不妊治療と漢方。妊娠しやすい環境の整え方

漢方基礎知識

母体を妊娠しやすい環境に整え、元気な赤ちゃんを産むための「体づくり」を行う漢方の不妊治療体。

心に負担をかけずに、その人に備わった妊娠する力を引き出すのが特徴です。

不妊のさまざまな原因に対してどんなアプローチを行うのか、西洋医学の不妊治療とどう違うのかを知っておきましょう。

漢方は体のバランスを整え、「妊娠する力」を高めます

西洋医学では、さまざまな検査で妊娠できない原因を探り、不妊治療を行います。排卵がない、卵管が詰まっている、子宮筋腫や子宮内膜症があるなど、妊娠を妨げるはっきりとした原因がある場合は、まず、西洋医学の治療を行うのが妊娠への近道かもしれません。しかし、不妊を訴える人のなかには、いくら検査しても具体的な原因がわからないというケースが2~3割ほど存在します。

このような「子宮や卵巣にはとくに異常がないのに妊娠しない」「西洋医学の治療を行っても妊娠しない」という場合、漢方による不妊治療を行うという選択もあります。漢方では子宮や卵巣のトラブルだけに注目するのではなく、体全体の環境やホルモンバランスを整えながら、妊娠しやすい体づくりを行っていきます。

西洋医学の治療はときに副作用などが起こることもありますが、漢方の治療は体全体のコンディションを整えることで、結果的に「自然に妊娠する力」を最大限に引き出し、不妊治療につなげていきます。

漢方の不妊治療にできること

ホルモンバランスを整える

不妊に悩む女性には、女性の卵巣機能やホルモンバランスをつかさどる「腎」に何らかの問があるケースが多いようです。漢方ではこの「腎」の働きを高める漢方薬を使い、乱れていた月経周期や、月経期、卵胞期、排卵期、高温期(黄体期)、それぞれに起こるホルモン分泌が順調になるように整えていきます。そうすることで、自然に妊娠しやすい体に導いていくことで不妊治療を行います。

卵子の質を上げる

女性の卵巣機 は「腎」によってコントロールされていますが、この「腎」の働きが低下しているときは、やはり妊娠しにくい状態に。このような場合は、漢方薬で「腎」をサポートする「補腎」を行うことで、卵巣機能を高めることができます。その結果、「腎年齢」 卵巣年齢を実年齢よりも若く維持することができるので、よりコンディションのいい霏子が排卵されるようになります。

子宮内膜の状態を整える

精子と卵子がタイミングよく出会って受精しても、うまく着床できなかったり、着床しても育たないことがあります。漢方では、このような場合、「腎」の働きが低下した「腎虚」のめぐりが悪くなっている「瘀血」になっていると考えます。

このような状態を改善すると、子宮内に充分な血液と栄養がめぐるため、子宮内膜は適度な厚さと温かさ、柔らかさを保ち、受精卵をやさしく受け止め成長させていくことが不妊治療には重要です。

漢方と西洋医学の不妊治療の違い

西洋医学の不妊治療

●ポリープや子宮筋腫、子宮内膜症などの子宮の病気、卵管のトラブルなど器質性の病気に対する診断と不妊治療が得意

●体外受精、顕微授精も可能

●排卵誘発剤などのホルモン治療や体外受精での不妊治療は人によって副作用を感じることも

漢方の不妊治療

●体に無理な負担をかけずに全身のバランスを改善しながら、なるべく自然な形で妊娠できる

●西洋医学の不妊治療と併用する場合副作用の軽減や治療効果の向上に役立つ

●子宮や卵巣、卵管などに器質性の病気がある場合、不妊治療に時間がかかりやすい

西洋医学の不妊治療の流れ

不妊検査

不妊治療のため、生理周期に合わせて、ホルモンの状態をチェックし、不妊の原因を探っていきます。まずは、子宮や卵巣の状態や病気の有無を、内診や超音波検査でチェック。月経周期や排卵の有無の確認に役立つため、初診時には基礎体温表(2~3カ月つけたもの)を持参するのがベターです。

血液検査によるホルモン量のチェックや卵管造影検査なども行われるため、検査のための通院は最低3回くらいになります。不妊の原因が男性にもあるかどうかを確認するために、精子量や精子の濃度、運動率などをチェックしていきます。

タイミング療法

超音波検査で卵子の大きさやホルモンの状態をチェックしたうえで、排卵日を予測し、セックスにベストなタイミングを指導する方法です。不妊検査の結果、ホルモンのバランスが乱れている、排卵していないことがわかったときは、排卵誘発剤などを使って、妊娠率をアップさせる不妊治療をすることもあります。

排卵誘発剤

排卵そのものがないとき、排卵が起こりにくいとき、また、排卵があっても卵の数を増やして妊娠率をアップさせたいときに使われる薬です。人工授精や体外受精など、高度な不妊治療でも使われます。のみ薬と注射があり、治療法やホルモン値などから、その人に合ったものを選びます。費用は自費で3000円くらいからになります。

人工授精

採取した精液を洗浄し、ごみや細菌などを除去して運動性のよいものを選んだあと、子宮の奥に直接送り込む方法です。体外受精と混同する人も多く、その名前から人為的な操作をイメージしがちですが、受精、着床、妊娠の成立は、自然妊娠と変わりません。

精子の数が少ない、運動率が低い、射精できないなど男性側に原因がある場合、また、夫婦ともに原因がないのに妊娠していないケースに用いられます。一般的に、妊娠率は5~10%程度といわれています。保険適用にならないため、費用は1回1万5000円くらいからになります。

体外受精

排卵誘発剤で卵巣を刺激して卵を育て、腟から針を刺して卵を採取し、採取した精子と容器の中で受精させます。採卵後、2~3日後に順調に育った受精卵を子宮に戻し(胚移植)、無事に着床すれば妊娠が成立します。たくさんの胚(受精卵)があるときは凍結して、その後の治療に生かすこともできます。妊娠率は施設差がありますが、一般的に15~20%程度です。

卵管排卵障害や抗精子抗体があるとき、男性不妊のときなどに行われます。不妊治療費用は1回20万~50万くらい(顕微授精はプラス5万~10万ほど)。

漢方だからこそできる不妊治療

とくに原因が見つからない機能性不妊

不妊検査の結果、どこにも異常がないのに妊娠しないケースを「機能性不妊」といいます。西洋医学的には問精がなくても、漢方的にみると、卵巣機艦やホルモンバランスをつかさどる「腎」の働きが弱まっているなど、体のバランスが乱れていることがあります。

漢方で体質を改善することで、体本来が持つ生殖能力を高め、自然妊娠しやすい体に整えていきます。体をめぐるエネルギーである「気」と、体に栄養とうるおいを与える「血」のめぐりをよくする「婦宝当帰膠」や「逍遥散」、卵巣機能をつかさどる「腎」を補う『杞菊地簧丸」などがよく用いられます。

子宮や卵巣の病気が見つかった器質性不妊

卵管狭窄や卵管閉塞、また、ポリープや子宮筋腫、子宮内膜症など、子宮や卵管などに何らかのトラブルがあるケースを「器質性不妊」といいます。この場合、西洋医学の治療を行いながら、漢方薬を併用することも可能です。たとえば子宮筋腫の場合、漢方では「血」のめぐりが悪い「瘀血」が深くかかわっていると考えます。

「桂枝茯苓丸」や「冠元顆粒」などの漢方薬を中心に、ホルモンバランスや体の状態を整える「腎」を補う漢方薬を不妊治療に使います。

自然周期の場合

タイミング療法を行っている場合は、できるだけ質のよい卵子や精子を育てる体づくりをめざします。卵巣機能やホルモンバランスをつかさどる「腎」の働きを高める「杞菊地黄丸」や「参茸補血丸」などの漢方薬を使います。

また「血」を増やして、卵や受精卵に充分な栄虀を与え、子宮内膜の状態をよくするために、『婦宝当帰膠」なども使われます。男性側も、生殖機能をつかさどる「腎」の働きを高める「海馬補腎丸」などを使い、精子の数を増やし、精子の運動率を高めていきます。

排卵誘発剤を使用する場合

代表的な排卵誘発剤である「クロミッド」を使いつづけると、おりものが減る、基礎体温が上がる、子宮内膜が薄くなるといった症状があらわれることもあります。漢方的には、こういった状態は体のうるおい(陰)が消耗して熱がこもっていると考えます。

くずれたバランスを戻すため、体内にうるおいを与えながら熱を取り除く「儷火補腎丸」や「血」のめぐりを改善する「婦宝当帰膠」や「冠元顆粒」などが用いられます。

問題点をカバーできるように体の総合力を高めます

女性の場合

人工授精や体外受精を選択する要因のひとつとして「抗精子抗体」が挙げられます。これは、精子に対する抗体が女性(あるいは男性)の体にできてしまい、受精を阻害してしまうというもの。クラミジアなど、卵管の炎症があるときや、原因がわからず起こるケースもあります。

この場合「衛益顆粒」「瀉火補腎丸」などの漢方薬で「腎」の働きを高めながら、免疫機能を整えていきます。クラミジアなどの性感染症の場合は、抗生物質と併用して不妊治療の漢方薬を服用します。

男性の場合

精子の数を増やし運動率を高めるために、生殖機能をつかさどる「腎」の働きを高める「海馬補腎丸」や「参馬補腎丸」、また、古くから中国で男性不妊に使われてきた魚の浮き袋をベースにした「海精宝」などの食品が使われます。

また、男性側に抗精子抗体がある場合は、体質によって、体のうるおいを補う「瀉火補腎丸」、免疫バランスを整える「衛益顆粒」などが不妊治療の漢方薬として処方されます。

3つの段階に分けて考える

準備段階

排卵誘発剤を投与していない準備段階では、排卵誘発剤の副作用を軽減するだけでなく、いい卵が成長し、スムーズに排卵できるように、参茸補血丸」や「参馬補腎丸」など、「腎」の機能を高める漢方薬を服用します。

西洋医学では、卵巣機能の調節を目的にエストロゲンとプロゲステロンを服用する「カウフマン療法」が行われることがありますが、服用後は、「血」のめぐりの悪い「瘀血」になりやすいので、「冠元顆粒」「田七人参」「婦宝当帰膠」などを使って「血」のめぐりをよくして、卵巣機能や子宮内膜の状態を整えます。

排卵誘発剤の使用~胚の移植まで

排卵誘発剤には、大きく分けてのみ薬と注射がありますが、注射は作用が強く、副作用も出やすくなります。おなかの張りや痛みがあるときは、漢方的に見ると体に水分がたまっている「水湿」、「血」のめぐりが悪くなる「瘀血」の状態になっているので、「芎帰謂血飲第一加減」などを服用します。また、胚の移植前には子宮内膜の状態を整えるために、「血」のめぐりをよくする『婦宝当帰膠」「田七人参」などを使います。

胚の移植後

胚の移植後はスムーズに着床できるように、移植前から子宮内膜の状態を整え、また、着床後の流産を予防するために、卵巣機能をつかさどる『腎」を高める漢方薬を使います。

受精卵の成長や、妊娠経過に支障のない、「血」を増やし、めぐりをよくする「婦宝当帰膠」や「双料参茸丸」を使いますまた、胚の移植を行わないときも、採卵後は「血」のめぐりが悪い「瘀血」になりやすいので、「婦宝当帰膠」や「田七人参」などで体調を整えます。

まとめ

同じ不妊治療でも、西洋医学と漢方では、治療の方法も考え方も違う事がお分かりいただけたのではないでしょうか?不妊治療でお悩みの方は大勢いらっしゃいます。漢方であれば、体に優しく副作用も少なく、西洋医療と両立する事でさらなる効果も期待できることから、一度漢方外来で診察してみるのも良いのではないでしょうか。

不妊治療でお困りの方は、悩みから解放されて幸せな生活を手に入れましょう!

関連記事