不整脈や心筋症と似ている?スポーツ心臓についてのよくある疑問

健診などでスポーツ心臓と指摘された方もいらっしゃることでしょう。スポーツ心臓は脈が遅くなるなど心臓の病気との共通点がありますが、ハードな運動に伴う生理的な適応現象であると考えられています。ここではスポーツ心臓を取り上げ、鑑別が必要な病気などについて見てみましょう。
スポーツ心臓とは

スポーツ心臓は、スポーツ選手に見られる症状で心臓が激しい運動に適応して肥大した状態のことであり、心臓が肥大したことによって、一度に送り込める血流量が増大して、心拍数も平均値より低くなるなどの特徴があります。
また、徐脈、収縮期雑音、過剰心音などがみられ、健診などの場面で心電図異常がよくみられます。
激しい身体運動にともなって、左室の心筋重量、壁厚、および心臓内腔の大きさを増大させますが、基本的には心臓の収縮機能と拡張機能は正常に維持されます。
スポーツ心臓の場合には、安静時心拍数は低く、胸骨左縁下部の収縮期駆出性雑音とIII音(S3)および/またはIV音(S4)が聴取されることがあります。
心電図所見においては、徐脈および心肥大のサインがみられ、時に洞不整脈、心房または心室性期外収縮、第1度または第2度房室ブロックなど他の所見が認められることもあります。
スポーツ心臓の診断は臨床所見や心臓超音波検査によりますが、特段治療の必要性は乏しいと考えられます。
スポーツ心臓についてのよくある疑問

スポーツ心臓についてのよくある疑問とその解答を見てみましょう。
スポーツ心臓は元に戻る?
スポーツ心臓は、スポーツをやめて2~3年程度経過すると症状が解消される場合がほとんどであるといわれています。
肉眼的な構造変化は一部の心疾患に類似しますが、有害な影響は特にみられず、ほとんどの場合には、トレーニングを中止することにより構造変化と徐脈は消失します。
ただし、エリートアスリートの約20%では心腔拡大が残存することから、長期データのない現状では、スポーツ心臓が真に良性の状態であるか否かについてはいまだに疑問が呈されている部分はあります。
突然死との関係は?
スポーツ心臓の所見は多くはトレーニングを中止した後、1~3年程度で消失するので、まず心配なものではなさそうですが、スポーツ心臓は過度の負荷によってもたらされた心臓構造の変化であると考えられます。
スポーツ心臓であるから突然死しやすいということではありませんが、運動習慣がある人に心臓拡大、肥大や心電図異常がある場合、これをスポーツ心臓によるものと認識されていたのが、実際には心筋症であったために突然死を遂げたという報告があります。
つまり、突然死を防ぐためには、スポーツ心臓と突然死につながる可能性がある心筋症の両者の鑑別が重要なポイントとなります。
ですから、スポーツ歴が短い、トレーニングの強度が低い、成人以降に運動を始めたような人において、有意に心臓拡大や肥大所見、心電図異常が認められた場合は、スポーツ心臓よりも他の心臓疾患を疑って精密検査をすることをお勧めします。
スポーツ心臓は病気?
長期間にわたって非常に高度なトレーニングを継続している運動選手に心臓の軽度肥大、徐脈(脈拍数が少ないこと)など心電図の異常などが見られることがあり、これらを総称してスポーツ心臓と呼称しています。
スポーツ心臓に見られるこれらの変化は、しばしば心臓の重大な疾患がある場合にみられる所見と類似しており、心臓の異常を示しているという考え方も従来ではありました。
ところが、現在ではこれらの心臓の変化は治療が必要な病的なサインや有意な病気という認識ではなく、高度のスポーツなどの鍛錬による生理的な適応現象であるという考えに落ち着いています。
スポーツ心臓に似ている病気

次に挙げる病気はスポーツ心臓と似ており、鑑別が必要です。
不整脈
不整脈は脈が速くなる頻脈性不整脈と脈が遅くなる徐脈性不整脈に分類されています。
通常では、脈拍数が1分間に40以下になると徐脈に伴って息切れ、めまいなどの症状が出やすくなります。
不整脈には、スポーツ心臓に伴う徐脈など治療の必要性がないものから、命に関わるものまで様々なタイプが存在します。
特に、意識を失う失神症状が認められる、あるいは脈が遅くなって息切れがする際には治療介入が必要な徐脈性不整脈が潜在している可能性があります。
肥大型心筋症
肥大型心筋症の有病率は、これまでの研究対象や調査方法の違いによってばらつきが大きいと考えられていますが、厚生省の調査研究班が1998年に実施した病院へのアンケートによる全国疫学調査によると、全国での推計患者数は約2万人であると報告されています。
肥大型心筋症患者の男女比は約2:1と男性のほうが多く、年齢別の分布では男女ともに60歳代にピークを示しています。
基本的に、肥大型心筋症は、「(1)左室ないしは右室心筋の肥大、(2)心肥大に基づく左室拡張能低下を特徴とする疾患群」と定義されています。
肥大型心筋症の病態把握や重症度判定を目的として、心電図検査、心臓 CTなどを始めとする画像診断、各種全身検索を行い、場合によっては心筋生検を含む心臓カテーテル検査、遺伝子検査などを順次進めていくことになります。
肥大型心筋症は生涯にわたる左室リモデリングを通じて病型や病態が変化し、それぞれの病態に応じて心血管イベントを認める疾患として急性期のみならず長期のフォローアップが重要であるため、循環器専門医に確実に受診することが勧められます。
拡張型心筋症
拡張型心筋症を基礎疾患とした患者は心不全入院のうち15~27%の割合であり、さらに約30~40%は再入院患者であることを考えると、心不全症状を呈する心筋症患者は人口1000人あたり約1~3人と言われています。
特に、拡張型心筋症の家系内において、無症状で左室拡張が認められない症例のおよそ10~20%で5年以内に拡張型心筋症に進展することも報告されており、慎重な経過観察が必要とされています。
拡張型心筋症は、慢性心不全による症状を特徴としており、急性増悪を繰り返す予後不良で進行性の疾患であると同時に致死性不整脈による突然死や動脈の血栓塞栓症を生じることもある病気です。
拡張型心筋症は、左室心筋の構造的、もしくは機能的異常のなかでも特に左室のびまん性収縮障害と左室拡大を呈していることが診断基準の一定要件となります。
二次的に説明できない心筋の構造的、あるいは機能的な異常所見を認めた場合には、拡張型心筋症の早期や前臨床期をみている可能性を考慮しましょう。
継続的なリスク評価、適切な各種検査と治療管理を行うために循環器専門医を受診することが重要です。
まとめ
これまで、不整脈や心筋症と似ているスポーツ心臓の特徴などを中心に解説してきました。
スポーツ心臓に伴う所見と不整脈や心筋症は、時に区別が付けづらいことがあり、症状を放置して取り返しの付かない事態に発展する場合もあるため、油断できない症状であると考えられます。
心配であれば、循環器内科など専門医療機関を受診して、心電図検査や心臓超音波検査を受けるとよいでしょう。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。