尿漏れ(尿失禁)の種類と男性に特有の前立腺肥大症

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尿漏れは年齢を重ねるとよく起こってくる症状です。尿漏れにはいくつもの種類がありますが、男性の尿漏れの多くは前立腺肥大症と関連しています。ここでは男性の尿漏れについて解説します。

男性の尿漏れ(尿失禁)の種類

尿漏れのことを、医学的には尿失禁と言います。そもそも尿失禁はどのような機序で起こってくるのでしょうか。様々な種類がありますので、分類して解説しましょう。

腹圧性尿失禁

尿は尿道括約筋によって出ないように出口がせき止められています。また、それだけではなく、骨盤の底にある筋肉が複合して出口を狭めることによっても尿が出にくいようにしています。

しかし、このような尿道括約筋や、骨盤底筋群の筋力は加齢や肥満によってだんだんと力が弱まっていきます。それに伴って尿失禁を起こすのが腹圧性尿失禁です。

もともと出口の力が弱まっているところに、くしゃみや咳など腹圧が上昇するイベントが加わることで尿道が十分に閉鎖されずに少量の尿が漏出するのが腹圧性尿失禁です。

尿道が短いほど症状が起こりやく、患者さんのうち女性が85%を占めています。

エコーや造影検査などで膀胱と骨盤の位置関係を見てみると、膀胱が全体に下に下がっていたり、尿道が開大していたりといった所見が見られます。検査としてはいきみによって、膀胱内圧が正常なのにもかかわらず尿が漏れ出すのを確認することがあります。

男性がこの腹圧性尿失禁を起こす場合は、ほとんどの場合は後述の前立腺肥大症が起こっていたあとに手術を行って尿道が広がっている場合や、外傷によるものです。

治療としては、先ずは保存療法として骨盤底筋群の体操による改善を図ります。重症の場合には尿道スリング手術という手術を行う場合があります。

切迫性尿失禁

膀胱に尿が貯留すると、ある一定以上の量が貯留したときに尿意を感じてトイレに行き、尿を排泄します。しかし、尿がたまったと感じたときに排尿を調節する機構が十分に働かず、強い尿意を突然感じてしまった後に耐えきれずに尿が出るのが切迫性尿失禁です。

切迫性尿失禁を起こすのは過活動膀胱、神経因性膀胱、細菌性膀胱炎等です。

過活動膀胱

過活動膀胱というのは、膀胱自体が過敏になってしまい、少しの刺激で収縮を起こしてしまう状態です。尿が少したまっただけでもセンサーが反応し、すぐに収縮して排尿してしまいます。

神経因性膀胱

神経因性膀胱というのは、膀胱に至る神経が何らかの原因でダメージを受けて、膀胱が神経によるコントロールを受けなくなった状態を言います。脊髄損傷や脳梗塞、外傷などによって起こってきます。

通常、膀胱に尿がたまってくるとセンサーが反応し、その刺激が脊髄へと伝えられます。脊髄は膀胱に尿が貯留したという情報を脳に伝え、その情報を元にトイレへ行き、そして尿を出すように脊髄を通して膀胱や、尿道括約筋などに指令を伝えます。

この経路に異常が生じると尿が漏れてしまうのです。脊髄よりも脳側の神経の障害によってこの失禁は起こってきます。

細菌性膀胱炎

細菌性膀胱炎は、細菌が膀胱に感染して起こる膀胱炎のことです。細菌が膀胱に感染すると、膀胱は尿と一緒に細菌を排泄しようとして活動が活発となり、よく収縮するようになります。それにともなって切迫性の尿失禁が起こってくるのです。

このように、切迫性尿失禁は様々な原因で尿を出そうとする膀胱の活動に、トイレに行くという行動が間に合わずに起こってくる失禁です。

溢流性(いつりゅうせい)尿失禁

溢流性尿失禁とは、尿の出口が狭くなってしまうことによって起こってくる尿失禁です。

慢性的に尿道の通過障害があると、一度尿をしても十分な尿が出きらず、膀胱の中に尿がたまったままになってしまいます。そうすると慢性的に膀胱内圧が上昇した状態が継続してしまいます。

膀胱内圧が上昇していると、膀胱は収縮しようとして切迫性尿失禁を起こすこともあります。

しかしそれだけではなく、尿道括約筋の圧を上回って膀胱内圧が上がってしまい、括約筋では抑えきれなくなった尿が外へと漏れ出してきてしまうのです。

このような溢流性尿失禁には、神経因性膀胱、前立腺肥大症、低活動膀胱等が原因となります。

神経因性膀胱

神経因性膀胱は前述の通り神経がダメージを受けたときに起こってくる膀胱の活動障害ですが、特に膀胱を収縮させようとする信号がうまく伝わらないときに溢流性尿失禁が起こってきます。すなわち、脊髄より膀胱側の神経障害で起こってくるのがほとんどです。

前立腺肥大症

前立腺肥大症は男性に特有の疾患です。前立腺は尿道の周りに存在する組織で、前立腺液を分泌します。前立腺は加齢に伴ってだんだんと肥大してきます。肥大してくるとその中を通る尿道がだんだんと圧迫されてくることで狭くなり、溢流性尿失禁の原因となってしまいます。

低活動膀胱

低活動膀胱は過活動膀胱の反対で、膀胱が中々収縮しない病態です。尿がいっぱいたまっても膀胱は反応せずにほとんど収縮しません。それによって尿が膀胱の中にたまってしまって膀胱が腫大し、内圧が上昇することで溢流性尿失禁を起こしてくるのです。

このように溢流性尿失禁は、出口が狭いか膀胱が収縮しようとしないかによって起こってくる尿失禁と言えます。

機能性尿失禁

機能性尿失禁とは、排尿機能には問題が無いのに運動機能が低下したり、認知症になったりと、トイレに行く行動がうまくいかないために起こってくる尿失禁です。例えば歩行がゆっくりな人が中々トイレにたどり着けず、その途中で尿失禁を起こしてしまうのも機能性尿失禁の一種と言えます。

対処法としてはリハビリを行うことや、尿意を感じたらすぐにトイレに行くように行動づけること、あるいは生活空間の変更などが挙げられます。

男性に特有の前立腺肥大症と過活動膀胱

男性の尿失禁のほとんどは、前立腺肥大によって起こってきます。

前立腺肥大が起こると、残尿感、頻尿、尿意切迫感、尿勢低下に加えて、尿失禁の症状が出てきます。

検査をすると、前立腺自体が大きく見えるのはもちろん、尿の流量測定をすると尿の流れに勢いがなく、また1回の量が少ないという特徴も見られます。これらの情報を元に、前立腺肥大が起こっていると判断されるのです。

また、前立腺肥大によって尿が十分に排出されないまま再びたまり始めると、すぐに膀胱が収縮をしようとします。そのため、過活動膀胱の要素も男性の尿失禁には関わってくるのです。

これらの症状に対しては、まず薬物療法が試されます。前立腺が収縮する様なα1受容体拮抗薬という種類の薬や、男性ホルモンによって前立腺が肥大することから男性ホルモンの阻害薬等が使用されます。

薬によっても中々前立腺肥大による症状が治まらず、尿失禁が続いたり、膀胱が大きいままだったりと問題がある場合には、前立腺の手術を選択します。

手術と言っても経尿道的に前立腺を内側から削る手術がほとんどで、手術時間は2~3時間程度と比較的短時間で終わります。

男性で尿漏れに困っている方は一度泌尿器科を受診されてみてはいかがでしょうか。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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