慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)とは?症状の特徴と治療

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慢性炎症性脱髄性多発神経炎という病気があります。名前から分かるように、慢性に経過し、炎症が関わり、脱髄ということが起こり、複数の神経が炎症を起こす病気です。

難しい印象を受ける病気ですが、どのようなものなのでしょうか。ここでは慢性炎症性脱髄性多発神経炎の特徴と治療、ギランバレー症候群との違いなどについて解説します。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)とは

慢性炎症性脱髄性多発神経炎とはどのような病気なのでしょうか。病気の理解に役立つように、髄鞘や脱髄についても補足しながら解説しましょう。

中枢神経と末梢神経

神経の疾患を解説する前に、中枢神経と末梢神経の区別をしておきましょう。

中枢神経というのは、脳と脊髄を合わせたものを言います。ご存知のように、色々と考えたり、体中に命令を出したり、体の様々な情報を受け取って感じたり、そのような作用を調節したりと様々なことを担っている中枢神経です。

中枢神経の特徴としては、硬膜という膜に包まれていることが挙げられます。脳から脊髄まで全てを包む膜で、この膜の中に脳脊髄液という液体が存在し、脳と脊髄はその中に浮かんだ状態になっています。

その一方で末梢神経というのは、中枢神経から出て体の隅々まで行き渡っている神経のことです。大きく分けて3種類に分かれます。

1つ目が運動神経で、脳脊髄と伝わってきた運動の情報を体の各部分の筋肉に伝えます。

2つ目が感覚神経で、体中様々な場所に存在するセンサーで感知した情報を、中枢神経へと伝えます。

3つ目が自律神経です。自律神経には交感神経と副交感神経があり、それぞれ体のアクセルとブレーキのように活性化させたり休ませたりというような作用を持っており、それぞれが互いに抑え合うことによってバランスをとっています。

髄鞘(ミエリン)とは

末梢神経には髄鞘というものがついています。髄鞘というのは、神経繊維を覆う細胞の膜のことで、神経の繊維自体を守っているだけではなく、神経伝達を早く進めるための役割も担っています。髄鞘があることで、様々な情報を非常に素早く伝えることができます。髄鞘の付き方にもよりますが、髄鞘がない状態に比べて約100倍のスピードで情報が伝達されると言われています。

髄鞘はほかにも、神経細胞の代謝や恒常性維持などのメンテナンスの役割をしています。神経細胞は非常に細いですから、すぐに傷ついてしまいます。それを防ぐために、周りから栄養を伝えたり、修復をしたりして神経を守っているのです。

末梢神経にはほとんどのものに髄鞘がついています。一部の自律神経のみ、髄鞘がないものがあります。

CIDPとは

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は、髄鞘が壊されることによって起こってくる病気です。壊れる原因は、自らの免疫です。自らの免疫が異常に働き、神経線維の髄鞘が壊されてしまうのです。このように髄鞘が壊されることを脱髄と言います。

脱髄によって、神経の情報が伝わりにくくなったり、誤った情報が伝わったりすることになります。しかもこの神経というのは、運動神経・感覚神経のどちらかに偏ったものではありません。両方が一度に障害されるのです。

自分自身の免疫が原因ですから、なかなか自然治癒することはなく、進行性の病気であることが特徴です。おおむね2か月以上進行していきますし、治療をしてだいぶ収まったとしても再発と寛解を繰り返したり、慢性に進行したりします。

現在のところ、なぜ免疫が異常になるのかはよくわかっていません。

発症者は日本国内で約5000人程度と言われています。男性に若干多いのですが、年齢は一定ではなく、子供からお年寄りまで広い年齢層に発症します。

CIDPの症状

CIDPではどのような症状が起こってくるのでしょうか。

まず運動神経の障害によって、様々な運動に障害が出てきます。腕がなかなか上がりにくかったり、お箸を使いにくかったり、階段がうまく登れない、転びやすいといった症状が出てきます。

感覚障害としては、まず最初に起こってくるのが手足の先がピリピリするという症状です。ちょうど正座をした後に足がしびれてるような症状です。手や足に至る神経は、特に脊髄からの距離が長く、ダメージを受けやすいために、初発症状として手足のしびれが出てくるのです。

ギラン・バレー症候群との違い

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CIDPと並んで、末梢神経の障害を起こす病気として、ギラン・バレー症候群がよく挙げられます。

ギランバレー症候群も、CIDPと同じように、免疫学的な機序によって末梢神経の髄鞘が障害を受ける病気です。しかし、自分自身の免疫がおかしくなって発症するCIDPと異なり、ギランバレー症候群の場合には、何らかの感染源があることがほとんどです。

まず神経症状の発症1か月以内に先行感染が起こります。何らかの風邪症状など、感染症の症状が見られることが多いです。この時体の中では、体に侵入してきた感染症に対して抵抗するために、免疫が活性化されます。そして再度感染した時に備えて、抗体という免疫反応をすぐに起こせるようにするタンパク質を合成しておくのです。

しかし、一部の感染症に対してできた抗体が、髄鞘にも反応することがあるのです。髄鞘に抗体が反応してしまうと、免疫反応が惹起され、炎症が起こります。これによって、髄鞘が障害され、様々な末梢神経の障害症状が起こってくるのです。

CIDPとギランバレー症候群は、このように発症の仕方が異なります。ただ、先行感染に気づかないこともありますから、発症初期には区別がつかないことがあります。

症状の経過の仕方についても、2つの疾患ではやや異なります。

CIDPの場合は、2か月以上かけてだんだんと症状が強くなっていくのに対して、ギランバレー症候群の場合には比較的早期に症状が強くなり、1か月以内にピークを迎えます。その後はだんだんと症状が改善していきます。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の治療

CIDPは、自分の免疫の異常によって起こってくるものですから、免疫を抑える治療がメインとなってきます。

ステロイド療法

まず行われるのがステロイド療法です。ステロイドとは、免疫をある程度抑えてくれるような薬剤で、症状に応じて少量内服で経過を見る場合と、ステロイドパルス療法と言って大量に投与する方法が選択されます。

ステロイド自体には、免疫を抑えるために感染症を引き起こしやすくなることや、骨が脆くなること、胃潰瘍や糖尿病などが起こってくるなどの副作用がありますので、漫然と使用するようなことは避けるようにします。

免疫グロブリン大量療法

続いて行われるのは、免疫グロブリン大量療法です。免疫グロブリンというのは、血液内に存在する免疫を司るタンパクのことです。献血の血液の中から免疫グロブリンが抽出されていますから、それを点滴投与して、自分の免疫の異常を正します。

輸血由来ですから、何らかの感染症を引き起こす可能性がゼロではないことに注意が必要です。以前は入院で5日間連続で点滴投与を行っていましたが、最近では皮下注者による維持療法を選択することができるようになりました。

血液浄化療法

最後に行われるのが血液浄化療法です。これは血液透析のように、体から血液を抜き取り、機械で処理した後体に戻す治療です。免疫異常を司っていると考えられる物質を除去するために行います。かなり侵襲が強い治療になりますから、特に症状が重篤な場合に行われます。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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