日本人は塩分のとりすぎ?健康への影響と過剰摂取を避ける方法

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塩分の摂り過ぎは体に良くないといわれますが、それはどのような理由によるものなのでしょうか。

ここでは、日本人の塩分摂取の傾向や適切な摂取量を取り上げます。また、塩分の過剰摂取による健康への影響や、減塩のポイントを紹介します。

日本人と塩分摂取

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日本人の塩分摂取の傾向や、適切な摂取量の目安を見てみましょう。

日本食は塩分が多い?

塩分は和食の特徴である「出汁のうま味」を引き立たせますし、塩漬けは保存性を高める調理法です。ほうれん草をゆでる時に加える塩は食材の色を良く見せます。

魚を焼くときに塩を振るのは、うま味を逃がさないためですし、うどんのコシは塩なしでは出せません。塩分には、和食に欠かせない調理上の大切な役割が昔からあります。

「最後に塩で味を整える」という調理方法は、実は海外ではあまりされていない、和食調理の特徴といえます。

したがって、和食は塩分過多になりやすい食事といえます。

このことは、和食を食べる日本人の1日あたりの塩分摂取量が多く、目安となる摂取量を上回っているデータからも推測できます。

日本の塩分摂取量の実態は1日平均10g以上と一定の目安を上回っており、さらに60代70代では1日11g以上といわれています。

和食と中華料理や洋食料理を比べると、和食では特に塩分の濃い料理があることが理解できます。

塩分の適切な摂取量

1日の塩分摂取量(食塩摂取量)の基準は、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」によれば、男性7.5g未満、女性6.5g未満となっています。日本高血圧学会では高血圧の予防・治療のためには、1日6g未満、WHO(世界保健機関)では1日5g未満としています。

ところが、平成30年の食塩摂取量の平均値は1日あたり10.1g、男女別にみると男性11.0g、女性9.3gであり、日本人は食塩(ナトリウム)を多く摂り過ぎていることが分かります。

塩分の過剰摂取による健康への影響

血圧が高い

塩分の過剰摂取が続くと、次に挙げるような健康上の問題が生じることがあります。

高血圧

人の体には、血液などの体液を一定の濃度に保つ仕組みがあります。

例えば、小さな梅干し10個(食塩20g相当)を食べると、濃度を一定に保つために、体液量が約2リットル増加するといわれています。

この過剰に増えた水分を元に戻すために、腎臓は圧力(血圧)と時間(数日間)をかけて血液をろ過し、尿として排泄しています。

毎日のように塩分を過剰に摂取していれば、それを排泄するために、常に血圧を高く保つ必要に迫られて、自然と高血圧になってしまいます。

食塩をとり過ぎると、一時的に高くなった塩分濃度を下げるために、体内に水分がため込まれることに伴い、心臓に送り込まれる血液量が増えることによっても、血管にかかる圧力が増して、血圧が上がるといわれています。

胃がん

塩分のとり過ぎは、高血圧の原因となり、様々な生活習慣病を引き起こすだけではなく、胃がんのリスクが上がることもいわれています。

過去に、国立がん研究センターが、40~59歳の男性約2万人を10年間追跡調査したところ、食塩摂取量が最も少ない人に比べて、中程度の人は1.96倍、最も多い人は2.23倍、胃がんの発生率が上がることがわかりました。

これは、食塩のとり過ぎによって、胃の粘膜が傷つけられて炎症が起こり、胃がんができやすい環境をつくることが原因と考えられています。

日本の食文化と関わりの深い塩分濃度の高い塩蔵魚介類を控えることは、胃がんのリスクを減らすために、重要であると考えられます。

胃がん予防の観点からは、特に高塩分の食品を減らすことが重要です。

心臓・脳・腎臓の病気

塩分を過剰摂取して体液量が増えることで、たくさんの血液を押し出すために心臓への負担となり、心筋が肥大し心臓の病気の原因になります。

総合的な食塩の過剰摂取も高血圧の発症と密接に関連する結果、脳卒中や心筋梗塞のリスクを高めます。

塩分を摂り過ぎると、体内の塩分濃度が過剰となり、それを排泄させるために、腎臓の糸球体に過剰な負担をかけますし、高血圧を引き起こして、腎機能低下を早める原因となります。

塩分の摂り過ぎを避ける方法

カリウム不足の症状 アイキャッチ

毎日の食事で塩分を摂り過ぎないようにするために、次のような方法を取り入れるとよいでしょう。

調味料を上手に使う

私達の食生活の中での基本的な調味料は、しょうゆ・みそ・塩・砂糖・酢などですが、実際にはそれ以外にもさまざまな調味料が存在します。

現在、食塩の過剰摂取が生活習慣病予防の課題のひとつであり、食塩摂取の約7割が調味料類からであるといわれています。

塩分の含まれた調味料の使い方はもちろん、それ以外の酢・香辛料・だし(うま味)などの調味料を上手に使うことが大切です。

調味料は、料理や食品に味や香りをつけるだけではなく、食品の弾力・粘り・つや・保存性など、料理全体を通してのおいしさを左右する重要な食品であり、調味料を上手に使うためには、それぞれの味の性質を知ったうえで使いこなしていくことが大切です。

調味料は基本的なものとして、塩・砂糖・酢・しょうゆ・みそがあり、さらに、酒・トマトケチャップ・ウスターソース・マヨネーズ・ドレッシング類・各種たれ類・ルー類・油脂・香辛料・うま味調味料(化学調味料)なども含まれます。

毎日の食事で食塩の過剰摂取を防ぐためには、食塩だけに注目するのではなく、塩分が多く含まれている調味料を知り、まずはかけ過ぎ・つけ過ぎなどの使い過ぎに注意しましょう。

カリウムを摂取する

カリウムは、健康を保つために必須のミネラルであり、多くの食べ物に含まれていますが、意識しないとなかなか必要量を満たせない栄養素です。

過剰なナトリウム摂取は高血圧の要因のひとつとされていて、カリウムには体内で過剰になったナトリウム(塩分)を、汗や尿として体外に排出する役割があります。体内でナトリウム濃度を一定に保つために、カリウムがバランスをとってくれています。

高めの血圧が気になる人は、カリウムを積極的に摂るとよいでしょう。野菜や果物にカリウムは多く含まれています。

加工食品を控える

ほとんどの加工食品には、食塩が相当量使われています。

日本人の塩分摂取源を調べたところ、醤油や味噌などの自分でコントロールできる調味料類と、漬物や魚、パン、練り物など加工食品の部分を比較してみると、6割が加工食品などに由来する塩分ということがわかりました。

そのため、加工食品をできるだけ控えなければ、なかなか根本的な減塩は難しいということになります。

まとめ

これまで、日本人は塩分のとりすぎなのか、健康への影響と過剰摂取を避ける方法などを解説してきました。

塩分は、人体にとって欠かせない栄養素のひとつであり、日本食のおいしさにも関わっています。

しかし、塩分のとりすぎは、さまざまな健康上のリスクにつながる可能性があります。

日本人が摂取している塩分の平均値は目標よりも多いため、減塩は意識したい問題のひとつです。

一般的な減塩の調理方法としては、調味料はきちんと計量して使うことや、表面に味をつけて味を感じやすくすること、だしの風味や酸味・辛味を上手に使い、塩や醤油の量を減らすことが重要であると言われています。

減塩に取り組めば、高血圧や胃がん、脳梗塞や心臓病といった病気の発症リスクを下げることにつながります。

今回の情報が参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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