全身が痒いときは何科?皮膚掻痒症と痒みを引き起こす病気

皮膚がかゆいのにもかかわらず、外表上は特に病変がなく、掻痒感の症状だけを自覚することを皮膚掻痒症(ひふそうようしょう)と呼んでいます。
皮膚掻痒症では、全身にかゆみが起こる場合や、外陰部や頭部などに局所的に認められる場合があって、その発症原因は内臓疾患や薬剤、乾燥肌、メンタル不調などさまざま挙げられます。
ここでは、発疹などの目立った病変を伴わないかゆみを取り上げ、皮膚掻痒症を中心にその特徴やかゆみを抑えるのに効果的な薬を紹介します。
目次
発疹がないのに全身がかゆくなる皮膚掻痒症

皮膚掻痒症は、皮脂の欠乏や発汗の低下などによる角層の乾燥によって、外部の刺激から皮膚を守るバリア機能が失われている状態であり、皮膚科の外来を受診するひとの1割弱は皮膚掻痒症の患者であると言われています。
発症頻度としては、やや女性に多い疾患であり、特に妊産婦やHIV患者、慢性C型肝炎や尿毒症の場合に認められやすいと指摘されています。
通常よりも知覚神経が刺激を受けやすくなり、全身のあらゆる部位において痒みがでてしまい、慢性的に痒みが続くこともありますし、夜間に痒み症状のためによく眠れないという方もいます。
皮膚掻痒症が引き起こされる原因は、皮膚の乾燥、普段から服用している薬の副作用、あるいは内臓の異常に伴う症状ということが考えられますし、引っ搔いた部位に炎症を起こして、二次的に湿疹などが形成されることも見受けられます。
もっとも頻度として多いのは、皮膚の角層で水分が低下することに伴う皮膚の乾燥です。特に高齢者においては、皮膚の水分や皮脂の分泌が若年者よりも少なくなるため、冬の時期などに皮膚が乾燥してかゆみが起こることがあります。
また、かゆみの原因となる代表的な薬剤としては、利尿剤や解熱鎮痛剤、抗菌剤など非常に多岐にわたります。
内臓の異常によるものとしては、肝硬変などの肝臓の病気をはじめとして、慢性腎不全や血液透析中の場合、甲状腺機能異常などの内分泌疾患、白血病や悪性リンパ腫などの血液疾患などが皮膚掻痒症の原因となる場合もあります。
それ以外にも、身近な疾患である痛風や糖尿病でも皮膚掻痒症は起こりますし、精神的な要因が関与して皮膚がかゆくなることも考えられています。
全身の痒みを引き起こす病気
全身の痒みを引き起こす病気はいくつもあります。
肝臓病による痒み

かゆみの大多数は皮膚疾患に伴って出現しますが、肝臓病の場合には皮膚のかゆみは皮膚の問題に由来しないことがあります。
肝臓病を抱えている患者さんの多くがかゆみ症状に悩まされて、普段の生活の質が著しく低下することもありますし、肝臓病に伴うかゆみの特徴として、一般的なかゆみ止めの薬が効きにくいという点が挙げられます。
肝臓病そのものの影響で胆汁が停滞して胆汁の流れが悪くなることによって皮膚のかゆみの原因につながります。
また、C型肝炎の治療薬であるマヴィレットという薬剤の副作用として皮膚のかゆみが起こることも想定されます。
腎疾患による痒み
腎臓は体の中や血液の老廃物を尿として排出する臓器です。腎臓が悪くなると老廃物が血中や皮膚にたまり、それらが皮膚の中にある痒み受容体のミュー・ペプチド受容体を刺激します。
その結果、電気信号が脳へ伝わって痒みを感じるというメカニズムになっており、この現象は腎機能が高度の低下した透析患者で多く見られます。
また、腎臓が悪くなると皮膚が乾燥することも皮膚の痒みのひとつの原因となります。
腎臓の働きが悪くて、皮膚がかゆい場合には、こまめにお風呂に入ったり、皮膚に湿気を与えるために外用薬を塗ったりすることが痒み対策になります。
バセドウ病による痒み
バセドウ病では、甲状腺機能亢進状態に伴って、血管拡張・多汗・皮膚の温度上昇などがおこります。
そうした背景が影響して、バセドウ病を治療する前段階から皮膚のかゆみ等の症状が認められることがあります。
バセドウ病にくわえて、アトピー性皮膚炎を合併していると皮膚や毛髪にも特徴的な症状があらわれます。
特に、皮膚症状の中では、かゆみがもっとも多く、患者例の半数近くが皮膚過敏になり、皮膚湿疹も30%程度の人に出現します。
また、メルカゾールなど抗甲状腺薬による治療を開始した以降も、10人に1人くらいが、投与後、2週間前後で皮膚のかゆみを自覚します。
かゆみの程度が軽症の場合は、抗甲状腺薬を休薬せずに、抗ヒスタミン薬を併用しながら経過観察することが一般的です。
糖尿病による痒み
糖尿病で引き起こされる症状のひとつに、皮膚のかゆみがあります。
糖尿病は全身のあらゆる場所に合併症を引き起こし、皮膚疾患の発症率も高く、症状を放置すると重篤な状態へと悪化する場合があります。
糖尿病で皮膚が乾燥するのは、脱水が原因のひとつとして考えられます。
糖尿病で起こる皮膚のかゆみの主な原因は、高血糖による脱水症状であり、その背景には、血糖値が高い状態が継続すると腎臓が機能し、血液中の糖が尿として排出される際に、体の中の水分も一緒に排出されるため、脱水症状が起こりやすくなると考えられています。
通常では、高血糖になると、タンパク質がブドウ糖と結合して細胞が劣化する糖化が起こり、皮膚の老化を引き起こして皮膚乾燥につながります。
また、糖尿病が進行すると合併症を引き起こし、三大合併症のひとつである神経障害があらわれ、この神経障害は自律神経系の機能にも影響を及ぼします。
自律神経が乱れて、皮膚から発汗しにくくなることで、皮膚表面の水分量を減らして、皮膚の乾燥やかゆみが引き起こされます。
糖尿病で障害の起こる神経には、胃腸や心臓などの内臓の働きを調整する自律神経と、手足の感覚や運動をつかさどる末梢神経があり、そのどちらも生命活動を維持するために、重要な役割を有しています。
コントロール不良の糖尿病に伴う高血糖状態によって、自律神経の働きが悪くなると、発汗作用が阻害されて、汗が出なくなることで皮膚が乾燥し、皮膚のバリア機能低下によって、かゆみや湿疹を引き起こします。
かゆみを抑える薬

かゆみを抑える効果を持つ、代表的な薬について見てみましょう。
抗ヒスタミン薬
皮膚のかゆみ症状が強い際には抗ヒスタミン剤を内服してかゆみを抑えることを期待します。
代表的な軟膏薬としては、クロタミトン含有製剤(オイラックス軟膏)やジェフェンヒドラミン含有製剤(レスタミンコーワ軟膏)といったかゆみ止めの作用のある種類があります。
約半分程度の皮膚掻痒症の症例においては、かゆみ止めの作用を有する抗ヒスタミン薬が一定の効果を示すといわれています。
掻痒症改善薬
かゆみの原因となっている病気があれば、その治療が優先的に実施されますし、搔痒症を改善する薬として皮膚が乾燥している場合には保湿剤を塗って対応します。
皮膚搔痒症の発症原因として最も頻度が高いドライスキンの場合には、まずはヘパリン類似物質製剤(ヒルドイド)や尿素含有剤(ウレパール)などの保湿剤を使用し、効果が乏しければ他の治療方法に切り替えることを検討します。
漢方薬

抗ヒスタミン薬や掻痒症改善薬を使用しているにもかかわらず、なかなか症状の改善が得られない場合には、漢方薬を用いることもあります。
漢方では、東洋医学の独特な考えである「気・血・水(き・けつ・すい)」から身体の不調を探っていくことが往々にしてあります。
皮膚掻痒症は、乾いた外気因子にくわえて、皮脂の欠乏や発汗の低下などが複合的に合わさって生じる皮膚の病気であり、漢方の世界では「血虚」が原因であると考えられています。
血液や血流は全身に酸素や栄養を行き渡らせる役割があるので、全身の循環が滞ると皮膚に栄養が行き渡らなくなり、皮脂や汗の分泌低下が起こることで、皮膚の乾燥に繋がると考えられています。
漢方薬のメリットは、皮膚が乾燥しにくいよう体質改善が望めるだけでなく、皮膚のかゆみで生じる皮膚以外の問題も同時に改善できることが期待できる点です。
皮膚の症状や、睡眠障害など精神症状が合併しているか、あるいは個々人の体格や表情などを考慮して、適合した漢方薬が処方されます。
具体的には、血虚が顕著で乾燥が強い人には当帰飲子(トウキインシ)、不眠症や精神不安など心理的な要素も多分に加わっている人には加味帰脾湯(カミキヒトウ)、高齢で体質的に虚弱な人には人参養栄湯(ニンジンエイヨウトウ)などを用います。
発疹がない全身のかゆみは何科に行くべき?

かゆみの症状に対して、一度掻きはじめると、掻くこと自体が皮膚の刺激につながってさらに症状が悪化して悪循環を生じます。
強いかゆみ症状は大きなストレスとなるので、合併して睡眠障害を引き起こす、あるいは不調に伴って日常生活に悪影響が出ることもありますので、皮膚掻痒症を認める際には皮膚科などに受診して適切な治療を受けることが重要です。
また、皮膚掻痒症の一部には、腎臓や肝臓の病気、糖尿病、各種がん疾患、薬の副作用などが原因となっている場合も考えられますので、それぞれの専門医に相談することをおすすめします。
まとめ
これまで、発疹がない全身のかゆみは何科に行くべきか、そしてかゆみを抑える薬を中心に解説してきました。
皮膚に発疹や湿疹がないのに、かゆみを自覚する皮膚掻痒症では、全身にかゆみが出る場合もあれば、外陰部や肛門周囲、頭部など身体の一部に症状が出現することもあります。
皮膚掻痒症を防ぐには、皮膚を清潔に保って日々のスキンケアが重要です。汗などでかゆみ症状が出やすくなるため、室内環境を常日頃から適温、適湿にすることを心がけましょう。
通常、皮膚掻痒症の原因となる疾患がある場合には、根本的に病気を治療することが優先されますし、ドライスキンの状態であれば有効的に薬物治療を活用することもあります。
皮膚搔痒症の症状緩和のために、皮膚の乾燥を防ぐ保湿剤(ヘパリン類似物質やセラミド、ヒアルロン酸など)のクリームや外用ローションを塗る治療が主体となり、かゆみ症状がひどい場合には抗ヒスタミン薬を使用することもあります。また漢方薬などが有用となることもあります。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。