汗が出ないのは病気?無汗症の種類と原因
汗には体温の上昇を抑える役割があります。汗をかくべき状況でしっかり汗をかけないと、熱中症などのリスクが高まります。
発汗刺激を受けたり、発汗すべき環境であったりしても発汗量が正常より少ない場合を乏汗症、まったく発汗しない場合を無汗症と呼びます。ここでは無汗症の種類と原因について解説します。
汗をかかなくなる無汗症の種類
無汗症には先天性無汗症と後天性無汗症があります。
先天性無汗症
先天性無汗症には、遺伝性無汗性外胚葉形成不全症、Fabry病、先天性無痛無汗症などがあります。
無汗症では、発汗が減少したりなくなったりするため、皮膚が乾燥し、かゆみが出ることがあり、広範囲の無汗症では、高温になると体温調節の障害で、発熱、脱力、易疲労性、頭痛、めまい、嘔気、動悸などが起こります。
先天性無汗症に対する根本的な治療はなく、広範囲の無汗症では対処療法として、運動の制限や涼しい環境の維持など体温調節を行います。
後天性無汗症
後天性無汗症には、特発性無汗症、交感神経異常(Horner症候群、脳幹異常、多発性神経炎、シェーグレン症候群)、皮膚病に伴うもの、内分泌異常(甲状腺機能低下、脱水、視床下部異常)、薬剤によるものなどがあります。
後天性のうち、基礎疾患によるものは基礎疾患の治療を行い、後天性特発性無汗症では、ステロイドの全身投与が有効なことがあります。
後天性無汗症の原因
後天性無汗症の原因はいくつもあります。詳しく見てみましょう。
甲状腺機能低下症
後天性無汗症のひとつの原因は、例えば甲状腺機能低下症が挙げられます。
甲状腺機能低下症とは、甲状腺のはたらきが低下して甲状腺ホルモンの分泌量が通常よりも少なくなる病気のことです。
甲状腺ホルモンは甲状腺で生成・分泌されるホルモンであり、全身の新陳代謝を活発にする作用があります。甲状腺ホルモンの分泌量が減少することで、疲労感、むくみ、寒がり、便秘、体重増加、脱毛、無汗症といった症状が引き起こされるようになります。重症化すると、心不全や意識障害を引き起こすケースもあります。
また、甲状腺ホルモンは卵子の成熟や子どもの成長に必要なホルモンであるため、甲状腺機能低下症を発症すると生理不順や不妊、小児期の成長・発達障害がみられることがあります。
自己免疫疾患
後天性無汗症では、シェーグレン症候群などエクリン汗腺の異常を伴う自己免疫性疾患が原因になることもあります。
シェーグレン症候群とは、免疫のバランスが崩れることによって涙や唾液を産生する涙腺・唾液腺などの臓器を攻撃し、眼乾燥(ドライアイ)や口腔乾燥(ドライマウス)を主にきたす病気のことです。
自己免疫性疾患(免疫の異常によって自分自身を攻撃してしまう病気)の一種であり、涙腺や唾液腺だけでなく全身の関節、肺、皮膚、消化管、腎臓などさまざまな部位にダメージが及ぶこともあります。
シェーグレン症候群を発症すると目や口の乾燥が目立つようになりますが、多くの人は症状とうまく付き合いながら治療の必要なく生活しています。
一方、一部の人には目や口の乾燥以外にも、腎臓、肺、皮膚などにも病変が現れたり、まれに悪性リンパ腫の合併が見られたりすることもあります。
また、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどほかの自己免疫疾患に合併する二次性シェーグレン症候群もあります。
交感神経の異常
Horner(ホルネル)症候群と呼ばれる交感神経異常が後天性無汗症の原因になることがあります。
Horner症候群では、顔の片側において、まぶたが垂れ下がり、瞳孔が小さくなり(収縮)、発汗が減少します。原因は、脳と眼をつないでいる神経線維が分断されることです。
Horner症候群は自然に発生することもあれば、脳から眼につながる神経線維を分断する病気が原因で発生することもあります。
まぶたが垂れ下がり、瞳孔が縮小したままになり、異常が生じた側の顔面はあまり汗をかかなくなることがあります。
医師は、瞳孔が散大するかどうかを調べ、原因を見つけるために画像検査を行い、原因が特定されればそれに対する治療を行います。
薬剤によるもの
後天性全身性無汗症の原因は、エクリン汗腺の異常、交感神経の異常、自己免疫性疾患以外にも、薬剤などによる続発性の発汗障害と原因不明の特発性後天性全身性無汗症に分類されています。
例えば、ヒスタミンはH1受容体を介して汗腺分泌細胞からの汗の分泌を阻害し、発汗活動を抑制することもよく知られています。
特発性後天性全身性無汗症
特発性後天性全身性無汗症は、後天的に明らかな原因がなく汗をかくことができなくなり血圧が低くなるなどの他の自律神経異常および神経学的異常を伴わない疾患と定義されています。
患者さんは体温を調節する役割のある汗を出す機能が障害されるため、運動や暑熱環境でうつ熱を起こし、全身のほてり感、体温上昇、脱力感、疲労感、顔面紅潮、悪心・嘔吐、頭痛、めまい、動悸などの症状がみられます。
ひどい場合には、熱中症になり意識を失ったりすることもありますし、運動や暑熱環境で皮膚のピリピリする痛みや小さな赤い発疹(コリン性蕁麻疹)がしばしばみられます。
欧米人より日本人のほうが圧倒的に多いと考えられていますし、10~30歳代の若い男性に多いとされていて、もともとたくさん汗をかくことが多い職業やよく運動をしている人に発症しやすいです。
この病気に関する、令和3年度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は全国で551名とまれであるものの、患者数は年々増加しています。実際は病院に受診できていない患者さんもいると考えられますので、患者数はもっと多い可能性があります。
特発性後天性全身性無汗症が発症する原因は、詳細にはまだわかっていません。一般的には、汗を出すエクリン汗腺という器官のアセチルコリン受容体にアセチルコリンという神経伝達物質が結合することにより汗が出ますが、このアセチルコリン受容体または汗腺自体に異常があることが発症原因のひとつといわれています。
特発性後天性全身性無汗症に対しては、ステロイド・パルス療法という治療法があり、副腎皮質ステロイドであるメチルプレドニゾロン(500~1000mg/日)を3日間点滴静注することを1~2回行うことがあります。
なお、この病気は基本的には遺伝しません。
まとめ
無汗症の種類と原因などを中心に解説してきました。
運動をした時とか暑くて気温の高い環境にいても汗をかくことができない病気を無汗症といいます。
無汗症には、生まれつき遺伝する先天性無汗症のほか、大人になって後天性(生まれつきではない)に発症する後天性無汗症があります。
特発性後天性全身性無汗症を含めて、無汗症では、運動したり暑くて湿度の高い環境に長くいたりすると熱中症になることがありますので、運動はできるだけ避け涼しい環境にいるよう心がけることが重要です。
それ以外にも、クールベストの着用、ペットボトルの水を携帯するなど体の冷却を心がけることも大切です。
重症で熱中症を起こすか生活に支障をきたすなど治療が必要なときには、副腎皮質ステロイド薬の全身投与されることもあります。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。