尿意があるのに尿が出ない!排尿障害の種類と対処法

お悩み

排尿障害には大きく分けて、尿を「ためておくことができなくなる」障害と「出すことができなくなる」障害の2つがあります。尿意があるのに尿が出ないといった悩みは後者に該当し、排出障害の可能性が考えらえます。ここでは排尿障害の種類と対処法について紹介します。

排尿障害の種類

排尿障害とは、尿をためて体外に排出するまでの過程に異常が生じ、尿をうまくためられない、あるいは尿をうまく出すことができない状態を指します。

排尿障害の代表的な症状に頻尿、尿線の狭小化、尿失禁、尿意切迫感、残尿感があって、これらのうちもっとも多くみられるのが頻尿です。

40歳代以上の日本人の約4,500万人が夜間に排尿のために起きてしまう夜間頻尿があると推計されています尿失禁においては特に女性に多く、40歳以上の女性の4割以上が経験しているといわれています。

排尿障害の原因のほとんどが命に関わるものではありませんが、排尿に関する症状は日常生活に大きな影響を与え、QOL(生活の質)が著しく低下することが多いといわれています。

排出障害

排尿障害には、たまった尿をうまく出せない排出障害と尿をうまくためられない蓄尿障害の2種類があり、特に排出障害は大きく分けて、膀胱収縮障害(低活動膀胱)、尿道通過障害があります。

膀胱収縮障害

膀胱収縮障害は、糖尿病性末梢神経障害、椎間板ヘルニア、腰部脊椎管狭窄症、骨盤内臓器手術(直腸癌、子宮癌)などが原因となります。

尿道通過障害

尿道通過障害は、前立腺肥大症、前立腺癌、尿道狭窄、膀胱頸部硬化症などが原因で引き起こされて、中でも前立腺肥大症は、高齢男性の尿排出障害でもっとも頻度の高い原因疾患です。

特に、高齢者においてはさまざまな病気を抱えていることによって、その病気に対する複数の薬剤を内服している場合があり、それらの中には排尿に影響するものもあり、薬が原因で排出障害となっていることもあります。

蓄尿障害

蓄尿障害の原因としては過活動膀胱、神経因性膀胱(脳血管障害・脊髄疾患・糖尿病など)、膀胱炎、骨盤底筋群の緩み、軽度の骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤ぼうこうりゅう)などが挙げられます。

排尿障害は高齢になるほど起きやすいですが、女性では若い人でも出産後に排尿障害をきたすこともあり、その原因の多くは骨盤底筋群の緩みで、出産に伴って骨盤底筋群が傷つき、膀胱や尿道を支えられなくなる結果として起こります。

蓄尿障害の場合にはさらに、それぞれの尿失禁のタイプによって原因が異なります。

切迫性尿失禁

切迫性尿失禁は、過活動膀胱や、脳血管障害・脊髄障害後遺症による神経因性膀胱、膀胱炎や尿路感染、前立腺炎による膀胱知覚亢進が背景に存在します。

腹圧性尿失禁

腹圧性尿失禁は、内因性括約筋不全、前立腺手術などによる尿道括約筋の障害や便秘、肥満などによる骨盤底筋群の弛緩が関連しています。

機能性尿失禁

機能性尿失禁は、脳血管障害や整形外科疾患などによるADLの低下や知能精神障害や認知症などを伴うことが多く、溢流性尿失禁は、前立腺肥大症の存在、あるいは直腸がんや子宮がんの術後に膀胱周囲の神経機能が低下しているために起こると考えられています。

尿意があるのに尿が出ない原因

尿意があるのに尿が出ないときに考えられる代表的な疾患としては次のものが挙げられます。

前立腺肥大症

前立腺は、精液の成分の一つである前立腺液を作っている男性特有の臓器で、膀胱の真下に尿道を取り囲むように位置しています。

前立腺が加齢とともに肥大化することにより、尿道や膀胱が圧迫され、さまざまな排尿障害がでてくる病気が前立腺肥大症です。

前立腺が大きくなると、内側の尿道を圧迫して、前立腺の筋肉が過剰に収縮して尿道が圧迫されるために、尿が出にくくなるなどの排尿障害があらわれるようになります。

前立腺肥大症による排尿障害を長い間放っておくと、肥大が進み、膀胱に残る尿の量が増え、感染や腎不全などの病気を引き起こすことがあります。

神経因性膀胱

神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)とは、膀胱の収縮する力が弱ってしまい、膀胱に溜まった尿をうまく排出できない病気のことを指しています。 

神経因性膀胱は、脳・脊髄の中枢神経、あるいは脊髄から膀胱に至るまでの末梢神経の様々な病気により、膀胱や尿道の働きが障害されて、排尿障害などの症状を呈します。

神経因性膀胱は、畜尿や排尿を管理している大脳や、脳と膀胱を繋いでいる脊髄や末梢神経などが損傷し障害されることによって、頻尿や残尿感、尿が漏れる(尿失禁)、うまくおしっこが出来ない排尿障害の症状などを伴って生活の質が低下することになります。

尿道狭窄

尿道狭窄症は何らかの原因で尿道に傷がつき、治る過程で尿道の内腔が狭くなる疾患であり、尿勢低下、排尿時間遅延、残尿感といった症状を認めます。

排尿に関する症状以外にも、会陰部(陰嚢と肛門の間の部分)の痛みや射精障害を呈することもあります。

尿道狭窄が尿の流れを低下させると症状が現れやすくなり、排尿障害、尿路感染症、前立腺の腫れが発生する可能性があり、長期間の重度の尿道閉塞は、腎機能障害を合併する可能性もあります。

排尿障害の対処法

排尿障害でお悩みの方は、次のような対処法を試してみることである程度改善できる場合があります。

ぬるま湯をかけて刺激する

なかなか排尿ができない場合には、温水シャワーがあるトイレ環境を整備する方法や、陰部にぬるま湯をかけるなどの方法で尿意を刺激して排尿を促す手段が考えられます。

それ以外にも、息を吸って腹部を膨らませて、ゆっくりと下腹部を押すようにしながら、排便時のように肛門周辺を意識しながら排尿する方法が排尿障害に対して有効的に働く場合もあります。

排尿障害で困っている際には、ぬるま湯を陰部にかけて刺激する工夫を試すなど、自分に合った排尿方法を見つけていきましょう。

尿意のサインを感じ取る

尿が膀胱に溜まっていても尿意を感じにくくなるケースでは、一定の間隔ごとに尿意を感じなくてもトイレに行く時間排尿が有効であり、トイレに行くタイミングの目安は2~4時間程度とされています。

排尿障害の場合には、今までの尿意のかわりに、おなかの下の方が張る、重い感じがするなどの尿がたまってきたなどの体の変化を感じて、トイレに行くように訓練していきます。

尿意を感じにくくなってきても、下腹部が張ったり重い感じがしたりといった尿意のサインがありますので、日常的に焦らず訓練して、こうしたサインを感じとれるように努力していきましょう。

そうした訓練をしている中においても、特に、トイレに設置してある「流水音」や水の流れる音を流すなどリラックスできるトイレの環境を整えることによって、排尿がスムーズに行えることが期待できます。

まとめ

これまで、尿意があるのに尿が出ない場合に考えられる原因と対処法などを中心に解説してきました。

排尿障害は、蓄尿障害と排出障害に分類できます。

蓄尿障害とは、文字通り「ためておくことができなくなる」障害であり、膀胱排尿筋の過活動や、膀胱出口の抵抗が弱くなる、尿道閉鎖圧が低下するといったことが原因となり、尿失禁や頻尿が生じます。

一方の排出障害は、「出すことができなくなる」障害であり、膀胱排尿筋の収縮力低下や、膀胱出口の抵抗が大きくなることなどにより、排尿困難に陥るものです。

排尿障害への対策を検討するためには、まず排尿障害のタイプを知ることが大切です。かかりつけの担当医師に相談し、自分の排尿障害のパターンを知ってから対策を取りましょう。

特に、尿が出ないためにおなかの下の方が張って苦しい場合や、1日中尿が出ないとき、極端に尿の量が少ないときには泌尿器科など専門医療機関を受診する必要があります。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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