのない引っ張られるような、手首が抜けてしまうような感覚を感じるのです。

損傷を受けて不安定になった後は、組織の修復がおこります。組織の修復には炎症反応が起こってくるのですが、炎症反応が起こった後は組織は堅く、瘢痕化してしまいます。そのため、長期間にTFCC損傷が放置された後で治った場合には手首が動かしにくいという症状を感じる場合があるのです。

TFCC損傷と腱鞘炎の違い

手首が痛い女性

手首が痛いとなると、TFCC損傷以外に腱鞘炎を思い浮かべることも多いでしょう。どちらも手首や手に痛みが生じてくるような病気で、機能障害を引き起こすこともあります。ですが、損傷する場所が違いますので、区別をすることが重要です。

TFCC損傷は、これまでにも説明してきた通り手首の内側部分にあるTFCCが損傷を受けた状態を言います。手首の安定性にかかわるTFCCの損傷によって、手首の動きが不自由になり、痛みや腫れや特定の動きでの制限が認められます。

一方で腱鞘炎は、手首や手の動きを制御する腱の周囲の腱鞘が炎症を起こす状態を言います。腱鞘炎は手を繰り返し利用することによって引き起こされてきます。こちらも手首の痛みや、腫れが見られます。手首の痛みは特定の動きや姿勢で悪化することがあり、TFCC損傷とは違った場所が痛みますので、鑑別が可能です。

それぞれ、基本となる安静の治療は共通していますが、動かしてはならない方向がやや違うのと、重症化してきた時の治療が異なってきますから、まずは鑑別が重要になります。

TFCC損傷を放置するリスク

TFCC損傷は、軽症であれば安静にしていれば治ってくることが多い病気です。しかし、だからと言って放置していいわけではありません。損傷が起こった原因となる動作を続けることによって、さらなる悪化をきたすことがあります。

悪化してくると、痛みの程度が強くなるのはもちろん、安静時でも痛みを感じるようになります。放置すると日常生活に支障をきたすこともあるので、一度は専門家の診療を受けておいた方がいいでしょう。また、治療しても治らない場合には、再度受診をして適切な方針を立てる必要があります。

TFCC損傷の検査と診断

TFCC損傷は、診断プロセスとしていくつかの段階を踏みます。

まずは症状を評価します。患者さんの症状や痛みの特徴、手首の動きの制限についてしっかりと聴取します。続いて身体検査です。手首の外観を確認したり、痛みや腫れや手首の動きの制限などについて実際に動かしながら見ていきます。

特に手首の特定の動きや圧を引き起こす点を特定することによって適切な診断に近づきます。特殊なテストとして、手首を動かしてみて特定の動きや抵抗によって痛みや不安定さが生じてくるかを確認するものもあります。

続いて行うのは画像検査です。TFCC損傷は、レントゲンで直接映るわけではありません。しかし、レントゲンを撮影することで骨に異常がないかを確認し、骨の異常による痛みを除外することができます。他にはMRI検査をすることによって、靱帯や軟骨の損傷の状態をより詳細に検査することができます。

これらの診断をしていく最中で、他の病気が疑われる所見がないかも確認していきます。腱鞘炎や尺骨骨折は鑑別疾患となりますから、それらの病気でよく見られるような所見を確認していきます。

TFCC損傷の治療法

サポーターを着けた手首

TFCCと診断された場合にはどのような治療が行われるのでしょうか。

保存療法

軽症であったり、今まさに腫れて熱を持っていたりするような場合には保存療法が行われます。痛んでいるTFCCを動かしてしまうと、さらに損傷が進んだり、炎症がひどくなったりしてしまいます。そのため、安静にすることで症状が進行することを防ぎ、だんだんと修復されてくるのを待ちます。

局所の安静を保つための装具やテーピングは非常に有効です。手首が動いてしまうことが増悪の一番の原因ですから、しっかりと固定して不意に動くことが無いようにすることは治療の根幹になります。

安静にするだけではなく、局所の冷却は重要なステップとなります。炎症を起こしている組織は熱を持って、それによって痛みを感じます。冷却によって炎症を抑えることで、痛みが治まるだけではなく過度の炎症によって組織が損傷してしまうリスクを軽減することができます。

マッサージやストレッチも有効です。とはいえ、手首を安静にするというのが基本ですから、手首をなるべく強く動かさないようにしながら行います。

TFCCの周囲の筋肉が凝り固まっていることでかえってTFCCに負担がかかっている場合があるため、そのような手首の運動に関わる筋肉や組織をマッサージすることで動きやすくすることにより、TFCCの負担を軽くするのです。

ただし、こうしたマッサージは実際にどのような組織が関わっているのか専門的な知識が無ければ実施してはなりません。TFCCを動かしてしまい、かえって状態を悪くしてしまう可能性があるからです。

手術

安静にしても症状がなかなか改善しない場合には手術が行われます。概ね2~3か月の安静でも改善がしない場合に考慮されます。

まず、骨の長さが異なることによって損傷が起こっていると考えられる場合には骨の長さを変えるような手術が行われます。そのような異常がない場合は、関節鏡などを使用してTFCCを縫合したり、部分的な切除をしたりすることで症状の改善を図ります。

PRP療法

PRP療法とは多血小板療法の略です。血液中の成分である血小板を濃縮して使用する、比較的新しい治療法です。

元々血小板自体にある機能として、傷ついた場所に集まって血液を固める機能がありました。その際、組織や組織を構成する成分を成長させる成長因子を多く放出します。この成長因子があると組織が早く修復されたり、あまり治りが良くない組織が良く修復されたりします。

この機能を応用して、濃縮した血小板を投与することによって組織を回復させようというのがPRP療法です。

血小板を使うと言っても輸血を使うわけではなく、自分自身から採血した自分の血液を使用します。血液を遠心分離することで血小板成分のみを抽出し、患部に注射します。すると、その場所で成長因子が大量に放出され、組織の修復が進行することになります。

他人の成分を使用するわけではありませんので安全性が高く、また侵襲も軽微であるため最近よく行われるようになってきた治療法になります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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