皮下気腫はなぜ起こる?症状の特徴と原因

皮下気腫とは、皮下組織内に空気が貯留した状態であり、肺、気管支、食道、腸管などの臓器が損傷を受けることで生じます。また、胸腔ドレーンの挿入、内視鏡検査、歯科治療といった医療行為に伴って発症することもあります。ここでは皮下気腫について詳しく解説します。
目次
皮下気腫とは

皮下気腫とは、外部から皮下組織の中に空気が入り溜まった状態を指します。
皮下に空気が溜まる経路としては、肺や気管・気管支などの胸腔内の組織が破れる場合、あるいは皮膚や口の中を伝って直接空気が入ってくる場合が考えられます。
また、転倒や転落、交通事故などにともなう肋骨や胸骨の骨折など外傷などに伴って胸腔内の組織が損傷を受けると、気胸や縦隔気腫を起こすことがあり、皮下気腫の原因となります。
皮下気腫や縦隔気腫は、息をこらえて胸腔内部の圧が亢進すると発生し、肺気腫や間質性肺炎など肺に病気がある場合にも発症することがあります。
それ以外にも、人工呼吸器の使用により肺へ圧力がかかりすぎてしまい、気胸が発生することもありますし、医学的処置の一環として行う、胸に溜まった水や空気を抜くための胸部への穿刺、歯科治療、胸部や腹部の手術などが皮下気腫の原因となることもあります。
皮下気腫の症状

皮下気腫は特に痛みをともなうようなことはなく、皮膚を押したときにぶつぶつと小さな空気の溜まりがあることがわかる程度のことが多く、皮下気腫による自覚症状はほぼないと考えられます。
皮下気腫では疼痛を認めることはほぼないため、症状に気づきにくいことが知られていますが、ある程度の空気が皮下組織内に漏れれば、患部を触ったときに握雪感(あくせつかん)を感じることができます。
握雪音とは、胸膜摩擦音とも呼ばれていて、ザクザクと雪を握るような感触が得られて、雪を握りしめたときの「キシキシ」、「ギューギュー」というのに似た音が聴取できます。
皮下気腫を生じる部位によって症状はさまざまであり、皮下部の腫脹以外に、疼痛、気分不快、腹部膨満感などを呈することもあります。
さらに、皮下組織内の空気の流出が止まらず皮下組織内に貯留し続けた場合には、胸痛が出現することもありますし、皮下に溜まった空気が気管を圧迫して呼吸困難が出現する場合があります。
皮下気腫が頭頸部に進展すると鼻声、複視などを起こすこともありますし、下部前胸部で心音に一致した捻髪音(ねんぱつおん)が聞こえるハマン徴候が認められることもあります。
ハマン徴候とは、心拍動によって縦隔内の空気が圧迫されることが原因で起こり、特に吸気時や左側臥位で聴取できることが多いと言われています。
医療行為にともなう皮下気腫

皮下気腫は次に挙げる医療行為に伴って発症することがあります。
胸腔ドレーンの挿入
気胸などを発症して、緊急的に胸腔ドレーンを挿入する処置を実施することがあります。
胸腔ドレーンを挿入すると、皮下気腫ができることがあり、その原因としては気胸などを起こして、胸腔内の空気が何らかの理由で皮下にまで空気が流入することが挙げられます。
他にも、外傷によって皮膚を損傷した場合にも、空気が皮下に流入することで皮下気腫を発症することが想定されます。
胸腔ドレーンを挿入して皮下気腫が発生する際には、皮下気腫の部位をマーキングして、皮下気腫の領域が拡大していないかどうかを確認することが重要となります。
万が一、知らず知らずのうちに皮下気腫が拡大して気がつかない場合は、胸腔内にかなり空気が流入することに伴って、患者さんが呼吸困難を自覚する、あるいは酸素飽和度(SpO2)が低下する、呼吸音が減弱するなど呼吸状態が悪化することも考えられます。
基本的には、確実に胸腔穿刺の処置によって胸腔内の空気成分をドレナージできていれば皮下気腫は徐々に改善されて消失していきますが、胸腔ドレーン挿入中に皮下気腫が増悪する場合には、ドレナージ不足が疑われます。
気胸は、肺が損傷しており、空気が胸腔内に流入してきている状態であり、適切にドレナージされていれば胸腔内の空気は減少していきますが、十分にドレナージできていない場合は、胸腔内の圧力が高まり、皮下に空気が流入することで皮下気腫が増悪します。
また、ドレナージチューブの屈曲による閉塞が起こっている、あるいはドレナージチューブがU字に曲がって胸腔内の漿液性分泌物によって適切な陰圧が維持できていない場合などにおいて皮下気腫が引き起こされるケースもあります。
さらには、ドレナージキットの圧設定が医師の指示より低圧の状態である、胸腔ドレーンを挿入している創部縫合が緩んでいる、胸腔ドレーン内の排液量が満杯である、吸引チューブが中央配管に接続されていない状態である際にも皮下気腫が増悪する例があります。
皮下気腫が増悪する場合は、まずは患者さんの呼吸状態を確認し、その後に胸腔ドレーンのドレナージチューブに問題があるかどうかを確認し、適切な圧で吸引されているか、エアリークはあるかなどを確認することが重要です。
内視鏡検査による消化管穿孔
内視鏡検査による皮下気腫の合併症はまれではありますが、存在します。
上部消化管内視鏡検査にともなう稀な偶発症として、1)出血、2)空気塞栓症、3)皮下気腫が挙げられます。
また、大腸穿孔による皮下気腫は、後腹膜気腫を経由して発症すると考えられていて、結腸が後腹膜に直接穿通して腸管ガスが後腹膜に迷入し後腹膜気腫をきたす、あるいは結腸の漿膜下穿孔から腸間膜気腫をきたすケースが考えられます。
いずれの経路をたどるかは、先行した結腸の解剖学的位置や穿孔部位の壁在性、深達度によります。
親知らずの抜歯などの歯科治療
親知らずの抜歯などを含めた歯科治療によっても皮下気腫が発症するリスクがあります。
例えば、エアータービン、エアーシリンジ、歯科用レーザーからの送気圧入、あるいは根管治療中の過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムによる局所洗浄、歯科治療時あるいは治療後の咳やくしゃみによる急激な呼気圧上昇などによって引き起こされる可能性があります。
皮下気腫の発生頻度としてはエアータービンによるものが一番大きいですが、口腔治療で皮下気腫を引き起こしやすいリスクファクターとしては、不適切な装置の使用、粘膜骨膜弁の損傷、必要以上に広い骨膜剥離、下顎骨舌側の骨欠損などが挙げられます。
多くは自然治癒を期待できる

症状の程度によって皮下気腫の治療は異なりますが、多くの場合には皮下気腫は自然に吸収されるため特別な処置は不要です。
軽度の皮下気腫においては、空気が漏れている状態が持続しない限り数日で回復するか、咳止めと鎮痛剤を使用しながら数週間安静にすることで治癒が期待できます。
基本的には、エアリークのない皮下気腫は経過観察で軽快しますが、気管や消化管を損傷している場合は外科的な手術適応に該当し、気胸を合併している場合、また胸痛症状が強い場合は胸腔ドレナージを実施します。
肺や気管、気管支に損傷があり空気が漏れ続けていると呼吸困難を合併するため、一時的に皮膚から皮下の空気を針や管を入れて抜くこともありますし、手術や胸膜癒着術などによって空気の通り道を塞ぐ処置を要することもあります。
縦隔気腫とは

縦隔気腫とは、何らかの原因で縦隔に遊離ガスが存在する病態を指しています。
聴診上、心収縮期に同期した捻髪音が聞かれ、胸部エックス線撮影やCT検査で発見され、特に大動脈弓の外縁で明瞭にみられることがあります。
縦隔気腫の発生原因としては食道損傷、気管気管支損傷、ガス産生菌感染症などが挙げられます。
特発性のものもあり、自然気胸と同様に若年男性に多く、安静療養にて1週間前後で軽快するタイプがあります(特発性縦隔気腫)。
特発性縦隔気腫は、基礎疾患のない健康な若年者に多く、突然に胸痛・呼吸困難を起こす病気であり、なかには、頚部痛・咽頭痛や飲み込みにくさを訴える場合があります。
これらの症状は気胸とほとんど変わらないので、症状だけでは気胸なのか特発性縦隔気腫なのかは判断がつきません。
特に、頸部の皮下気腫を合併した場合には、触診で頸部の握雪感を得ることがあります。
主な治療は原因によって異なりますが、保存的に経過観察できる場合もあれば、緊急にドレナージや外科的治療を必要とする場合もあります。
縦隔気腫の症状の特徴
縦隔には心臓や大血管、食道、気管などの重要な臓器が存在しているため、この部分に異常な空気の溜まりができると胸痛や呼吸困難などの症状が現れます。
また、縦隔気腫によって気管が圧迫されると、咳や嗄声(声がれ)が生じることがあります。
咳は乾性咳嗽(からぜき)であることが多く、痰を伴わないのが特徴です。嗄声は声のかすれや声量の低下として現れ、時には失声することもあります。
縦隔気腫の患者さんは、突然の胸痛が生じるとともに、前胸部に皮下気腫が認められ、時に皮下気腫の範囲や程度が悪化する場合があります。
縦隔内に空気が急激に流入すると、縦隔内臓器が圧迫されてショックに陥り、ショック症状やチアノーゼを呈する場合があります。
若者にも発症する特発性縦隔気腫
縦隔気腫には原因不明の特発性と、原疾患に基づく続発性があります。約半数は原因が不明であり、特発性は10代半ば~20代前半に発症することが多いです。
特に、特発性縦隔気腫は、高身長、痩せ型の基礎疾患を伴わない若年男性に好発します。
特発性縦隔気腫の原因は、喘息発作や咳嗽、嘔吐、運動などの胸腔内圧上昇時に発症しやすいといわれていますが、明らかな誘因を認めないことも多いです。
特発性縦隔気腫の多くは肺胞が破裂するために生じると考えられていて、急性発症の嚥下や吸気で増悪する前頚部痛、胸部痛が特徴的な症状です。
特発性縦隔気腫の半数以上に皮下気腫も認め、胸骨後部の胸痛や呼吸困難、咽頭痛、嚥下痛、嚥下困難などの症状を訴えるケースがあります。
まとめ
これまで、内視鏡検査や歯科治療でも起こる皮下気腫の症状などを中心に解説してきました。
皮下組織内に空気が貯留してしまう皮下気腫は、自然と吸収されるために多くの場合で経過観察となります。一方、皮下気腫は急激に症状が進展し、皮下気腫の発生部位によっては重症化して緊急手術を要する場合もありますのでじゅうぶん注意する必要があります。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。