瘙痒感(そうようかん)とは?高齢者に多い皮膚掻痒症と漢方薬

掻痒感とは、かゆみのことです。どんな人もいろいろな時に痒みを感じると思いますが、非常に痒みが強い場合もあります。
中でも、皮膚に痒みが生じるのが皮膚掻痒症です。ここでは皮膚掻痒症を取り上げ、どのような場合に痒みが強くなるのか、どのように対策したらよいのかについて解説します。
瘙痒感(そうようかん)とは

掻痒感というのは、かゆみのことを言います。痒みは非常に不快な症状ですが、どのようにして起こるのでしょうか。
実は痒みが起こる機序というのはまだはっきりとわかっていません。少なくとも、皮膚にある痒みを検知する機構が存在し、その機構がかゆみがあるという情報を神経に伝えて、神経が脊髄、脳へと伝達することによってかゆみを感じていることは間違いなさそうです。しかし、肝心のその痒みを検知する機構がはっきりとしていないのです。
1つ有力な説として言われているのが、ヒスタミンの関与です。皮膚には肥満細胞という細胞が存在します。肥満細胞の中にはヒスタミンが大量に含まれていて、何らかの刺激によって細胞からヒスタミンが大量に放出されます。
ヒスタミンが痛みやかゆみを知覚する知覚神経に直接作用することによって、刺激がかゆみとして脳に伝えられます。また、この刺激は同時に神経の末端の方にも伝えられることによって、痒みの刺激を皮膚自体にも伝えます。
この刺激が神経ペプチドと呼ばれる神経伝達物質の放出を呼び、神経伝達物質が肥満細胞を刺激することによって、さらにヒスタミンが分泌されます。これによって痒みがどんどん強くなってくるのです。
さらに、痒いからと皮膚を引っ掻いてしまうと、その刺激自体が知覚神経を刺激し、神経ペプチドの分泌からさらなるヒスタミンの放出を促してしまいます。痒いから引っ掻くとさらに痒みが強くなるというのはこのためです。
皮膚掻痒症とは

皮膚の痒みをきたす病気の一つが、皮膚掻痒症です。
皮膚掻痒症とは、皮膚に湿疹をはじめとした発疹が認められないのにかゆみがある状態を言います。全身が痒くなる場合もありますし、限られた部分、例えば肛門や陰部などに痒みが限局する場合もあります。
全身に起こる場合でも、多くの場合は外からの刺激にさらされやすい腕や足などに痒みが生じます。それだけでは収まらず、だんだんと全身全体が痒くなってくるということも稀ではありません。
痒みは夜間に強くなる傾向があり、特に温まると痒みが強くなりますから、お風呂に入って布団に入るという一連の流れの中で体が温められ、痒みが増強してしまうこともあります。痒みのためによく眠れないということもしばしば起こることです。
もともとは皮疹がなかったところに痒みが出たとしても、痒くて引っ掻くことも含め、皮膚の変化が出てきます。皮膚の表面はカサカサして白っぽくなったり、ひび割れて赤くなったりします。放置すると、だんだんと湿疹ができてきて、治りが悪くなってしまいますので、早いうちに対処することが求められます。
皮膚掻痒症のよくある原因
皮膚掻痒症のよくある原因としては、皮膚の乾燥があります。皮膚というのはもともと、皮脂や天然の保湿因子によって潤いが保たれています。しかしこれが、様々な原因によって阻害されてしまうと、皮膚が乾燥し、かゆみを感じることになります。
また、癌や糖尿病、腎不全、肝不全といった全身に異常をきたすような病気によって、皮膚掻痒症が起こってくることもあります。精神的な要因も関与しているのではないかと言われています。
他にも、食生活が原因になることがあります。動物性の脂肪の多い食事をとると、早ければ数か月ぐらいで皮膚のかゆみが増加する場合があります。皮脂の性状が変わってくるからと考えられます。
高齢者に起こる老人性皮膚掻痒症
高齢者は全身の状態がだんだんと弱ってきて、さらに皮膚も乾燥しやすいですから、皮膚掻痒症になりやすいと言えます。特に加齢によって皮膚掻痒症を引き起こされていると考えられる場合を、老人性皮膚掻痒症と言います。
皮膚掻痒症の対策

皮脂掻痒症の対策としてまず行うのは、生活指導とスキンケアです。そして、内服薬や外用薬を用いた治療を行います。
生活指導
皮膚に対して刺激をなるべく避けるということが大事です。例えば強めのシャワーを浴びたり、熱いお湯を浴びたりすると皮膚に刺激となり、痒みが強くなってしまいます。
また、硬いタオルでゴシゴシこすったり、洗った後に十分にすすがなかったりするのも、皮膚への刺激になってしまいますから避けなければなりません。
スキンケア
スキンケアとしては、保湿剤が推奨されます。症状が出ている場所ももちろんですが、症状が出ていない場所も同じように症状が出てくる可能性があるため、全身の保湿が必要になる可能性が高いです。
内服薬
続いて行うのは内服による治療です。皮膚掻痒症にはヒスタミンが関与していると考えられるため、抗ヒスタミン薬の内服が試されます。反応によって増量したり、別の種類の抗ヒスタミン薬を使用してみたりと、その人にあった薬剤を探す必要があります。
腎不全で透析をしていたり、肝臓の機能が低下していたりする場合には、ヒスタミンが関与せず毒性物質がかゆみを引き起こしている場合があります。このような場合には抗ヒスタミン薬が十分効果を発揮しない場合がありますので、別の薬を試すこともあります。
外用薬
外用薬としては、ジフェンヒドラミン外用薬や、クロタミトン外用薬などが使用されます。これらの薬はかゆみを抑える薬になります。
皮膚疾患にはよくステロイドが使用されますが、皮膚掻痒症の場合には効果があるというデータはなく、副作用も多いことから推奨されません。
その他には、紫外線を利用したナローバンドUVB治療法を選択する場合もあります。
皮膚掻痒症に用いられる漢方薬

漢方的な考え方では、皮膚掻痒症は血虚という状態によって起こっていると考えられています。血液は全身に酸素や栄養を行き渡らせる役割がありますから、これが滞っていることによって皮膚に栄養が行き渡らなくなり、皮脂や汗の分泌低下が起こることによって皮膚の乾燥から掻痒症が起こっていると考えられます。
漢方ではこうした皮膚の症状に加えて、睡眠障害や精神的な不安などを併せ持っているかどうか、体格はどうか、生気はあるかどうか、むくみはあるかなどを総合して、処方をします。
具体的には、血虚の状態が強くて、乾燥が非常に強い状態の人には、当帰飲子(とうきいんし)を処方する事が多くなります。
不眠症など、精神的な素因が加わっているような状態であれば、加味帰脾湯(かみきひとう)を処方します。
高齢者であったり、体力的に虚弱な状態であれば、その状態を改善させることによって痒みを改善させるために人参養栄湯(にんじんようえいとう)などを使用することもあります。