空腹なのに食欲がないのはストレスのせい?食欲不振の原因とは

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空腹のはずなのに食べるという気力がわかない、何も口にしたくなくなる、といった経験はありませんか? こうした食欲不振の症状には、ストレスが関与している可能性があります。また、そのほかにも甲状腺や消化器の病気によって食欲がわかなくなることもあります。ここでは食欲不振の原因について詳しく見ていきましょう。

食欲と自律神経の関係

自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経は私たちの身体を戦闘状態にします。例えば、重要な会議など緊張する場面では、食欲はなくなり、のんびりと物を食べることは考えられません。

食欲不振に陥るのは、自律神経の乱れが関係していると考えられています。

自律神経のうち、副交感神経が働くと胃腸機能が活発化して消化が行われますが、バランスが崩れて交感神経が優位になり続けると消化不良を起こし、食欲不振や胃もたれ、便秘などの症状が出るとされています。

副交感神経の働き

副交感神経は身体や心をリラックスさせる働きがあります。

消化(内臓)は自律神経(副交感神経)が支配していて、消化管とは、食べるものを消化・吸収するための器官のことです。

消化管とは口(口腔)から肛門までの食物の通路のことを指していて、消化は、口腔→食道→胃→十二指腸→小腸(空腸・回腸)→上行結腸→横行結腸→下行結腸→S状結腸→肛門という流れで消化されていきます。

これらの消化器のしくみは自律神経の副交感神経によって働いてくれるのですが、自律神経が乱れるとこの内臓(消化)の働きが弱くなってしまいます。

胃腸の働きが悪くなると腹部膨満感や食欲不振といった症状がでやすくなります。

副交感神経と消化機能の関係

副交感神経は、胃腸の働きをコントロールしていて、副交感神経の働きが悪くなることによって、胃や腸などの内臓機能が低下してしまい消化器官に問題が起こり始めます。

副交感神経が異常になると、初期の胃腸症状として、食欲過剰になり易く、食べても食べても満腹感を得られず、食べ続けてしまいます。

さらに、この状態が進行すると、食事をしても消化が上手く行われず胸焼けや膨満感などを感じる状態になってしまい、症状が酷くなってしまうと「何も口にしたくない」「食べようという気力が沸かない」といった状態になることがあります。

空腹なのに食欲がないのはストレスのせい?

日々のストレスにより、副交感神経の働きが弱くなると、胃腸のはたらきが弱まることによって、食欲不振を引き起こします。

まず私たちが抱えるストレスには大きく分けて、急性のストレスと慢性のストレスがあり、急性ストレスでは交感神経が働き、食欲を抑える一方で、慢性ストレスではストレスホルモンにより脂肪が貯め込まれるため肥満になりやすいですが、反対に痩せる人もいます。

精神的ストレス(人間関係や仕事などの悩みや不安)や、身体的ストレス(過労、事故、怪我)などのストレスが続くと、自律神経の交感神経が過剰に刺激され、消化吸収を促進する副交感神経の働きが抑えられて、空腹状態にもかかわらず食欲が起こりにくくなります。

自律神経は活動時に優位になる交感神経と、休息時に優位になる副交感神経がバランスを取り合っていて、このバランスが乱れると、休息が必要な時に交感神経が高ぶり続け、副交感神経が働かなくなります。

胃腸機能は、副交感神経が優位の時に活発に働くので、自律神経が乱れると消化不良を起こしやすくなる結果、胃がむかつきを覚えて、食欲がなくなるといった症状が出始めます。

さらに自律神経バランスの崩れにより、胸やけ・胃痛・胃もたれ・便秘・下痢といった症状が現れることもありますし、食欲不振になると、食事量の減少やさっぱりした物や水分しかとらなくなることで、栄養不足に陥ります。

疲労感や倦怠感が抜けず、仕事や勉強に打ち込む気や集中力がなくなり、さらに体調不良を招く場合もあります。

食欲不振につながるその他の原因

ストレスや自律神経の乱れ以外にも食欲不振につながる原因はあります。代表的なものを確認しておきましょう。

生活習慣の乱れ

食欲に関連するホルモンの中に、レプチン・グレリンというホルモンがあり、日々の運動や睡眠がこれらのホルモンと深く関連があることが分かっています。

睡眠不足になると食欲を抑えるホルモンが不足し、食欲が増進することが指摘されています。

運動不足の場合には、活動量が低下して、補給の必要性が低下するために食欲もわかなくなります。

それ以外にもアルコールの飲み過ぎにより、肝臓の働きが低下し、吐き気や全身の倦怠感で食欲不振になる場合もあります。

甲状腺機能低下症

食欲不振の原因が、甲状腺機能低下症にあることもあります。

甲状腺はのどにある臓器で、体の新陳代謝を促すための甲状腺ホルモンを分泌しています。

甲状腺の機能が低下すると体全体の代謝が低下するため食欲がないにも関わらず、体重は増加傾向になりやすいという特徴があります。

甲状腺機能低下症に伴う症状が強くなると、疲れやすく無気力になる、場合によっては貧血や徐脈など重い症状を起こすこともあります。

消化器の病気

消化器と視床下部は常に情報交換をしており、胃や十二指腸、小腸や大腸と食欲は密接に関係しています。

消化器の炎症や潰瘍、機能低下やがんなどの原因があると食欲不振につながります。

食欲不振の原因として、最も怖いのは胃がんであると言われていて、胃がんにより胃の動きが低下したり、食べ物の通過を妨げられたりすると胃もたれや食欲不振の原因となります。

また、ピロリ菌の感染は慢性的な胃炎を引き起こし、食欲を低下させるばかりか、胃がんが発生する原因となります。

胃潰瘍や十二指腸潰瘍も同様に食欲不振の原因となり、進行すると出血や穿孔(胃や十二指腸に穴があくこと)を起こす可能性があります。

まとめ

これまで食欲不振の原因やストレスの影響などを中心に解説してきました。

食欲不振とは、文字通り食欲がない状態であり、暴飲暴食などで胃腸が弱っていたり、体調が悪くて胃腸の動きが鈍い時などに起こる症状で、決して珍しい症状ではありません。

仕事や人間関係、過労やケガ、事故など心身ともにストレスを感じている状態が長期間続くと、交感神経が過剰に刺激され、副交感神経の働きが抑えられてしまいます。

副交感神経は消化吸収を促進しますから、自律神経のバランスの崩れが食欲不振になりやすいと考えられます。

お腹が空かない、お腹が常に張っているような腹部膨満感を自覚する、げっぷが良く出る、胸焼けがする、胃酸が上がってくる感じがあるなどの場合には、自律神経が乱れ始めている可能性があります。

食欲不振の適切な診断には胃内視鏡検査が必要ですし、食欲不振を放置しているうちに病状が進行する可能性もあります。心配であれば消化器内科など専門医療機関を受診し適切な治療を受けることをおすすめします。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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