ペインクリニックとはどんな治療?急性痛・慢性痛の違いと治療法
痛みの症状が続くとつらいですよね。
ペインクリニックは痛みの緩和を得意とする診療科です。痛みの種類によっては、ペインクリニックを受診することで痛みの改善につながる可能性があります。
ここでは、”痛み”を取り上げ、その役割や種類について解説した上で、ペインクリニックで行われている痛みを緩和するための治療法を紹介します。
目次
痛みの大切な役割とは
人をふくめてほとんどの脊椎動物(哺乳類だけではなく魚類も含みます)は、”痛み”を感じる機能を持っています。
感じても嫌な気持ちにしかならない”痛み”ですが、生きていく上で非常に重要な役割を果たしています。
「痛みがある」と言うことは、自分の体にとって避けなければならない重要な事態が起こっているというセンサーが反応していることになります。
体の外から何らかの力が働いていたり、内臓の機能が傷害されていたり、内臓自体が壊れそうになっていたり……。体の色々な場所から伝わってくる危険信号を脳が理解した証拠が、”痛み”と言うものなのです。放置すれば命に関わることもありますから、不快に思い、なんとかしたいと感じるのです。
痛みの種類
痛みには、大きく分けて3つの種類があると言われています。
体性痛
1つめの痛みが、体性痛と呼ばれる痛みです。これは、皮膚や筋肉、骨の痛みです。
皮膚や筋肉、骨には、強い力が加わったり、傷害されたりしたときに反応するセンサーが存在しています。このセンサーのことを「侵害受容器」と呼びます。侵害受容器はある一定以上の力が加わると反応し、神経にその情報を伝えます。
神経は脊髄へと向かい、脊髄に情報を伝達します。脊髄からは脳へ情報が伝えられ、脳がその情報を受け取ると、痛いと感じるのです。また、脊髄では痛みの情報が来たときに、強い痛みの情報であれば痛みを感じた場所をその場から逃げさせるために筋肉を収縮させる命令をそのまま出すことがあります。これが脊髄反射です。
熱い鍋を触ったときに「熱い!」と感じる前に手を引っ込めるのはこの脊髄反射によるわけです。体性痛は侵害受容器が反応したときに感じるので、動いたり触ったりすると痛みを強く感じるのが特徴です。
内臓痛
2つめの痛みは、内臓痛と呼ばれる痛みです。胸やお腹にある内臓にも侵害受容器が存在し、内臓の異常を検知しています。ただし、体性痛と異なり正確に場所を検知できるわけではなく、内臓全体の情報として神経伝達されます。
そのため、お腹の中が痛い、と言うときには「ここが痛い!」という痛みではなく、「この辺りが痛い……」と感じる事が多いでしょう。また、内臓の動きによって痛みが変わりますから痛みに波があるのも特徴です。
神経障害性疼痛
3つめの痛みは、神経障害性疼痛という痛みです。その名の通り、痛みを伝達する神経が傷害されることで起こる痛みです。
痛みの感覚としては、長時間正座をした後の足のしびれを思いおこしていただければ良いでしょう。「ジンジン、ビリビリ」と表現されるような痛みです。この痛み、神経が傷つくときに感じる事も多いのですが、多くは神経が修復されるときに感じる痛みになります。
ですので、長い間痛みが続くことが多く、痛みのコントロールのためにペインクリニックに相談されることが多い痛みになります。
心理的な痛み
なお、4つめの痛みもあると言われます。それが心理的な痛みです。痛みがあるような気がするという感情から、痛みを実際に感じていると脳が感じてしまうのです。
しかし、最初から心理的な痛みを疑うことはよくありません。体にとって重要な痛みを、心理的なものだから問題無い、と片付けてしまうと重大な後遺症を残してしまう場合もあります。
また、傷が治ったのに痛みが続いている状態を心理的なものと片付けてしまうこともありますが、実は脳の中で痛みを感じるスイッチが入ったままずっと解除されていない場合もあります。
このような痛みは単に心理的なものと片付けるのではなく、しっかりと痛みを感じない状態を作っていかなければなりません。
急性痛と慢性痛の違い
後ほど詳しく見ていくように、ペインクリニックが対象とする痛みは多くの場合、慢性痛になってしまった痛みです。しかし、急性痛も対象にならないわけではありません。急性痛と慢性痛にはどのような違いがあるのでしょうか。
急性痛とは
急性痛というのは、おおむね1か月程度で収まる痛みのことを言います。長くても3か月以上続くことはありません。
急性痛はどのような時に起こるかというと、体の色々な場所にある痛みのセンサーや、神経が痛みを検知した時に起こってきます。つまり何らかの原因があるということが基本的な考え方です。怪我をした時の痛みや、打ち身、内臓の痛みなどが代表となります。
急性痛を伝えるのは、痛みを伝える感覚神経です。体の各部分に配置された痛みのセンサーがある一定以上の強さの刺激を感知すると、そのセンサーが興奮します。興奮はセンサーに繋がっている神経に伝わり、神経は興奮が起こったという情報を脊髄、そして脳へと伝えます。
センサーがあるのは、体の色々な場所です。骨や皮膚、筋肉にもあります。内臓にもあるのですが、骨や皮膚、筋肉にあるセンサーよりもやや反応が鈍く、大まかな情報を伝えるだけになります。
急性痛が脊髄に伝えられると、必要に応じて脊髄反射が起こります。これは脳に情報を伝えることなく、脊髄の部分だけで、痛みの原因から逃げなければならないと判断される時に筋肉を収縮させ、痛みの原因から逃避します。熱いフライパンを触った時に手を引っ込めるのは、この反応によります。
痛みの刺激は、脊髄に伝えられた後、脊髄から脳へと伝えられます。脳に伝えられると、痛いという風に認識するとともに、それに立ち向かうために自律神経系の興奮が起こります。自律神経は交感神経と副交感神経からなり、それぞれがバランスを取ることで体のバランスを取っています。
痛みが脳に伝わると、特に交感神経が活性化されます。交感神経が活発に活性化されると、アドレナリンが多く分泌され、呼吸数や心拍数が増加したり、汗が出たり、血圧が上昇したり、筋肉が緊張したりといった生体反応が起こってきます。これによって痛みの原因に対して抵抗する状態を作り出すのです。
慢性痛とは
一方で慢性痛というのは、概ね3か月以上経過しても治らない痛みのことを言います。この場合、脳は痛いということを認識しているのですが、これは体の各部分にあるセンサーからの入力によって痛みを検知しているのではありません。
慢性痛の機序には様々なものがありますが、一般的に言われているのが、本来なら情報のやり取りがないはずの神経細胞同士が繋がってしまったり、やり取りする情報量が増えたりすることによって、痛みに関与する神経系が異常な興奮を起こし、痛みの情報が脳に異常に送られて過敏になるというものです。
そのような機序から、痛みの記憶とも言われています。
神経が異常に興奮しているため、センサーを抑えるような痛み止めを内服してもなかなか痛みが治まらないのが特徴です。
急性痛から慢性痛に移行することも
通常、急性痛がある時には痛みの原因に対して適切なアプローチをして治療すれば、短期間で痛みは収まります。それに伴って、交感神経の活性化による様々な症状も収まってきます。
しかし、痛みがひどかったり長引いたりした場合には、なかなか交換神経の活性化が収まらず、興奮によって血管が収縮し、血流が悪くなります。すると痛みを生み出す化学物質が放出されて痛みが生じ、その痛みがさらに交感神経に刺激を与えるという悪循環をきたします。このような機序やメンタル面の作用によって、痛みがだんだんと慢性痛に移行してしまうことがあるのです。
ペインクリニックとは
ペインクリニックという単語を聞いたことはあるでしょうか。ペインクリニックは一言で言えば「痛みを感じている人の悩みを全て受け入れる診療科」です。
もちろん、関節や骨、筋肉の異常などがあり、その痛みを手術で治せるような痛みであれば出番はありません。しかし、手術したけれども痛みが残っている場合や、そもそも手術をするようなものではない痛みなどはペインクリニックが引き受ける痛みになります。
他には帯状疱疹の後にのこる神経痛なども対象になります。とにかく、何かの原因で”痛い”と感じるなら、ペインクリニックで相談してみましょう。
ペインクリニックで行う痛みを緩和する治療法
痛みを緩和する治療法にはいろいろありますが、先ずはその痛みがどのような痛みなのかを調べることから始めます。先ほど述べたとおり、痛みには種類がありそれぞれ痛みを感じる機序が違いますから、それぞれに合った治療法を選択しなくてはなりません。
体性痛の治療
体性痛に対しては、よくある痛み止めの飲み薬がよく効きます。痛み止めを飲むと、動かしたり触ったりしてもなかなか侵害受容器のセンサーが反応しなくなるため、痛みを感じにくくなるのです。
内臓痛の治療
内臓痛には痛み止めの薬はなかなか効きません。むしろ、胃が悪いのであれば胃薬を使用したり、腸の蠕動が激しいことが原因であれば腸の蠕動を押さえる薬を内服したりすることで痛みを抑えます。
神経障害性疼痛の治療
神経障害性疼痛はなかなかやっかいな痛みです。と言うのも、先ほど述べたとおり神経が修復される過程で生じる痛みですから、その過程をとめてしまうわけにはいきません。
さらに、センサーが痛みを感じているわけではありませんから、薬でセンサーを鈍らせても痛みがあまり治まらないのです。
さらに、痛みが長く続くと、脳の中で痛みを感じるスイッチが入ったままずっと解除されなくなってしまい、慢性痛へと移行してしまいます。ですので、ペインクリニックに他の診療科から紹介されてくる痛みの多くは神経障害性疼痛になるのです。次の項では神経障害性疼痛に対する治療法を詳しく説明しましょう。
ペインクリニックで行う神経障害性疼痛に対する治療法
神経障害性疼痛に対して、ペインクリニックでは主に神経ブロックと薬物療法によって痛みの緩和を目指します。
神経ブロック
神経が痛みを脳に伝達するのですから、その伝達路の途中に局所麻酔をすることで神経を麻痺させ、脳への痛みの伝達をブロックします。
これにより現在感じている痛みを取るだけではなく、脳が痛みをずっと感じて痛みを感じるスイッチが入ったままになることを予防することもできるのです。
また、すでに慢性痛に移行してしまったような、神経の修復は終わっているのに脳が痛みを感じるスイッチを入れたままにしている状態も、神経ブロックをすることで一時的に感覚を麻痺させることができます。これによりスイッチが切れている状態を脳に思い出させることで痛みを改善させることができます。
神経ブロックを行う場所は手や足の末梢神経が走行している場所に行う場合もありますし、脊髄の近くに行う場合もあります。痛みの場所や種類によって使い分けます。
薬物療法
いわゆる西洋医学で製薬された薬剤にも、何種類か神経障害性疼痛に効果のある薬剤はあります。抗痙攣薬や、うつ病の薬の一部が神経障害性疼痛に効果があり、痛みを軽減してくれます。
しかし、投与量の調整が難しく、合併症によっても使用ができない場合があるなど、制限が多いため、薬局で気軽に購入して使用することはできません。
一方で漢方薬には、痛み止めの効果があるものがあり、それらの中には神経痛にも一定の効果を得られるものがあります。次の項目で、痛みに対して使用できる漢方薬を紹介しましょう。
痛みに対して使用される漢方薬
痛みの緩和のために使用される漢方薬は種々ありますが、やはり単純に「痛みを止める」というだけで選ぶのではなく、原因や症状によって使い分けを行う必要があります。
漢方薬はさまざまな生薬が配合されていますから、さまざまな部位に効果があったり、痛み止め以外の効果も得られたりすることがありますから、慢性の痛みに対しては非常に使いやすいと言えるでしょう。
症状だけではなく全身の状態によって配合をさまざまに工夫して処方されますから、処方医によってさまざまなバリエーションがありますが、ここではよく使用される漢方を抜粋して紹介しましょう。
四肢関節や腰の急な痛みに対しては、芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)がよく使用されます。芍薬甘草湯はこむら返りの際に使用される漢方としても有名で、こむら返りの予防にもよく使われます。筋肉の張りを改善してくれるので、腰痛の際にも効果が認められます。
越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)、麻黄湯(マオウトウ)、麻杏薏甘湯(マキョウヨクカントウ)などは急性期の腰痛に効果があります。筋肉の血流を改善し、関節の痛みを和らげますが、虚弱なひとや高齢者には使用がしにくいという欠点があります。
疎経活血湯(ソケイカッケツトウ)は腰痛や背部痛などの体幹だけではなく、四肢の骨格筋に効果があります。生薬として鎮痛効果のあるものが含まれています。また、しびれにも効果があるといわれ、坐骨神経痛など四肢の痛みを感じる場合には使用がしやすい薬剤です。
八味地黄丸(ハチミジオウガン)は、腰がだる重く、歩くとすぐつかれ足が痛い、所謂足腰が弱くなったという場合に使用されます。
葛根湯(カッコントウ)は風邪のときに使うことが多いイメージがありますが、僧帽筋という首の後ろから肩に広がる筋肉の血液の循環を改善してくれるので、肩こりや項頸部痛に使われます。腰痛に対しては他にもさまざまな漢方薬が使用されます。
牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)は、疲れがあり、むくみがあるようなときに使用されますが、しびれの症状にも効果があると言われ、虚弱で腰痛があり、下肢のしびれがあるような場合によく使用されます。
五苓散(ゴレイサン)や桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)は、牛車腎気丸や八味地黄丸に併用することで鎮痛効果を増強させることがあります。
女性の腰痛の場合は、婦人科領域の疾患が関係している場合があり、それらに対して当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)や桂枝茯苓丸などを使用することで腰痛が改善することがあります。
他にもさまざまな漢方薬が使用されます。痛みが長く続く、困ったと言う場合はお気軽にペインクリニックや、漢方専門医を受診してみましょう。長年の悩みが解決されるかもしれません。