癌で体重が減少するのはなぜ?がん悪液質のメカニズムと症状の特徴

体重をはかる女性の足
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がんになると、悪液質という状態になり、主な症状として食欲不振(食欲低下)と体重の減少があります。

がん悪液質とは、がんの進行に伴って出現する、筋肉量の持続的な減少を特徴とする状態です。

ここではがん悪液質のメカニズムや症状の特徴について解説します。

がん患者の多くが体重減少を経験

体重をはかる女性の足

がん患者の約半数が体重減少を経験していると言われていて、体重減少の原因としては、食欲不振や吸収障害などの生理的要素だけでなく、精神的なストレスや薬物療法の副作用も考えられます。

体重減少は栄養不足に直結し、体に必要な栄養が摂取できないと、元気を失い、体力が低下していきます。

体調が悪化すると、治療の効果を十分に引き出せなくなる可能性がありますし、さらに体重が減り続けると、がんの再発や転移のリスクが高まります。

がん悪液質による体重減少

がん悪液質は、「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に陥る、骨格筋量の持続的な減少を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています。

がん悪液質はがんの種類によって異なりますが、進行がんの患者さんの50~80%にみられるといわれています。

がん悪液質に関連する症状としては、主にがん細胞がつくり出す「サイトカイン」という物質によって、食欲が抑えられて「食べられない」状態になります。

通常、飢餓状態でも体重減少を伴いますが、がん悪液質の場合は、筋肉の分解や安静時のエネルギー消費が高まることによって体重が減少します。

がん悪液質には、前悪液質、悪液質、不応性悪液質の3段階があります。がんの種類によって悪液質が生じやすいものや生じにくいものがあり、生じたあとの進行の仕方もさまざまです。

がん悪液質のメカニズム

がん悪液質のメカニズムはいまだ不明な点が多いですが、がんから放出されるタンパク質を分解するように誘導する因子が関係すると考えられています。

また、脳の中にあるホルモンをコントロールする部位の異常が分かってきています。

がん細胞から分泌される炎症性サイトカインは、代謝の異常や食欲不振に関連しているという説もあって、最近ではさまざまな伝達物質を介した炎症の現れが悪液質なのではないかと推測されています。

一般に、がんの進行により、亡くなるまで徐々に栄養不良になっていきます。

がん悪液質に伴う症状

がん悪液質に伴う、特徴的な症状には体重減少や食欲不振があります。

全身性の炎症によって筋肉や脂肪組織が分解され、食欲が抑えられるなどした結果、体重減少を生じます。

悪液質による栄養不良には、筋肉の分解促進、血糖を下げるインスリンのはたらきの低下、脂質の分解の促進など全身の炎症によるさまざまな代謝異常が関係しています。

この代謝異常が進行すると、栄養療法を行っても有効な治療にならず栄養不良が改善されなくなります。

がん悪液質は、がん患者に多くみられる合併症のひとつであり、とくに進行した消化器がんや肺がんで高頻度に発症すると考えられています。

がん悪液質の治療

がん悪液質に対して、治療介入するタイミングを見極めるのが重要です。

がん悪液質は、全身性炎症を背景としてさまざまな原因が関与しているため、全身の炎症を抑える薬物治療、栄養療法、運動療法、心理的あるいは社会的介入を含めた治療が行われます。

患者さんの状態や生活様式に合わせて適切な方法が選択され、早期の栄養サポートにより、がん悪液質の進行を緩徐にさせたり、ほかの原因による栄養不良を改善させたりすることができる可能性があります。

特に、体重減少が5%以下で代謝異常が見られる状態は、悪液質の前段階と定義され、この状態から栄養サポートを行うこともあります。

他にもある体重が減少する要因

がん悪液質のほかにも、がんで体重が減少する要因はいくつもあります。

消化器のがんによる影響

消化管がんの場合、胃や大腸などの消化管がんが進行すると食事の通過や栄養の吸収が悪くなり、体重減少を引き起こす原因のひとつとなります。

進行した消化器がんは、正常な体の組織よりも多くの栄養を横取りして体重減少を起こすことがあります。

また、ダイエット中の体重減少はがんの発見が遅れる可能性があり、予想以上に体重が減少する場合は要注意です。

体重減少には食欲不振、腹痛、悪心・嘔吐(おうと)などの随伴症状がしばしば見られ、このようなケースは消化器系のがんが疑われます。

理由もなく、体重が1か月間に1キロ以上、3月以上続いて減る場合は、できるだけ早く病院を受診することをおすすめします。

エネルギー不足や食欲不振

体重減少とは、6か月の間にもともとの体重から5%以上の減少がある場合のことをいいますが、肥満など過体重の人がダイエットにより体重を減らす場合は除きます。

体重減少は、摂取した食事から得られるエネルギーと消費するエネルギーとのバランスを欠き、結果としてエネルギー不足になっている状態であり、摂取から消費までの代謝の過程のどこかで、何かが原因となっています。

体重の約3分の2は水分ですから、大幅に水分不足となる脱水症でも体重減少は起こります。

体重減少がある場合に現れる症状にはさまざまなものが挙げられ、特に食欲不振の有無はとても重要な症状です。食欲不振があるかどうかによって原因となる病気を推定する大きな材料となります。

まとめ

がん悪液質は進行がん患者の約半数以上に認められ、がん悪液質による体重減少と食欲低下などの症状は、患者の生活の質を低下させます。

さらに、体重減少に伴って、抗がん剤の治療効果を弱めたり、副作用を強めたり、さらには寿命にまで影響を及ぼすこともあります。

代謝障害が進行し、栄養サポートが無効になった状態を不可逆的な悪液質といい、この状態になると、一般的に生命予後は厳しいと考えられています。

ステロイドなどの薬物療法することで、がん悪液質の症状を和らげる効果が得られたとの報告はありますが、薬物療法だけでは十分な効果は得られず、基本的には栄養療法や運動療法の併用が必要と考えられています。

また、「半年で5Kg以上痩せる(体重5%以上の減少)」と「その他の腹部症状」の2点がある場合は、消化器がんの可能性もあります。

上部・下部消化管内視鏡検査、腹部超音波検査、CTやMRIなどの画像検査を必要に応じて速やかに行える医療機関を受診することが、がんをできるだけ早く発見する上で大事です。

心配であれば、かかりつけ医や専門医が多い地域のがん診療連携拠点病院など専門医療機関を受診して相談しましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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