「うつる」は誤解!尋常性乾癬の特徴と治し方

腕が赤くなり、かゆみに悩む女性
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尋常性乾癬という病気があります。皮膚がボロボロになって赤く腫れてくる病気です。一見すると他の人にうつりそうな見た目をしていますが、それは誤解です。ここでは、尋常性乾癬がどのような病気なのか、どのように治療するかについて解説します。

尋常性乾癬とは

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乾癬は、皮膚の病気の中でも角化症と呼ばれる病気の一種になります。もともと皮膚の中でも、表皮という最も浅い層は、細胞分裂を活発に行い、新しい細胞にどんどん入れ替わることで維持をされています。

表皮の中でも一番深い層で細胞分裂をした細胞は、角化という変化を起こしながら、だんだんと表層の方へと移動していきます。表層まで到達した細胞は、フケのように、パラパラと脱落していくのです。この角化という変化が何らかの原因で異常を起こしたものを角化症と言います。すなわち、乾癬は皮膚の中でも表皮の病気なのです。 

その乾癬ですが、角化を伴うのとともにもう一つ特徴的なのが、炎症を伴うことによって起こってくる病気ということです。原因は不明なのですが、もともと何らかの遺伝的な素因があるところに、外傷や感染、薬剤などの外的環境因子が関わることによって発症してくるのではないかと言われています。

人種的には白人に多いとされています。日本では、人口の約0.02%と、かなり少ない発症疾患とされています。

尋常性乾癬の症状

乾癬は5種類に分類されています。尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬、乾癬性関節炎、滴状乾癬の5種類です。この中でも特に、尋常性乾癖が、 圧倒的に高い頻度を占めています。

尋常性乾癬は、まず最初に外界から機械的刺激を受けやすい頭皮や肘、臀部、下腿の前面などに散在性に1cmから2cm程度の赤色の小丘疹ができることから始まります。赤い色を示しているのは、その場所で炎症が起こっていることを示します。炎症とともに細胞分裂が盛んになることによって、だんだんと盛り上がってくる、これが丘疹の成り立ちです。

それがだんだんと時間が経つにつれて、表面から細胞がポロポロと落ちてきます。それに伴って表面に銀白色の鱗屑として認められるようになってきます。その周囲は境界が明瞭な紅斑として見られるようになってきます。そして時間とともに、 少しずつ大きくなってくることもあります。 

通常、皮膚が細胞分裂をして、角化して、脱落するまでの期間は45日ぐらいかかります。しかし、尋常性乾癖では、だいたい4日から7日と、顕著に早いスピードで細胞分裂が起こり脱落が起こっているのです。

皮膚がパラパラと落ちてくるため、痒いのではないかと思われますが、あまり痒みが出ることはありません。また、皮疹は乾燥しているのが特徴です。しかし、引っ掻いてしまったりすると、浸出液によって浸潤してくることもあります。

炎症が爪の周囲で起こると、爪の変形を見ることもあります。また時折、 関節の痛みを生じてくることもあります。 

乾癬の皮疹に特徴的なものがあります。まずは、表面の白い部分を削り取り、さらに赤い部分を爪などで軽くこすると、点状の出血が見られます。これをアウスピッツ現象と言います。

もう1つ特徴的なのが、皮疹のない健常な皮膚に、日光を当てたり摩擦を加えたりなどの刺激を加えると、病変部ができてきます。これをケブネル現象と言います。

顕微鏡での見え方

皮疹ができているところの皮膚を取ってきて、 顕微鏡で観察すると、特徴的な像が見えます。角化亢進していることを反映して、過角化と呼ばれる、角化途中の細胞が多く見られる像が見えます。ただし、この角化は十分に成熟する前にどんどんと浅い層へと移動してしまうため、不全角化と呼ばれる、不十分な角化像を見るようになります。

また、炎症を反映した像も見られます。Munro微小膿瘍と呼ばれる、炎症の場所に集中する好中球という細胞が集まっている像が特徴的です。また、炎症を起こしている場所には毛細血管が発達してきますが、尋常性乾癬でも認められます。リンパ球も多く見られるのが特徴です。

尋常性乾癬はうつらない病気

前述のように、尋常性乾癬は、元々体の中に素因がある状態に加えて、何らかの刺激が加わることによって発症します。

感染症ではありませんから、うつることはありません。

ただし、しっかりと診断を受けないうちには注意が必要です。水虫と同じような白癬症は見た目が似ていて、こちらは感染症ですからうつります。診断を受けるまではうつるかもしれないと思っておいた方がよいでしょう。

尋常性乾癬の治し方

尋常性乾癬はどのように治療するのでしょうか。 

外用薬

尋常性乾癬に対する塗り薬としては、ステロイドの外用剤と、活性型ビタミンD3外用剤を使用します。

ステロイド外用薬は、皮膚の炎症を抑える効果があります。しかし、長期に使用すると副作用として皮膚が薄くなってくるというものがあります。そのため、副作用のリスクが少ない活性型ビタミンD3外用薬と組み合わせることによって、用量をへらし、副作用がなるべく起こらないようにしていきます。

内服薬

内服薬としては、免疫反応を抑えるための薬がよく使用されます。

シクロスポリンやメトトレキサートという薬が使用されます。これらの薬は免疫を抑制する働きがあり、皮膚や関節の炎症を抑える効果を発揮します。 

ただし、いずれも副作用があります。 シクロスポリンの副作用としては、腎臓に負担がかかって血圧が上がりやすくなることと、体の抵抗力が少し弱まって風邪を引くと治りにくくなることが挙げられます。

メトトレキサートは関節リウマチの治療薬としても使用されるものです。特に関節炎がある場合に関節への進行や破壊を抑制する効果があります。ただし、肝機能障害の副作用に注意が必要です。

レチノイドという薬は、乾癬で分厚くなった皮膚を正常の皮膚の厚みに戻す効果があります。ただし、これも副作用に注意が必要です。肝臓の機能が悪くなったり、もともと皮膚が薄い唇などの部分が薄くなりすぎて食べ物がしみるなどの症状が出てくることがあります。また催奇形性もありますから、妊婦には投与してはなりません。

アプレミラストという薬は、乾癬に関わる免疫細胞が出すPDE4という物質が、他の細胞に作用しないようにブロックする薬です。副作用としては頭痛や下痢があります。

これらの薬を、現在起こっている症状や副作用の状態などによって使い分けることによって治療をしていきます。

生物学的製剤

生物学的製剤を使うことによって、乾癬の治療は劇的に効果が上がるようになったと言われています。重症のものであっても、外用薬が必要なくなるまで改善することも珍しくありません。

生物学的製剤の作用を簡単に説明すると、情報伝達の途中をブロックすることによって、病気が起こるのを防ぐというものです。

そもそも尋常性乾癬は、様々な細胞からサイトカインという物質が分泌されることによって起こってきます。このサイトカインが細胞の上の受容体に結合することによって炎症が起こってきます。生物学的製剤は、この受容体に結合するのを阻害することによって、炎症が起こらないようにするのです。 

様々な種類の生物学的製剤があり、病気の状態や重症度、年齢など、様々な条件を鑑みて使用する薬剤が決められます。

光線療法 

皮膚に紫外線などを当てることによって、 病気の進行を抑える治療法です。

主にナローバンドUVB、PUVA、エキシマライトの3つの方法があり、病気の状態によって選択されます。

注意点としては、紫外線ですから過度に当たると日焼けをしたような症状になったり、皮膚がんのリスクを高めたりといった問題があります。ですので、どれだけ治療したのかを厳格に記録します。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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