高齢者の肺炎の特徴と誤嚥性肺炎を防ぐ方法

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肺炎は風邪が重症化したものだと考える人もいるかもしれませんが、それは間違いです。

肺炎は肺という体の中の重要な臓器に感染が起こっている非常事態で、すぐに重症化することもある危険な病気です。

特に高齢者の場合、肺炎を発症するリスクも、肺炎が重症化するリスクも高いので注意が必要です。ここでは、高齢者の肺炎の特徴について解説します。

高齢者の死因になる肺炎

毎年日本人の死因がランキングとして公表されています。1位は悪性新生物、すなわち癌です。2位は心疾患になります。心不全や心筋梗塞などの病気でなくなる人は今も昔も非常に多いです。

2019年のデータになりますが現在、死因の第3位は老衰で、4位が脳血管障害、そして第5位に肺炎が登場します。なお2016年は肺炎は第3位でしたが、ここ数年老衰と脳血管障害が上位になってきています。

しかしこれは、肺炎で死亡する件数が減少したというわけではありません。以前は、高齢者の誤嚥性肺炎(後述します)や、脳血管障害に伴って肺炎を起こした場合は肺炎による死亡とされていましたが、近年では老衰や脳血管障害による死亡にカウントされるようになり、見かけ上肺炎の死亡数が減っただけなのです。

ですので、高齢者にとって肺炎は、命取りになる病気であることに変わりはなく、決して侮ってはならないのです。

高齢者の肺炎の特徴

では、高齢者にとってなぜ肺炎が致命的となるのでしょうか。まずは肺炎はどのような病気で、体の中でどのような反応が起こるのか見ていきましょう。

一般的な肺炎の特徴とは

そもそも、肺炎は肺に起こる病気です。肺は呼吸によって入ってきた空気から酸素を体に取り込み、体の中で産生された二酸化炭素を排出する臓器です。

しかし、肺炎が起こると肺の中に水がたまってしまい、その機能が低下します。つまり、酸素の取り込みが十分できず、体が酸欠状態となってしまうのです。若い人でも少し動いただけで息切れをしたり、ぐったりしてしまったりするのです。これが体力のない高齢者であればさらに重症となってしまいます。

もちろん、体の免疫は肺に侵入した微生物に対して全力で応戦します。平熱より熱が高い方が免疫の機能が向上するため、体は熱を出すことで免疫力を向上させようとします。また、微生物を排出するために積極的に咳をします。

肺炎の一般的な特徴としては息苦しく、高い熱が出て、咳がたくさん出るという症状になります。ただし高齢者の肺炎の場合は事情が異なります。

熱が出ないことがある

熱は免疫反応を向上させるために体が行う反応だと説明しました。しかし高齢者は、熱を出す機能が低下していることが多く、肺炎でもなかなか熱が出ないことがあるのです。

それどころか、肺炎によって体力が著しく低下した場合、通常通りの熱を産生するような能力まで低下してしまい、逆に体温が下がってしまうことさえあるのです。高齢者の場合、熱がないからといって肺炎ではないとはいえないのです。

咳が出ないことがある

咳は肺の中に侵入した微生物を体の外に排出するための大切な機能です。しかし高齢者の場合は、咳をするための筋肉が衰えていたり、さらには咳をしなくてはならないという反射が低下していたりするため、微生物が肺に入って肺炎が起こっている状態でもなかなか咳が出ない場合も多いのです。

重症化しやすい

肺炎が起こると体は免疫を最大限活性化させるために発熱し、さらに微生物を排出するために咳をします。しかし高齢者の場合、それらの機能が低下していることが多く、免疫が十分に働くことができません。

さらに、若い頃に比べて体力が低下していますから免疫反応を起こそうとしてもすぐに力尽きてしまい、微生物の増殖のスピードに太刀打ちできなくなってしまいます。


そのため、高齢者では免疫の力が弱く、活性化することができず、微生物を排出することもできないため悪条件が重なり、重症化してしまうのです。

さらに肺炎によって酸素の取り込みが低下すると、肺以外の臓器でも酸素の量が不足し、臓器の機能が低下します。これにより短期間で全身状態が悪くなってしまうことも稀ではありません。高齢者の肺炎では特に早期の治療が求められます。

高齢者に多い誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「誤嚥」というのは、本来消化管の方にあるべきものが気道から肺の方に流れ込んでしまうことをいいます。

人の体はのどにある喉頭という場所で気管と食道に分かれます。口や鼻から入った空気は喉頭から気管の方に、食物や飲み込んだ水分などは喉頭から食道、胃へと入っていきます。食物や水分などが喉頭に入ると喉頭蓋という蓋が気管の入り口に蓋をすることで、流れ込みを防ぎます。

ものを飲み込むことを「嚥下」といいます。嚥下は、飲み込むものを口の中からのど、喉頭、食道へと移動させる動きに加えて、この喉頭蓋が気道に蓋をして気道への流れ込みを防ぐという動きも合わせた一連の動きを指します。

しかし高齢者の場合、この嚥下のために必要な筋肉が衰えています。そのため、ものを飲み込みにくいという症状が出るほか、喉頭蓋の動きが不十分であるために気管の中に食物や水分がたれ込んでしまうのです。これが誤嚥です。食物はもちろんですが、唾液も誤嚥しうるため、食事をしていないときでも誤嚥は起こります。

誤嚥すると、口腔内の異物が気管、さらには肺にまで入り込んでしまいます。口腔内には常在菌といわれる菌がたくさんいます。それらの菌が肺の中に入ってしまうと肺炎の発症につながります。

お気づきの通り、誤嚥をし続ける限り菌が肺に入り続けてしまうわけですから、高齢になって嚥下機能が低下してしまっていると誤嚥性肺炎を繰り返しやすくなります。

誤嚥性肺炎を防ぐ方法

誤嚥性肺炎を防ぐ方法を紹介します。

口腔ケア

誤嚥をしてしまうのは仕方ないとすれば、誤嚥するものがある程度清潔であれば入り込む細菌の数も減少し、肺炎が重症化しにくくなります。ですので、口腔内を清潔に保つことは重要です。

例えば食事の後すぐに歯を磨くことは、非常に簡単で、かつ効果的な対処法です。食物が口腔内に残っていればそれを元に細菌が増殖します。歯磨きによってそれを除去するだけで細菌の増殖を抑えることができます。

虫歯など口腔内の疾患をしっかり治療しておくことも有用です。それらの疾患は、細菌の温床ですから、適切な治療を行い細菌がたまりにくい環境を作っておくことで誤嚥しても肺炎が重症化しにくくなります。

食後すぐに横にならない

嚥下の力が低下している場合、食べてすぐに横になると口の中のものが食道に入らず気管に入りやすくなります。食後は座っている、もしくは立っていることで口の中のものが食道の方へと入りやすくして誤嚥することを予防することができます。

嚥下体操

低下した嚥下機能はなかなか回復させることは難しいです。しかし嚥下はそもそも筋肉の働きですから、嚥下体操によって筋肉をしっかりトレーニングすることで嚥下する力をある程度回復させ、誤嚥しにくくすることができます。

ここでは高齢者の肺炎の特徴について見てきました。肺炎は死因になることがある病気です。特に高齢者の場合は短期間で重症化する可能性があるため、早期の治療が求められます。また、誤嚥性肺炎を起こさないように、高齢者の方やそのご家族、介護をされている方が日常生活の中で予防に努めることが大切です。


<執筆・監修>

郷正憲先生プロフィール画像

徳島赤十字病院
麻酔科  郷正憲 医師

麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。
麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。
本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。
「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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