首筋から後頭部が痛くなる椎骨動脈解離はどんな病気?
首筋から後頭部にかけて痛くなることはないですか?なんとなく痛いくらいであれば、特に問題はありませんが、突然痛くなったりする場合は注意が必要です。ここでは首筋から後頭部が痛くなる原因にもなる椎骨動脈解離について詳しく見ていきましょう。
椎骨動脈とは
脳に栄養を供給する血管として、左右の頸動脈と脳底動脈という3本の太い血管があります。左右の頸動脈はそれぞれ左右の大脳を栄養し、脳底動脈は主に頭の後ろ側にある小脳や脳幹というところに血液を送っています。
脳幹は大脳からの神経を束ねて脊髄神経に送る場所であり、心臓や肺を動かす司令部分でもあります。脳幹を栄養する脳底動脈は1本しかありませんが、そこに流れ込む血管は左右2本あります。それが椎骨動脈です。椎骨動脈は首の骨の中を通ることで守られています。
椎骨動脈解離はどんな病気?
動脈の壁は内側から内膜、中膜、外膜の三層構造をしています。このうち一番内側の内膜に傷がついて、そこから血管の壁の中に血液が入り込み、血管が裂けていく状態を動脈解離といいます。
首から脳に血液を送っている動脈は2対あり、首の前側にある内頸動脈と、首の後ろ側にある椎骨動脈です。
動脈解離は全身の動脈に起こりますが、頭部では椎骨動脈の解離が最も多く、椎骨動脈が乖離すると突然の激しい頭痛を起こします。この時に適切な治療を受け、血管の裂ける程度が軽症で頭痛の症状のみでとどまるならば、概ね重大な問題は起こりません。
しかし、血管の裂ける場所や程度によっては、裂けた血管が詰まって脳に血液が送れなくなったり、解離した場所から血栓と呼ばれる血の塊が血管の中を移動して末梢血管を閉塞したりして、脳梗塞を起こします。
その結果、運動麻痺や言語障害や嚥下障害などが出現します。また、動脈壁に入り込んだ血液が、裂けた動脈壁の内腔側を内腔に向かって、外腔側を外側に向かって押すため、解離部分の動脈の外観は膨らんで、内腔は狭窄することになります。
これを解離性動脈瘤といいます。薄くなった血管の壁が外側まで裂けて、血管外に血液が漏れ出ると、くも膜下出血を引き起こし、激しい頭痛や意識障害が出現して致命傷になることもあります。脳梗塞やくも膜下出血を起こすと、状態によっては緊急に手術治療が必要になる場合があります。
解離性脳動脈瘤は、動脈硬化などの危険因子をもたない、比較的年齢の若い世代の脳卒中の原因となります。発症の平均年齢は40歳代で、男性に多く見られるといった特徴があります。原因としては頸部の捻転を伴うさまざまなスポーツや、軽微な外傷などが引き金になったと考えられるものと、明らかな原因が不明の特発性のものとに分けられます。
椎骨動脈解離の症状
椎骨動脈解離は、脳梗塞やくも膜下出血といった決定的な神経症状が出現する前に、何らかの痛みを自覚することが多いといわれています。
椎骨動脈解離が継続している間はうなじや後頭部に強い痛みが持続し、その後血管腔が狭窄を起こすことで、脳への血液の流れが減り、意識障害やめまい、嘔吐、手足の麻痺などの脳梗塞症状が出現します。
くも膜下出血との関係
内膜だけでなく中膜を破損した場合には、血液は一番外側の外膜と中膜の間にも入り込むことになります。その結果、血管は外側に膨らむことになり、いわゆる動脈瘤を形成します。頭蓋骨の中で動脈瘤から出血すると、くも膜下出血となり、命にかかわることになります。
椎骨動脈解離とよく似た症状
椎骨動脈解離と症状が似ており、鑑別が必要なものがあります。
ストレートネック
ストレートネックとは、本来であれば自然な湾曲を描いているはずの頚椎が、まっすぐな状態になることをいいます。別名としてスマホ首とも呼ばれ、スマホやパソコン操作によって首が前へ出る姿勢を長時間続けることが大きな原因となります。
その他にも猫背などの不良姿勢や骨盤のゆがみなどでストレートネックとなってしまいます。首は頭を支えるだけでなく、頭にかかる重力をクッションのように和らげる働きがあります。そのため、湾曲が失われてしまうと頭を支えたり負荷を和らげる働きが弱くなり、首・肩こりや腰痛につながる可能性があります。
後頭神経痛
長時間猫背の姿勢でいることで後頭神経痛が起こります。モニターを正面ではなく、左右どちらか前方に置いて使っている人も多く、モニターを見る際、体は正面を向きながら首だけひねるという歪んだ姿勢になります。
このとき顔を向けた側の後頭神経が頭蓋骨と頚椎に挟まれ、反対側の後頭神経が引っ張られてしまいます。そうすることで後頭神経が興奮して後頭神経痛が起こります。後頭神経痛とは、頭痛というよりも頭皮の末梢神経がダメージを受けて痛む神経痛のひとつです。
後頭神経には大後頭神経、小後頭神経、大耳介神経の3つがあり、これらの神経がダメージを受けることで発生し、片側の首から後頭部にかけてのチクチク、キリキリ、ズキズキとした激痛がある場合や、ピリッと一瞬電気が走るような痛みを繰り返す場合があります。また、急激に首を前や後ろに倒したり、首を回したりすると痛みが起き、頭皮に触れたりしただけで痛むことがあるのが特徴です。
後頭神経痛は強い痛みが出る神経痛ですが、1週間程度で自然に改善することが多いです。後頭神経痛が起きたら、まずは痛みの元を短時間冷やすことが大事です。長時間冷やしてしまうと筋肉の凝りが起きてしまいます。
また、最も痛みを感じる部位か神経痛の根元を5秒ほど指で強めに押して離すことを数回繰り返すことで、神経の興奮が抑えられ、痛みが和らぎます。神経痛であるため、通常の消炎鎮痛薬を飲んでも効果がありません。後頭神経痛の予防は、何よりも不良姿勢を正すことが大切です。
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)
可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は雷鳴頭痛と表現されており、頭の中で突然雷が鳴ったような激しい頭痛が特徴です。入浴やシャワー、水泳やダイビング、排便、興奮、性交、筋トレ、大声、咳やくしゃみ、ストレス、女性ホルモンの変化、セロトニン作動薬や免疫抑制剤などの薬物が引き金となって発症します。交感神経の過剰反応を生じることも要因の一つとされています。そのため、普段高血圧でない方も血圧が上がることがあります。
静脈洞血栓症
脳には静脈洞という特殊な構造をした静脈系があります。静脈洞は脳の中を灌流(かんりゅう)してきた血液が、頭蓋から出ていく前に最後に集まってくるところです。静脈洞血栓症では、静脈洞が血栓で閉塞することにより、血液が頭蓋外に出ていきにくくなります。その結果、頭蓋内圧亢進、静脈性梗塞、脳出血、けいれんなどを起こしてきます。
発症は急激な経過をとるものと、頭痛が数週間先行するものとがあります。最も多い症状が頭痛でほとんどの場合にみられます。
いかがでしたでしょうか。首筋から後頭部の痛みには意外な病気が隠れている場合があります。急激な発症や運動時に生じたものは、一度医療機関で詳しく検査をしてみることをおすすめします。