認知症との違いは?高齢者のせん妄の原因と症状の特徴

せん妄は、時間や場所が急にわからなくなる見当識障害から始まる場合が多く、注意力や思考力が低下して様々な症状を引き起こします。通常は継続しても数日間ですが、まれ数か月間続く場合もあります。ここではせん妄の症状の特徴や原因、認知症との違いなどについて解説します。
せん妄とは

せん妄とは、全身状態の影響によって生じる脳の機能不全であり、脳波検査を行うと、徐派化といって脳の機能が低下していることを示す所見が得られます。
せん妄は一般病院の入院患者さんでは10~30%程度に発症するといわれており、決して珍しい病気ではなく、典型的には、比較的高齢患者さんが何らかの病気で入院したり、手術を受けた後に引き起こされやすいと考えられています。
せん妄になると、急におかしなことを言い出す、幻覚が見えて興奮する、注意力が低下するといった注意障害がみられます。
せん妄の症状の特徴

せん妄の症状には、睡眠障害、幻覚・妄想、見当識障害、情動・気分の障害、神経症状などが挙げられ、例えば不眠、生活のリズムの昼夜逆転、覚醒している時は半分眠っているような、寝ぼけた状態となります。
幻覚・妄想状態では、実際にはいない虫・蛇などの小動物や人が見える幻視や恐ろしい幻覚、記憶や経験を本来の出来事とは違って解釈するといった症状がみられます。
見当識・記憶障害は、現在の時間や場所が急にわからなくなることや最近のことを思い出せなくなることです。気分障害の症状としては、イライラ、錯乱、興奮、不安、眠気、活動性の低下、過活発、攻撃的、内向的など感情や人格の変化が認められます。
また、不随意運動などの神経症状は、アルコール大量摂取に伴うせん妄に多くみられます。
せん妄に伴って、周囲に注意を向けたり、何かに集中して取り組んだりすることが難しくなる、周囲の状況をきちんと理解することが難しくなるといった症状がみられるとともに、それらの関連症状は、短時間のうちに出現して、短期間に変動する傾向がみられます。
一般的には数時間から数日で起こり、1日の中で症状の強弱があり、特に夕方から夜間にかけて症状は悪化するケースが多いといわれています。
せん妄と認知症の違い

高齢の両親の物忘れが激しくなった、あるいは高齢の親せきが急に興奮したり、怒り出したりすることがあるなど、家族が認知症になってしまったのではないかと悩んでいる人も少なからずいらっしゃるでしょう。
このような注意力が低下したり混乱状態になったりする症状が、せん妄によるものなのか、それとも認知症を発症したのか判断が難しいこともあるでしょう。
せん妄は高齢者に多く発症する意識障害の一種であり、症状が認知症と似ていますが、異なる病気です。
一見認知症のように感じられたとしても、せん妄の特徴として、突然発症すること、症状が時間とともに変化すること、幻覚や妄想を伴うことなどが挙げられます。
認知症とせん妄の鑑別をすることは重要ですが、実際には両者が併存している例がしばしば認められます。
また、認知症の中でも脳血管障害を伴うタイプはせん妄を併発しやすく、内科的な全身管理と服薬管理が必要であるといわれていますし、認知症にせん妄が併存していると認知症関連症状が重篤になります。
せん妄の診断
専門医療機関では、せん妄などを疑う関連症状が認められれば、注意力や判断力、見当識が低下する所見の有無を確認して、単語や短文の復唱、理解力、記憶、物品の呼称、文章を書く、図形を書き写す、空間認知、計算力などのテストを行います。
また、せん妄の原因となる脱水や感染症などの徴候がないかの診察、脳や脊髄、神経の疾患がないかCT、MRIなどの画像検査や脳脊髄液を調べる検査、尿検査、血液検査、心臓・肺の機能評価のための心電図検査、血中酸素濃度、レントゲン検査などが実施されます。
高齢者のせん妄は認知症と間違われやすく、せん妄は意識レベルの変化を伴い、一過性の症状ですが、認知症は意識障害がなく、慢性的な経過をたどります。
せん妄は、認知症以外にも、うつ病や他の精神疾患との鑑別を図ることもあります。
高齢者のせん妄の原因

高齢者のせん妄には次のような原因が考えられます。
加齢の影響
せん妄は、高齢であることや、脳血管障害の既往など加齢の影響が発症要因として挙げられます。
高齢者においては、若年者では影響のない疾患や薬剤でもせん妄が起こりやすくなりますし、脱水、尿路感染症、便秘、インフルエンザ、睡眠不足、ストレス、チアミン・ビタミンB12欠乏症、社会との絶縁に伴う感覚遮断などがせん妄を助長する因子となります。
入院や手術の影響
高齢者の場合、外部からの情報が遮断され、夜間に機械音が響いて不眠となりやすい集中治療室や、手術で使用する酸素や鎮静剤の影響、ストレスなどがせん妄の直接的な原因となります。
脳卒中・認知症・パーキンソン病などの疾患
せん妄の発症原因のひとつとしては、脳卒中や認知症、パーキンソン病などの神経変性疾患が知られています。
それ以外にも、髄膜炎、脳炎、電解質異常、腎不全、癌、甲状腺機能異常、インフルエンザなどの疾患が発症要因となることがあります。
薬の副作用
違法薬物の使用や急性アルコール中毒、モルヒネ、鎮静薬、睡眠補助薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、コルチコステロイド薬、筋弛緩薬、パーキンソン病治療薬(レボドパ)など薬の副作用として、せん妄を発症するケースがあります。
また、長期間服用していた薬剤を急に中断した場合にもせん妄症状が出ることがあります。
せん妄を誘発する可能性の薬についても、細かくみればたくさんあるのですが、特にベンゾジアゼピン系の睡眠薬や安定剤など、脳に作用する薬はよりハイリスクと言えます。
まとめ
これまで、高齢者のせん妄の原因と症状の特徴などを中心に解説してきました。
せん妄はひとつの原因により引き起こされるというよりも、年齢や認知機能など患者さん自身の問題、環境等の誘発する因子、病気や薬剤などが複雑に絡み合って発症すると考えられています。
せん妄に関する具体的な発症因子として、加齢の影響、認知機能低下、アルコール多飲、パーキンソン病などの病気、身体的苦痛や精神的苦痛、感覚の遮断、薬の副作用、入院・手術などの因子が代表的なものとして挙げられます。
一日の中でも症状の強弱があり、夕方に悪化する傾向がみられ、せん妄状態にあると本人は会話の受け答えができないことが多いと考えられます。
そのため診断においては、家族などの付き添い人から、いつから症状が起こったか、症状の進行・変化の内容、身体面・精神面の健康状態、薬の服薬状況などを聞きます。また、過去の診療記録や警察や救急隊からの情報をもとに、いつから顕著な変化が起こったのかを判断します。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。