褥瘡(床ずれ)のステージごとの違いと予防方法

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褥瘡は所謂とこずれのことで、長い期間同じ体勢で座っていたり寝ていたりするとできてくるものです。その程度によってステージ分けがされています。ここでは褥瘡を取り上げ、ステージごとの違いについて解説します。

褥瘡(床ずれ)とは

褥瘡とは皮膚にできる損傷のことです。同じ体勢で座っていたり寝ていたりすると、一点に圧力がかかってしまいます。その圧力がかかる部分が骨の上であると、圧力が骨と床との間に挟まれた皮膚や皮下組織に強くかかり、壊死を起こしてしまいます。

単純に圧迫されるだけでは褥瘡はできてきませんが、長い時間続けて圧迫される事で血流が悪くなり、そのせいで壊死を起こしてしまうのが褥瘡の原因です。

褥瘡の多くは寝たきりの人に起こってきます。健康な人であれば、一点に圧力がかかって皮膚にダメージが加算されてくると痛みを感じ、無意識のうちに身体を動かして圧力がかかり続かないようにします。しかし寝たきりの人の場合は痛みをあまり感じない、または痛みがあっても動けないなどの理由で体位を変えることができず、褥瘡ができてしまいます。

さらに、寝たきりの場合は加齢によって皮膚が薄くなっていたり、皮下脂肪も減少していてクッション性が失われていたりといった理由で皮膚にダメージがかかりやすく、また栄養状態が悪かったり糖尿病などの合併症があったりすることで皮膚のダメージが治りにくいという条件も相まって、褥瘡ができやすくなっているのです。

褥瘡のステージごとの違い

このような褥瘡ですが、褥瘡の程度によってステージ分けがなされています。米国褥瘡諮問委員会(NPUAP)が提唱するNPUAP分類では、次のような4ステージに分けられています。

  • ステージI(消退しない発赤)
  • ステージII(部分欠損)
  • ステージIII(全層皮膚欠損)
  • ステージIV(全層組織欠損)

ただし、2009年に改訂され、これらのステージに加えて「皮膚または組織の全層欠損—深さ不明」と「深部組織損傷疑い(suspected DTI)—深さ不明」の2つが追加されました。

では、それぞれどのような状態なのか詳しく見ていきましょう。

ステージI

ステージIは消退しない発赤のことを言います。普通、皮膚は圧迫を長い時間受けていると赤く発赤してきます。しかし、圧迫を解除すると次第に赤みが引いてくるものです。

しかし褥瘡を発症すると赤みが引かず、ずっと赤いままになります。これがステージIの褥瘡です。

具体的に言うと通常骨が突出した部分に限局した領域に発生します。赤みがあると言いましたが、元々色調が濃い部分ではなかなか赤みとして認識できない場合もあります。そのような場合には、他の組織との違いによって認識できる場合があります。

疼痛を伴うほか、堅さに違いが出てきたり、熱感や冷感が認められる場合もあり、そのような徴候から褥瘡を疑う場合があります。

ステージII

ステージIIは部分欠損です。所謂擦り傷のように、表皮から真皮までの層が欠損している状態を言います。赤みを帯びた浅い潰瘍として認識され、黄色の組織壊死を伴わないという特徴もあります。

皮膚のダメージを反映して、水疱を作っている場合があります。この水疱は破れている場合もありますし、破れずに残っている場合もあります。

まだ皮下組織には至っていませんから、皮下出血を伴いません。全体に光沢を帯びた浅い潰瘍が見られます。

ステージIII

ステージIIIは全層皮膚欠損です。すなわち、皮膚を構成する3層である表皮層、真皮層、皮下組織層の全てが欠損している状態になります。

この状態になると、皮下脂肪が直接目に見えることになります。しかし、皮下組織の部分で壊死が止まっていますから、それよりも深い筋肉や腱、骨はまだ露出していない状態です。

このときに見られる特徴的な組織としては、黄色い組織壊死が見られることがあります。また、皮下の損傷の広がりは目に見えている範囲にとどまらず、指を入れると表皮の欠損以上に広い範囲に欠損が広がっているのが分かる場合もあり、ポケットや瘻孔(ろうこう)の形成と表現されます。

ステージIIIは、深さに様々な幅があります。特に褥瘡が起こっている身体の場所によって様々な深さになります。

例えば鼻、耳、後頭部、かかとなどの部分は皮下組織が非常に薄いため、浅い褥瘡でもステージIIIとなります。反対に脂肪層が分厚い臀部などでは、ステージIIIの範囲が非常に広く、少しでも皮下組織が見えたらステージIIIとなりますが、皮下組織が深くえぐれていても骨や筋肉まで至っていなければステージIIIの範疇となってくるのです。

ステージIV

ステージIVは、全層組織欠損です。骨や腱、筋肉が露出しています。黄色の組織壊死だけではなく、黒色の組織壊死を認める場合もあります。

ここまで深い層となると、周囲への広がりも大きく、ステージIIIでも見られたポケットや瘻孔の形成も多く起こってきます。非常に広い範囲に皮下組織が欠損してくるのです。

また、創が筋肉や骨にいたってしまうため、それらの組織に感染を引き起こすことも多く、骨髄炎や筋肉炎などとなってしまい、治療が難しくなることもあります。

褥瘡の予防方法

褥瘡を予防するにはどのような事をすればよいのでしょうか。

先ずは栄養状態の不良や糖尿病など、全身状態の不良は褥瘡を引き起こしやすくする条件になりますから、食事などに気をつけてしっかりと全身状態をケアすることが必要です。

その上で、圧迫に対するケアをしましょう。身体の組織が痛んでしまう前に体位を変換する事が大事で、色々な組織の血流を意識して寝返りを打たせてあげるようにしましょう。

特に本人がゴソゴソしているのは自発的な褥瘡予防として非常に重要ですから、もし手伝って欲しそうにしている場合には手伝うようにしましょう。また、ゴソゴソしやすい環境を整えてあげるのも有効です。硬すぎるマットレスは褥瘡の元になりますが、柔らかすぎるマットレスも身体が沈んで固定されてしまい褥瘡ができる元となってしまいます。動きやすいように高反発のマットレスを用意するとよいでしょう。

また、ベッドの高さにも気をつけましょう。高すぎると気をつかってなるべく動かないようにしてしまう事もあります。必要に応じて低いベッドにするのも褥瘡予防に有効なことがあります。

寝たきりにしないことも重要です。特に座ることができる状態の場合は、積極的に座る時間を増やすようにしてください。この場合も柔らかすぎるソファーなどは身体が沈んでしまって動けなくなり、褥瘡の原因となってしまいますから避けるのが無難です。

座ることは圧迫の解除という目的の他に、内臓機能の向上によって全身の栄養状態を改善し、褥瘡を予防する効果もあります。

皮膚自体のケアも重要です。乾燥した皮膚は少しすれるだけでもすぐに剥がれてしまい、褥瘡ができやすい状態を作り出してしまいます。入浴などをした後は乾燥を予防するためのクリームを使用することでなるべく皮膚にダメージが起こらないようにしましょう。

また、全身状態が不良とならないように、なるべく身体を動かすようにすることも大事です。健康な身体は健康な皮膚の元になります。元々どれぐらい動けるかによっても変わってきますが、可能な限り身体を動かすことで血の巡りを良くし、なるべく皮膚に血流を維持する事で褥瘡を予防するようにしましょう。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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