「黒くなる」は誤解?ステロイド外用薬の効果と副作用

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様々な皮膚疾患にステロイド外用薬が使用されます。ステロイドを使用すると、かなり早いタイミングで皮疹が改善してくるため、その強すぎる効果に怖いと思う人もいるでしょう。

確かにステロイドには副作用があり、正しく使う必要があります。怖がって全く使わなかったり、必要量よりも少な目に使うことによって、病気がより悪くなってしまうこともあります。

ここではステロイド外用薬を取り上げ、期待できる効果と副作用、誤解されることの多い副作用について解説します。

ステロイドとステロイド外用薬

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ステロイドは、人間の体の中でコレステロールを原料として作られているホルモンの一種です。ステロイド骨格と呼ばれる共通の骨格を持つため、ステロイドホルモンとも呼ばれます。

ステロイドホルモンは、副腎という組織から作られます。ステロイドホルモンには複数の種類があって、女性ホルモンや男性ホルモンといった性ホルモンや、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイドなどがあります。ステロイドとステロイド外用薬について詳しく見てみましょう。

ステロイドの働き

ステロイドホルモンは全身に作用して、血糖値を上昇させたり、タンパク質を分解したり、脂肪を精製させたり、気分を高揚させたり、様々な効果があります。

治療でよく期待される効果が、アレルギーなどの免疫反応を抑えて炎症を鎮める働きです。この働きを期待して投与されるのが、糖質コルチコイドであり、一般にステロイドと言うと、この糖質コルチコイドと同じ働きを持つ薬剤のことを言います。

ステロイド外用薬の使い方

ステロイドの外用薬は、局所のアレルギー反応を強力に抑え込むことによって、様々な皮膚疾患の治療に用いられます。一過性に起こってくるような蕁麻疹をはじめとした皮疹ももちろんですし、長期的に皮疹が出たり消えたりするような皮疹にも使用されます。

ステロイドの効果は、強さによってランク分けがされています。一番強いものをストロンゲスト、2番目に強いものをベリーストロング、その次がストロング、続いてマイルド、一番弱いものをウィークと、5段階に分類しています。

それぞれ皮疹の状態や、体の皮疹が出ている部位によって使い分けをしていきます。

実際にはどのように使い分けするのでしょうか。

首より下の部分に使うお薬としては、第一選択はストロングクラスの薬となります。それから湿疹の程度が強いと、ベリーストロングクラスのものを使うようになります。ストロンゲストは非常に強いため副作用も出やすいので、炎症の程度が非常に強い場合に短期間に限定して使用することになります。

注意が必要なのは顔面や陰部です。これらの場所では血流がよく、薬が体の中に吸収されてしまう割合が高くなります。通常は他の部分に比べてワンランク下げた弱い外用薬を使用し、皮疹が強いときにだけ、強いものを短期間使います。

また子供は一般的に大人の場合よりも皮膚が薄く吸収が良いとされていますので、大人の陰部と同じように若干弱めの薬を使うようになります。

外用薬と内服・注射との違い

ステロイドの薬は糖質コルチコイドと同じような構造をしており、体内に入ると糖質コルチコイドと同じような作用をします。内服薬や注射の薬だと、体の中にそのまま入ってきますから、これらのステロイドホルモンが体の中で増加したのと同じような反応が起こってきます。

一方で外用薬では、一部は吸収されていきますが、ほとんどは皮膚の表面に残ります。そのため局所の炎症は抑えますが、体全体への副作用はほとんど起こってきません。

非常に強い外用薬を長い期間にわたって、広い範囲に使用すると、少量の吸収率といっても合計すると大量なステロイドが体の中に入ることになります。このような場合は外用薬でも、内服や注射をしている場合と同じような副作用が起こってくることもあります。

ステロイド外用薬の副作用

肌トラブルに悩む女性

ステロイド外用薬の副作用に関しては、色素沈着の原因になる、一度使うとやめられなくなるなど、副作用が強い薬であるという風に言われていますが、実際にはそのような副作用はあまりありません。

しかし、全く副作用がないというわけではなく、次に挙げるような副作用が見られます。

毛包炎

毛穴に起こってくる炎症のことです。免疫を抑制するために、皮膚の常在菌が増殖することによって起こってきます。ストロング以上のステロイド外用薬を使用した場合、使用直後から起こってくることがあります。抗生剤入りのステロイドを使用することで抑えられることが多いです。

ニキビ

ニキビはアクネ菌という細菌が増殖することによって起こってきます。ステロイドを使用することによって、ニキビが増えることがあります。

感染症の悪化

常在菌が増殖するような毛包炎やニキビも増加しますが、水虫など皮膚常在菌以外の細菌や真菌などが増殖しているところにステロイドを塗ると、感染症がさらに悪化してしまいます。

皮膚萎縮・皮膚線条

皮膚にひび割れのようなものができてくる症状です。ステロイドを使用すると、皮膚自体が薄くなってくるために、圧力に負けてひび割れのようなものができてくることがあります。ただこれは一過性のもので、ステロイドの使用を中止すると改善してきます。

多毛

毛の生える周期が乱れ、ステロイド外用薬を塗っている部分の毛が多くなってくることがあります。

色素脱失

メラニン色素の生成を阻害するために、塗っている場所の肌の色が薄くなってくることがあります。

酒さ様皮膚炎

主に顔面に起こってきます。ステロイドを長期間顔面に広い範囲に塗ることで、酒さと呼ばれる皮膚炎と似たような症状が起こってきます。具体的には、顔面全体が赤ら顔になってきます。皮膚の浅いところの毛細血管が拡張し、透けて見えることによって起こってきます。

ステロイド外用薬についての誤解

ステロイド外用薬を使用すると様々な副作用が起こってきますが、一般に言われる副作用の中には誤解によるものが含まれています。

肌が黒くなる(色素沈着)

ステロイドを塗ると、肌が黒くなるという風なことがよく言われます。確かに、皮膚炎が起こった後治療をして、その後に黒っぽくなることはあります。これは皮膚に炎症が起こることで、その場所のメラニン色素が増生し、皮膚が黒っぽくなったものです。

ただし、これは炎症によるものであって、ステロイド外用薬の治療によるものではありません。むしろ、ステロイドを使用すると、色素が抜け、色が薄くなってくる方が多いのです。

癖になる

ステロイドが依存症があるかのように言われることがあります。依存症については、精神依存と、身体依存というものが様々な薬品や物質に存在しています。

確かに皮膚炎が起こった後、ステロイドを塗り続けて、急にステロイドを塗るのをやめると皮膚炎が増悪し、あたかも身体依存が形成されているかのように思える場合があります。

しかし、これは皮膚炎が完治していないから起こってくる症状で、ステロイド自体が症状を引き起こしているわけではありません。

薬理学的にも、身体依存や精神依存を起こすような物質ではないことが示されています。

骨がもろくなる

確かにステロイドホルモンの薬の影響で、骨粗鬆症は起こってきます。内服や注射のステロイドを使用していると、骨がもろくなってくることはよくあります。

しかし、前述のように、外用薬のステロイドは、内服や注射のステロイドと違い、全身に対する影響は非常に限定的です。正しく薬を使用している範囲では、骨がもろくなるほどの影響は出てこないでしょう。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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