ガストリノーマとはどんな病気?症状の特徴と治療法
ガストリノーマは膵臓や十二指腸の内部やその周囲に数個の腫瘍が群がって発生する病気で、消化性潰瘍や食道炎といった症状を伴います。ここではガストリノーマについて詳しく見ていきましょう。
神経内分泌腫瘍とは
「がん」と呼ばれる悪性腫瘍にはさまざまな種類があります。
そのなかでも、神経内分泌細胞が腫瘍となったものを神経内分泌腫瘍と呼んでいて、日本では神経内分泌腫瘍の多くが膵臓に発生します。
神経内分泌腫瘍 (neuroendocrine tumor/neoplasm:NET/NEN)とは内分泌細胞に由来する腫瘍であり、主にホルモンやペプチドを分泌する細胞のことで、全身に分布するため、腫瘍も全身の臓器に発生します。
神経内分泌腫瘍のなかで、消化器に発生するものが約60%、肺や気管支に発生するものが約30%を占めており、消化器のなかでは特に膵臓や直腸に多く発生します。
ガストリノーマとは
ガストリノーマは、膵島細胞から発生する膵内分泌腫瘍の一種であり、ガストリノーマの患者さんの大半では、膵臓や十二指腸の内部やその周囲に数個の腫瘍が群がって発生しています。
また、ガストリノーマは十二指腸だけでなく、体内の他の部位のガストリン産生細胞から発生することもあり、ガストリノーマのほとんどは膵臓または十二指腸壁に発生します。残りは脾門、腸間膜、胃、リンパ節または卵巣に発生すると報告されています。
約50%の患者さんでは複数の腫瘍がみられ、ガストリノーマは通常であれば直径1cm未満と比較的小さく、腫瘍の増殖スピードは緩徐であり、約半数の割合で悪性例であると考えられています。
ガストリノーマとインスリノーマ
もともと膵臓にはさまざまな種類の内分泌(ホルモン)の機能を持つ細胞があり、その種類によってインスリンを分泌する細胞が腫瘍化した場合は「インスリノーマ」、ガストリンを産生する細胞が腫瘍化した場合は「ガストリノーマ」と呼称しています。
それらの腫瘍に関しては、ホルモンを過剰に産生することがあり、特にガストリノーマは、通常は膵臓または十二指腸(小腸の最初の部分)に発生してガストリンというホルモンを過剰に分泌する腫瘍です。
そして、インスリノーマが、インスリンを過剰に産生することで、低血糖発作などの症状を引き起こす場合があり、このように症状を出現させる腫瘍のことを「機能性」神経内分泌腫瘍、症状を出現させない腫瘍のことを「非機能性」神経内分泌腫瘍と呼んでいます。
また、これらの病気はMEN-I型、VHL型などの遺伝性疾患が関与することもありますので、専門的な施設での診断や治療が必要となります。
ガストリノーマの症状
ガストリノーマは次に挙げるような症状を伴うことがあります。
消化性潰瘍
ガストリノーマはガストリン産生腫瘍で、通常膵臓または十二指腸壁に発生し、結果として胃酸の過剰分泌と進行の速い難治性の消化性潰瘍が生じると言われています(俗称でゾリンジャー・エリソン症候群と呼称されています)。
ガストリノーマにおいては、ガストリンを作っている膵臓の細胞から発生して、ガストリンが胃を刺激して胃酸や消化酵素の分泌を促進することで、消化性潰瘍が生じて胃の痛みや消化管粘膜からの出血などの兆候がみられます。
ゾリンジャー・エリソン症候群は、典型的には進行の速い消化性潰瘍として出現します。
潰瘍病変自体は十二指腸球部より遠位領域など非定型的な位置に形成されますが、約2割程度の患者例では診断時に潰瘍が認められないこともあります。
食道炎
ガストリノーマ(ゾリンジャー・エリソン症候群)は、腫瘍性病変が正常の胃酸分泌サイクルと無関係にガストリンを血液中に常に分泌し続けることが原因で発症します。
多くの場合は、過剰分泌された胃酸が十二指腸に流れて小腸内のpHが酸性に傾くことで脂肪性の下痢を生じる症状が認められて、次いで消化性潰瘍や潰瘍の合併症に伴う心窩部痛、そして激しい食道炎や食道狭窄などの症状が徐々に現れることになります。
腹膜炎
ガストリノーマ(ゾリンジャー・エリソン症候群)は、ガストリノーマの過剰分泌で胃や十二指腸、腸の一部が常に胃酸に晒されてしまい、消化性潰瘍が発生する病気であり、治療しないで症状を放置すれば病変部が穿孔して腹膜炎になります。
ガストリノーマから分泌された過剰なガストリンによって、胃酸の分泌が過剰になり、胃や十二指腸、また腸の他の部位に活動性の消化性潰瘍が形成されて、痛みや出血などの所見がみられます。
まれに消化性潰瘍が悪化して、腸の破裂や穿孔を合併する、あるいは出血や閉塞が生じることで腹膜炎を併発して、生命が脅かされることもあります。
ガストリノーマの治療
ガストリノーマの基本的な治療方法としては、胃酸分泌抑制、病変限局例には外科的切除、腫瘍転移例には化学療法が行われます。
胃酸分泌抑制
胃酸分泌抑制作用を発揮するオメプラゾールまたはエソメプラゾールなどのプロトンポンプ阻害薬が第一選択薬であり、症状が消失して胃酸分泌が低下した時点で用量を漸減していくこともあります。
一定の維持量を投与する必要性があり、患者さんは手術を受けなければこれらの薬剤を無期限に服用する必要があると考えられます。
また、オクトレオチド注射剤100~500μg(皮下注射を1日2回~1日3回)を投与することによっても胃酸分泌が低下することがあります。
オクトレオチド注射剤は、プロトンポンプ阻害薬が奏効しない患者さんにおいて潰瘍に伴う症状が改善する可能性があります。
外科的切除
明らかな転移所見のない患者例では、外科的切除を試みることも検討されます。
手術時には、十二指腸切開術と術中の内視鏡光源の管外からの透見または超音波検査が腫瘍の局在診断に役立ち、ガストリノーマが多発性内分泌腫瘍症(MEN)の一部でなければ、およそ20%の確率で外科的切除によって症状が治癒する可能性が期待できます。
これらの治療法で一定の効果がみられなければ、胃を完全に切除する手術(胃全摘術)を実施する場合もあり、この手術で腫瘍は切除されませんが、胃がなくなれば胃酸も作られなくなるため、ガストリンによって潰瘍ができることはなくなり症状が軽快します。
ただし、胃を切除した場合は、栄養素を吸収する予備処理を行う胃液がなくなって必要な栄養素の吸収が阻害されるため、通常であれば鉄分とカルシウムのサプリメントを毎日服用し、月1回ビタミンB12を注射することが必要になります。
化学療法
腫瘍が全身に転移している場合には、ストレプトゾシンとフルオロウラシルまたはドキソルビシンとの併用が膵島細胞腫瘍に対する望ましい化学療法であると考えられています。
化学療法によって、腫瘍量の減少と血清ガストリン濃度の低下が得られる可能性があり、オメプラゾールの補助的な役割として有用です。
また、インスリノーマを対象に検討されている新規の化学療法のレジュメとして、テモゾロミドをベースとするメニューやエベロリムス、スニチニブなどが挙げられます。
まとめ
これまで、ガストリノーマとはどんな病気か、その症状の特徴と治療法などを中心に解説してきました。
ほとんどのガストリノーマは消化性潰瘍の症状を呈し、一部の患者さんは下痢や食道炎を認める傾向があります。
約半数の患者さんが多発性のガストリノーマを有すると言われていて、約半分が多発性内分泌腫瘍症(MEN)であり、ガストリノーマの半数は悪性例であると考えられています。
MEN1型に伴うガストリノーマではない場合は、手術で腫瘍を切除することにより、治療が見込めますし、手術で腫瘍のすべてが切除できなかった場合や手術が不可能な場合は薬物療法が適応されます。
薬物療法としては、ストレプトゾシンや分子標的薬が使用されますし、胃酸分泌を抑制するために、プロトンポンプ阻害薬が非常に有用であり、消化管潰瘍などに伴う症状のコントロールができると考えられます。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。