アスピリン喘息は普通の喘息とは違う?急性期と慢性期の治療法

喘息のなかには、一般的な喘息と違いアスピリン喘息というものがあります。アスピリンなどの薬剤を内服することで喘息発作が起こってくるものです。ここではアスピリン喘息の特徴や原因となる物質について解説します。
目次
アスピリンとは

アスピリンは古くからある解熱鎮痛薬の一種で、NSAIDsという分類に入る薬剤です。NSAIDsというのは非ステロイド抗炎症薬の略で、ステロイド以外の炎症を抑える薬の総称です。
NSAIDsにはさまざまな種類がありますが、いずれも炎症を抑えることで痛みや熱を下げることができる薬になります。
アスピリンは化学構造的にはサリチル酸という分類の薬剤になります。時折、名前に「ピリン」が含まれていることからピリン系の薬剤と考えられ、ピリンアレルギーの際には使用してはならないと言われることもありますが、それは間違いです。アスピリンはピリン系ではありません。
アスピリンは炎症を引き起こすプロスタグランジンと呼ばれる物質が精製されるのを抑えることで作用を発揮します。そのため、前述のように熱があるときや痛みがあるときなど、炎症が悪影響を及ぼしているときに重用されます。
また、弱いながら血液が固まるのを防ぐ効果があります。血液が固まる際には血小板という血液中の成分が結合することで血液が固まり始めるのですが、アスピリンはそれをブロックすることで血液が固まることを防いでくれるのです。そのため、脳梗塞や心筋梗塞が起こったあとに再度血管の中で血の塊ができるのを防ぐためにも使用されます。
アスピリン喘息はどんな病気?

アスピリン喘息は、アスピリンをはじめとする種々の薬剤を投与することによって起こってくる喘息発作です。
喘息発作は元々、気道の粘膜に何らかのアレルゲン物質が付着することで免疫が過剰に反応することで起こってきます。免疫が過剰に反応する結果、粘膜が腫れてきてしまい気道が狭窄し、ヒューヒューと音がしたり息苦しさを感じたりする他、気道が過敏に反応することによって咳が止まらなくなってしまうこともあるのです。
このような喘息発作は原因物質が気道粘膜に付着することで起こってくるのですが、アスピリン喘息の場合はそのような機序で起こってくるのではありません。アスピリンをはじめとする物質が体内に侵入した際に、化学物質の合成経路が異常となるために発作が起こってくるのです。
先ほど説明したように、アスピリンはプロスタグランジンを合成するのを阻害する作用があるのでした。もともとプロスタグランジンはアラキドン酸という物質から、シクロオキシゲナーゼという酵素を利用することで合成されているのですが、アスピリンはこのシクロオキシゲナーゼの作用をとめてしまうことでプロスタグランジンが生成されるのを抑制します。
しかしアラキドン酸からは、もう一つロイコトリエンという物質が合成されています。プロスタグランジンもロイコトリエンも同じように合成されているのですが、アスピリンが投与されてプロスタグランジンの合成が低下するとロイコトリエン産生が非常に多くなってしまいます。
このロイコトリエンが増加しすぎると、気道の粘膜は腫れぼったくなり、また粘膜を支える筋肉が収縮してしまう様な反応が起こったうえに、炎症反応が起こってきてしまうのです。このような反応は喘息のときと全く同じ発作になります。
このように、アスピリン喘息はアレルギーの機序によらず、化学物質の合成経路の異常によって喘息発作が起こってくるものを言います。
アスピリン以外にもある原因物質

アスピリン喘息と言えばアスピリンによっておこってくるものですが、作用機序を考えれば分かるように、シクロオキシゲナーゼを阻害する物質が投与されれば同じようにプロスタグランジンの合成が阻害され、ロイコトリエンが上昇し、喘息発作が起こってしまいます。
先ほど説明したNSAIDsという種類に分類される薬はいずれもシクロオキシゲナーゼを阻害することによって痛みや熱を抑える薬です。そのため、これらの薬を投与した場合にも同じようにアスピリン喘息が起こってくるのです。
NSAIDsに分類される薬は市販の鎮痛薬に多く見られるものです。例えばイブプロフェン、ロキソプロフェン、ボルタレンなど、主要な鎮痛薬はNSAIDsに分類されますからアスピリン喘息を引き起こす可能性があります。
そのため、アスピリン喘息ではなくNSAIDs喘息と呼ぶ医師もいます。
アスピリン喘息が疑われるケース

普通の喘息と、アスピリン喘息は原因が違うものですが、どのように見分けたら良いのでしょうか。
アスピリン喘息は血液検査で好酸球という成分が増えていることが多いほか、次に挙げるような傾向が見られます。
成人の場合
まずは喘息の発症が成人になってからということが特徴です。子供の頃からアスピリン喘息を発症することはあまりありません。この点は一般的な喘息と大きく異なることです。
女性の場合
また性別にも特徴があります。男性よりも女性の方が発症率が高いですから、女性の喘息の場合にはアスピリン喘息を念頭に置くというのが基本的な考え方です。ただし、男性でも発症しますから、性別の違いは参考にする程度です。
鼻や味覚に異常がある場合
他の特徴としては、鼻に異常があることがあります。季節に関係なく鼻水や鼻づまりといった鼻炎症状がある人にアスピリン喘息は多いと言われています。これと関連して、副鼻腔炎や鼻のポリープがある人も、アスピリン喘息に関連していることが多いと言われています。
嗅覚も特徴的です。嗅覚に異常があったり、片側だけでも嗅覚がなくなっていたりするような場合には、アスピリン喘息を疑います。
ミントや香辛料で悪化する場合
特徴的なのが、ミントや練り歯磨き、香辛料などを口にすることで症状が悪化する場合、アスピリン喘息の可能性があると言われています。詳しいことは分かっていませんが、これらの成分がアスピリンと似通った形状をしていることから、同じような反応を起こしているのではないかと言われています。
アスピリン喘息を起こしやすい人

アスピリン喘息が起こりやすい人は、重症な喘息の人だと言えます。喘息が重症な人は少しの刺激でも気道が狭窄しやすくなっていますから、少しロイコトリエンが上昇しただけでも反応して喘息発作が起こってしまいます。
成人の喘息患者の約10%に合併しているとも言われ、喘息患者に対してはNSAIDsを使用しない方がよいとされる根拠にもなります。
アスピリン喘息の急性期と慢性期の違い

アスピリン喘息は、アスピリンを使用すると急に喘息様の発作が出てくるものです。しかし、長い間の経過を見てみると、それまでに色々な特徴があります。
多い例として、まずは30歳から40歳頃に、鼻にポリープができます。また副鼻腔炎ができることもあります。これらを原因として、嗅覚の低下が見られます。それに伴って鼻炎の症状が出てくるようになります。この状態が慢性的に経過することが、アスピリン喘息の慢性期と考えていいでしょう。
しかし、これらの症状が出てから2から3年ぐらい経つと、長引く空咳や喘息のような発作を起こすようになります。何もなくても症状が起こる時も時折ありますが、多くの場合にはNSAIDsを使用したり、前述のようにミントや練り歯磨きなどで発作が誘発されるようになります。
発作が起こった時には、咳がなかなか止まらなくなり、場合によっては呼吸困難が起こってきますから、治療が必要になってくるわけです。
急性期はもちろん、慢性期にもNSAIDsは使用しないようにする必要があります。
アスピリン喘息の急性期の治療
アスピリン喘息の急性期の対応としては、一般的な喘息の対応と同じような対応になります。
発作が起こった時には、咳だけで終わる可能性もありますが、気管や気管支が狭窄してしまって呼吸困難が起こってしまう可能性があります。急激に呼吸苦が増悪していく場合には、すぐに病院を受診しなければなりません。救急車の使用も考慮します。
病院では、まずは酸素が十分体に行き渡るように配慮します。必要に応じて、酸素の投与を行います。
続いて使用するのがアドレナリンです。アドレナリンは、アナフィラキシーという重症のアレルギーの時にも使われるものですが、血圧を維持し、気管支を拡張させる作用があるため、すぐに使用します。使用方法は、筋肉内注射です。
続いて使用されるのは、アミノフィリンとステロイド薬です。アミノフィリンは気管支を拡張させる薬剤です。ステロイドはアレルギー反応を抑える薬になります。
注意しなければならないのは、ステロイドの中でも一部のステロイドはアスピリン喘息を引き起こす作用がありますから、避けなければなりません。リンデロンなどのリン酸エステルタイプのステロイドを使用します。
他にはアレルギーを抑える抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬などを使用します。
アスピリン喘息の慢性期の治療
アスピリン喘息の治療はまずアスピリンをはじめとしたNSAIDsの投与を中止することから始まります。
しかし、アスピリン喘息と言ってもほとんどは通常の喘息に合併していますから、そのうえで、通常の喘息と同じ治療を行います。すなわち、吸入ステロイドやβ2刺激薬といった、気道を拡張させる薬剤を吸入します。それに加えて、気管支拡張作用のある薬や抗アレルギー薬を内服することでアレルギー反応を抑え、喘息発作を可能な限り抑えます。
また、喘息は発作が起こっているときの治療だけではなく、発作が起こっていないときに発作が起こらないようにする治療も重要です。このような治療薬をコントローラーと言います。抗アレルギー薬や気管支拡張薬の内服に加え、吸入ステロイドを定期的に使用することで気道の過敏性を抑え、発作が起こりにくくすることができます。
治療内容は重症度によって異なり、重症になるほど薬の使用量を増やして調節していきます。
熱や痛みがあるときに安全に使える薬

アスピリン喘息の人はNSAIDsを使用できませんから、熱が出たときに使用できる薬にかなりの制限がかかります。
そのようなときによく使用されるのがアセトアミノフェンという薬です。市販薬では子供用の薬であるとか、胃に優しい軽めの鎮痛薬として発売されていることが多い成分になります。
アセトアミノフェンはシクロオキシゲナーゼを阻害することによって痛みや熱を抑える薬ではありません。作用機序は一つではなく、身体のさまざまな場所に作用することで解熱、鎮痛作用を得ることができます。
ただし、注意したいのは用量です。少量しか使用しないのであれば中々効果が得られないという欠点があります。アセトアミノフェンは一定以上の血液中濃度が保たれないと効果がじゅうぶんに発揮されないという特徴があるのです。
そのため、アセトアミノフェンを使用する場合は上限を超えない範囲で、定期的に内服することがポイントになります。それによってNSAIDsに劣らない高い効果を期待でき、アスピリン喘息の人の選択肢となっているのです。