急性心膜炎はどんな病気?心筋炎との違いと症状の特徴

急性心膜炎とは、心臓の周りを覆う心膜に急性炎症が生じる病気です。多くは感染症が原因で発症します。
急性心膜炎は自然軽快することも多いですが、心タンポナーデや急性心筋炎を合併することもあります。
ここでは急性心膜炎を取り上げ、症状の特徴や心筋炎との違いについて解説します。
急性心膜炎はどんな病気?

急性心膜炎は、感染症や自己免疫疾患によって続発的に発症する心膜、あるいは心外膜の炎症を起こします。胸痛症状を自覚する疾患群の約1~5%を占めており、16~60歳代の男性で罹患頻度が高いとされています。
急性心膜炎の症状の特徴
急性心膜炎は、心臓を包んでいる2層の袋状の膜である心膜部位の炎症が急性に発症する病態であり、フィブリンや赤血球、白血球などの血液成分や体液が心膜腔に貯留すると考えられています。
発熱や胸痛症状が出現し、心膜液が炎症に伴って過剰に増加して心臓を圧迫する心タンポナーデの状態に陥ることがあります。
ウイルス感染症に伴う急性心膜炎の場合は、一時的に胸痛を伴うが、長期的に症状が継続することは極めて稀です。
心膜腔に貯留した体液や血液によって心臓が周囲から圧迫されることによって全身に血液を駆出する心機能が障害を受けて、貯留液が大量になって心臓への圧迫が強度に悪化すると生命に直結して死に至る可能性もあります。
急性心膜炎の原因
急性心膜炎の原因は感染症であることが多く、そのほかにも、心臓手術の影響や自己免疫疾患が原因になることがあります。
感染症が原因の場合
急性心膜炎は、各種感染症や心膜に炎症を起こす疾患が原因となって発症し、主な急性心膜炎のリスク要因としては、ウイルス、細菌、寄生虫、真菌などを含む感染症があります。
特に、後天性免疫不全症候群の患者では、結核やアスペルギルス症などの感染症自体が急性心膜炎の原因になると考えられています。
感染以外が原因の場合
急性心膜炎は各種細菌やウイルス感染以外にも、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなど自己免疫疾患、腎不全、胸部外傷、白血病や乳がんを含む悪性腫瘍などが原因となって発症する場合があります。
その他、急性心筋梗塞の合併症として、あるいは、がん治療の一環として行われる放射線治療、心臓手術(開心術)などによって発症する場合もあります。
急性心膜炎の検査と診断
通常は、急性心膜炎に対して心電図検査を実施して、およそ60%の症例に広範囲(通常aVrを除く)の誘導においてST上昇変化、あるいはPR部分の低下が認められます。
また、心嚢液貯留所見の有無を評価するため、胸部レントゲン検査および心臓超音波検査を実施することがあり、心臓超音波検査では、急性心膜炎の約6割の症例で心嚢液貯留サインが認められます。
血液検査においては、白血球や赤血球沈降速度(erythrocyte sedimentation rate)、および炎症マーカーであるCRPの軽度高値が認められて、心膜炎の病勢や治療効果などの指標に用いられます。
炎症自体が心筋領域へ波及すると、クレアチニンキナーゼ(CK)やトロポニンなど心筋傷害マーカーが上昇します。
急性心膜炎の原因が明確に判明しない場合、胸壁を通して針を挿入して、心嚢液や心膜組織のサンプル検体を採取する心嚢穿刺を実施して、正確な診断につなげることもあります。
急性心膜炎の治療
急性心膜炎に対する主な治療策として、非ステロイド系抗炎症薬などの抗炎症薬やコルヒチン服用が挙げられます。
がんなど悪性腫瘍を基礎とする急性心膜炎の場合には、原疾患の治療を実践することになりますし、急性心膜炎に伴う心嚢液貯留が大量に認められる場合には、心膜切開など外科的な治療を要することがあります。
急性心膜炎の発症原因にかかわらず、原則的に入院して治療を実践し、心タンポナーデなど重大な合併症が引き起こされているかどうかを慎重にモニタリングして評価します。
心膜炎と心筋炎の違い

心臓は心膜という硬い膜に覆われていますが、その心膜だけに炎症が起こった場合を心膜炎といいます。
心筋炎と同様に、発症原因はほとんどがウイルス感染で、症状は持続性の胸痛、どくに深呼吸に強くなる胸痛がみられます。
典型的な心膜炎は心電図と心エコーで診断できますが、心膜に起こった炎症が軽度である場合には、検査で異常が認められない場合もあります。
一般的に、ウイルス性心膜炎は、かぜと同様に数日の経過で治癒します。
一方で、心筋炎とは、主にウイルスが心臓の筋肉(心筋)に感染し心筋細胞に炎症が起こり、心筋の本来の機能が失われ、ポンプである心筋の収縮不全や不整脈を生じる疾患です。
心筋の炎症を起こす原因には、ウイルス以外の細菌や寄生虫による感染、薬物や毒物による中毒性、膠原病などの全身疾患に続発するものがあります。
ウイルス感染の際には、心筋炎を発症する1~2週間前に先行するウイルス感染による上気道の感染症状がみられます。
原因ウイルスはほとんどの場合、風邪の原因となっているウイルスですが、ウイルス感染が起こった場合どのくらいの頻度で心筋炎を発症するかについてはよくわかっていません。
ウイルス性心筋炎の原因ウイルスの除去が困難である場合がほとんどであり、治療内容は、心不全、ショック、不整脈、他の感染症などの合併症に対する対症治療が中心となります。
心疾患が無くもともと元気だった人が、かぜ症状が落ち着いたあとに、動悸、呼吸困難、胸痛、疲れやすさ、といった症状が出現してきた場合には、心筋炎を疑い検査を受けることをおすすめします。
まとめ
これまで、急性心膜炎はどんな病気なのか、心筋炎との違いと症状の特徴などを中心に解説してきました。
ウイルス感染症に続発して発症することが多いですが、それ以外にも結核やSLE(全身性エリテマトーデス)などの膠原病、がんの転移、心筋梗塞などが原因となり発症し、急性心膜炎を発症すると、特定の姿勢で悪化する胸痛や呼吸困難が現れます。
急性心膜炎に対する治療は安静を保ちつつ、症状に応じた対症療法を行います。
自然軽快することも多いですが、心タンポナーデや急性心筋炎を合併しているときには、心嚢穿刺(心嚢液を排液する)など、集学的な治療が必要となります。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。