「脾」は栄養吸収と血を作る大事な臓器!不調を起こす原因と養生法は?
「脾」は西洋医学でいうところの「胃腸」と似たはたらきを持っている臓腑であり、栄養吸収に関わり血液を作ったり栄養を運ぶ働きを担っています。例えば、元気がでない、むくみやすい、さらには肌のたるみのような症状も、実は「脾」が関わっていることがあります。日頃、無理をすることが多い人や、胃腸を酷使しがちな人は「脾」が弱っていることで様々な不調を引き起こす可能性があります。
そこで今回は「脾」のはたらきと、不調の原因、そして養生法についてもお話していきます。
「脾」とは??
あまり耳慣れない「脾(ひ)」という臓腑は、西洋医学でいうところの胃腸、消化器と同じような働きを担っている臓腑です。西洋医学では脾臓という臓器もありますが、漢方の五臓六腑における「脾」は役目が異なります。
「脾」には主に次のような働きがあります。
- 消化吸収
- 全身に栄養を運ぶ
- 水分代謝
- 血液が漏れ出ないように統制する
- 内臓を正しい位置に維持する
- 筋肉や四肢を司る
西洋医学の胃腸の働きと比べると多様な働きを持っていることが分かるかと思います。
特に大事なのが、栄養の吸収であり、その吸収した栄養物を「気・血・水」に変え、全身へと運ぶ「運化」という働きを担っています。
イメージとしては「脾」で消化吸収された栄養物は「肺」や「心」など体の上部へと持ち上げられて「気」「血」「水」が生成され、全身に広がっていくといった働きをしています。
また、「脾」には身体の構成成分である「血」が、血管の中を正常に流れて外に漏れ出ないようにコントロールする「統血作用」もあります。
「脾」が弱るとどうなるの?
「脾」が弱るということは、つまり消化吸収の能力が落ちるということになります。そうすると消化不良、食欲不振、胃のもたれ、食後のだるさ、軟便や下痢といった消化不良による症状が起きてきます。
また、統血作用が弱まると、女性にとっては困る症状となって現れることもあります。例えば不正出血や月経時の出血がだらだらと長引くなどの症状です。鼻血やあざ、皮下出血なども「脾」の機能低下によって見られる症状です。
内臓の位置を正しい位置に維持する「脾」の働きが衰えると、胃下垂や脱肛などの困った症状となって現れることもあります。
さらに肌や唇のツヤなどにも影響が出やすく、「脾」が弱ると顔にハリりがなくなったり、口の中や唇が乾燥したりすることも。「脾」が健康かどうかは、唇のツヤを見ることで判別できるので、セルフチェックしてみると良いでしょう。
「脾」に負担をかける原因
「脾」に負担をかけるのは「思」という感情です。「思」とは考えたり、悩んだりする感情も含みます。そのため、思い悩んでいる時には、喉が詰まった感じがしたり、胃腸の働きが悪くなって食欲が落ちやすくなるのです。現代人に多い精神疲労は「脾」を痛めつけてしまいます。
また、疲れたときに食べたくなってしまう「甘い物」は「脾」を養う働きがある一方で、場合によっては負担をかけることがあります。昔の人が食べていた甘い物は「ふかし芋」や「かぼちゃ」のような天然の甘みをもつのものでしたが、現代人が口にする砂糖をふんだんに使ったスイーツは、逆に胃腸に負担をかけるので要注意です。疲れた時こそ、甘いものの摂りすぎには気をつけましょう。
さらに「脾」にとって湿気は大敵です。特に日本特有の暑い夏のジメジメした季節には「脾」が疲れて機能が低下しやすいので要注意です。近年の酷暑で多くの人が夏バテや胃腸カゼなどを経験しているかと思いますが、これも実は「脾」の機能低下が関係しています。
「肝」のトラブルは「脾」に負担をかける?!
ストレスや精神疲労により胃潰瘍などにかかることがありますが、それは「肝」が乱れることにより「脾」にもダメージを与えるためです。「肝」と「脾」はお互いがシーソーのような関係になっており、「肝」の働きが過剰になると「脾」は弱まりますが、逆に「脾」の働きが強くなると「肝」の働きは落ち着きます。
「肝」は自律神経の働きと関わっているため、疲労やストレス、緊張などを抱えていると「肝」が乱れて「脾」にも悪影響が及んでしまいます。
疲れていたり、ストレスが多いときこそ、胃腸をいたわる食生活を心がけることが大切です。イライラまかせに暴飲暴食することのないように心がけましょう。
「脾」を養うための養生法
「脾」の低下による体調不良を防ぐためにも、日頃から「脾」を養うための養生を心がけたいところです。「脾」の正常な働きを損ねないように、次のような対策を取り入れていきましょう。
- 冷たいもの、甘いものの摂りすぎに注意する
- 水分やお酒を飲みすぎない
- 脂っこい肉類や魚を控えめにする
- 部屋や寝具はなるべく乾燥させるなど除湿を心掛ける
- 冷房の効かせすぎに注意する
また、「脾」が衰えているときは、気を補う「補気作用」のある食材を取り入れていきましょう。長芋、山芋などのネバネバ食材は気を補い、豆類は気を補うだけでなく利水作用もあります。米、もち米などは「気」を生み出して、胃腸の元気を取り戻してくれます。胃腸が疲れているなというときは、おかゆで胃腸を休めると「気」も補うことができて一石二鳥です。
「脾」をいたわって、元気な毎日を過ごそう
日頃、私たちは食べては排泄するということを無意識に繰り返しています。その消化吸収や栄養の運搬などを司っている「脾」は、生きていく上で元気や活力を与えてくれる臓腑です。「脾」が元気だからこそ、私たちは毎日を快適に健やかに暮らせます。
ついつい酷使してしまいがちな胃腸をいたわり、ストレスはこまめに発散して「脾」をいたわった生活を心がけていきましょう。