肝性脳症はどんな病気?なりやすい人と治療法
肝性脳症とは、肝硬変や肝臓がんなどによって肝臓の機能が著しく低下し、肝臓で代謝されるアンモニアなどの有害な物質が体内にとどまる病気です。
有害な物質が脳にダメージを与えて、性格や行動の変化、睡眠リズムの乱れなどの症状が引き起こされます。病状が進行すると、錯乱や昏睡、運動機能の異常などの症状が現れて、重篤化して死に至ることもあります。
ここでは肝性脳症について詳しく解説します。
肝性脳症はどんな病気?
肝性脳症のメカニズムや症状の特徴を見てみましょう。
肝性脳症のメカニズム
肝性脳症は、肝臓の機能低下によってアンモニアなどの有害物質が血液中に蓄積し、それらが脳に運ばれることで起こります。
発症原因となる肝機能低下の原因としては、肝硬変(肝臓の慢性的な炎症によって肝臓の機能が悪くなる病気)や急性肝不全(ウイルスや薬剤による急激な肝臓の炎症)などが挙げられます。
ただし、個人差が大きく、発症しない方もいます。
また、肝臓の機能とアミノ酸は密接な関係がありますので、肝機能が低下すると、血液中のアミノ酸のバランスが崩れ、脳に影響を及ぼして肝性脳症を発症する場合があります。
肝性脳症は、様々な要因により肝代謝を受けなかった有害物質が中枢神経に作用することによって発症する神経機能障害です。
肝機能の低下や門脈大循環短絡、慢性便秘、消化管出血、窒素負荷、脱水、感染症、向精神薬や利尿薬の使用などが肝性脳症の発症に関与しています。
肝性脳症の症状の特徴
肝性脳症の症状は精神神経症状で、重症度(昏睡度)によって5段階に分けられます。
もっとも軽い1段階目では夜眠れずに昼に眠る、だらしない態度などですが、本人はあまり自覚症状を感じません。
また、アミノ酸を分解する機能の異常により、かび臭く甘ったるい口臭がする場合があります。
2段階目になると「羽ばたき振戦」という特有の症状が見られ、両腕を前に伸ばし手の甲を上にして保持しようとすると、手が小刻みに震える症状が見受けられます。
さらに進行すると興奮状態、意識混濁や幻覚などを伴う反抗的な態度も見られるようになり、最も重い5段階目では痛みにも反応しない深い昏睡(完全な意識消失)状態になってしまいます。
肝性脳症は重度な肝機能低下によって引き起こされる病気であるため、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、腹水(お腹に水がたまる)、むくみ、出血しやすいといった症状を伴います。
肝性脳症になりやすい人
肝性脳症は、肝機能が低下することで意識障害などが起こる病気です。
肝臓には、体内で作り出されたアンモニアなどの毒素を解毒・分解する役割がありますが、肝硬変、肝細胞がん、アルコール・薬物性肝障害などを含めて、色々な理由で肝機能が低下すると、アンモニアがきちんと解毒されません。
その結果、血液中のアンモニア濃度が上昇したり、体内のアミノ酸バランスが崩れたりすることで、脳に影響して肝性脳症になることがあります。
肝性脳症は重度な肝臓の病気によって肝機能が低下し、体内にとどまったアンモニアなどの有毒な物質が脳に達することによって発症するため、劇症肝炎など急激に肝機能が著しく低下する病気を持っている人に発症しやすい病気です。
また、肝硬変や肝臓がんなどのように徐々に肝機能が低下していく病気などを有する人も肝性脳症を発症しやすいと考えられます。
便秘、たんぱく質の過剰摂取、脱水、電解質バランスの変化、アルコール摂取、感染症、消化管出血などを認める場合に、徐々に肝機能が低下して、肝性脳症を発症するケースが多いとされています。
肝性脳症の予防と治療
肝性脳症の予防と治療について見てみましょう。
食事療法
肝性脳症は、もともと肝機能低下があり、便秘やたんぱく質の過剰摂取がきっかけとなって発症する場合も少なくないため、肝性脳症の発症を予防するためには、日常的に便通を整えて、たんぱく質を取り過ぎない食事を心がけることが重要です。
たんばく質の過剰摂取は肝性脳症を発症させる可能性があるため制限が必要な場合があります。便秘は肝性脳症を起こしやすくするために、普段から食物繊維を摂取して便秘を解消するなど食事療法指導がおこなわれます。
肝性脳症は多くの場合、治療すれば治りますが、慢性肝疾患の患者さんは、将来脳症を発症しやすくなりますし、一部の患者さんにおいては継続治療が必要です。
薬物療法
肝性脳症とは、正常な肝なら代謝されるはずの有害物質(アンモニアなど)が脳に達することによって生じる合併症ですが、肝臓の機能が低下すれば全ての患者さんが発症するというわけではありません。
基本的には、肝性脳症の治療は、体内にとどまっている有害な物質を減らすための薬物療法が主体となります。
具体的には、腸におけるアンモニアなどの有害な物質の産生や腸からの吸収を減らす作用を持つ二糖類、アンモニア産生を促す腸内細菌を減らすための抗菌薬などが挙げられます。
昏睡に至ったような重症な場合には、アミノ酸代謝異常による意識障害を改善させ、アンモニアの分解に必要な分枝鎖アミノ酸を補うために薬剤点滴を行う必要があります。
外科的治療
反復する肝性脳症に対する治療は、門脈血中アンモニアが大循環系に多量に排出しないよう短絡路の遮断を要すると考えられています。
日本では、1970年代からHassab手術を含む胃腎静脈短絡路遮断が行われてきました。
また、上腸間膜、下腸間膜静脈から下大静脈への外科的な短絡遮断術も有効な外科的治療であるとされてきました。
まとめ
これまで、肝性脳症はどんな病気か、肝性脳症になりやすい人と治療法などを中心に解説してきました。
肝性脳症の引き金となるのは便秘・脱水・蛋白過剰摂取・感染・消化管出血などであり、下剤を用いて排便コントロールを行ったり、腸の中のアンモニアを発生する菌を抗生物質によって抑えたり、アミノ酸バランスの崩れを補正する薬を使用します。
肝性脳症は早期に発見して、神経機能障害を認める場合の治療だけでなく、予防的な治療も含めて、適切に治療することが生命予後の改善につながります。
肝性脳症の症状は人それぞれで違う場合もありますので、不安な点はかかりつけの主治医、あるいは消化器内科専門医や肝臓専門医などに相談してください。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。