良性の脳腫瘍の手術は必要?放置するリスクや手術の後遺症を解説

お悩み

脳腫瘍はWHO gradeで分類し、I~IVに分けられます。WHO grade Iを主に良性とし、WHO grade II~IVを悪性とします。良性脳腫瘍は悪性脳腫瘍と比較して腫瘍の成長が遅く、周囲の脳との境界がわかりやすく、転移などをしないという特徴があります。

ここでは良性脳腫瘍を放置するとどうなるのか、手術する場合としない場合の違いは何か、などについて解説します。

良性脳腫瘍を放置した場合のリスク

良性脳腫瘍は腫瘍が生じる場所によって、髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫などさまざまな種類に分けられます。良性脳腫瘍は一般的には手術治療が検討されます。

しかし、良性脳腫瘍は腫瘍の成長が遅く、最初のうちは経過観察していく場合が多いです。腫瘍の場所や大きさにもよるのですが、年に1~数回の画像検査で経過を見ていきます。そうなると途中で放置してしまったり、通院を忘れてしまう可能性もあります。

腫瘍が成長し、症状が出てからでは手術によるリスクが高くなり、後遺症が生じてしまう可能性も高くなります。また、一旦症状が出ると治らない可能性が高くなります。

そういったリスクを避けるためにも、放置することは絶対に避けましょう。また、脳腫瘍を指摘された場合は、たとえ良性でもしっかりと定期的に病院を受診しましょう。

良性脳腫瘍の手術で起きる可能性のある後遺症

良性脳腫瘍は手術治療によって、可能な限り摘出します。

しかし、どのような手術にもいえることですが、100%安全な手術はありません。合併症が生じる可能性が少なからずあります。そのため、どのような合併症が生じるか知っておく必要があります。

良性脳腫瘍の手術でどのような合併症が生じるか見ていきましょう。

◎手術に伴う合併症

・脳挫傷(脳自体を直接損傷することによるもの)
・脳梗塞、脳出血、脳浮腫など(脳に栄養を供給する血管を損傷することによるもの)
・脳神経障害など(脳神経を傷つけることによるもの)
・髄膜炎、脳膿瘍など(脳内への細菌の侵入によるもの)
・髄液漏(髄液が頭蓋外に漏れることによるもの)
・肺炎や肺梗塞、心筋梗塞などの全身合併症(全身麻酔によるもの)

◎合併症による後遺症

・意識障害
・手足の運動障害や感覚障害
・記憶障害
・けいれん発作
・失語
・嗅覚障害
・視野障害・眼球運動障害
・顔面神経麻痺
・聴力障害
・嚥下機能障害

このように手術による合併症を原因として後遺症が出るリスクがあります。医師は、後遺症が起こるリスクと腫瘍を摘出するメリットを考え、手術を行うかどうか判断します。

良性脳腫瘍の手術後に再発とは

良性脳腫瘍は手術で全摘出することができれば再発する可能性は非常に低くなります。しかし、良性脳腫瘍でも増殖能力が高い場合は、術後時間の経過とともに再発率が上がると考えられています。

また、聴神経腫瘍などは、顔面神経が腫瘍に張り付いているため、腫瘍を無理に全摘出せずに残存させることがあります。もし、術後に増殖能力が高い腫瘍であった場合や残存した腫瘍がある場合は、放射線治療を追加することがあります。

良性脳腫瘍で手術する場合と、手術しない場合

良性脳腫瘍で手術を行うかどうかをどのように判断するのか紹介します。

経過観察する場合

良性脳腫瘍であっても全て手術が必要というわけではありません。良性脳腫瘍の中には、腫瘍のサイズがあまり大きくならなかったり、自然と縮小するものがあります。

脳ドックなどでのMRIで偶然見つかった良性脳腫瘍の場合は、症状が出現していないかぎり、初診時から手術を検討することは少ないです。

まずは、経過観察を行い、定期的に画像でフォローすることで腫瘍が大きくなっていくのか、サイズが変わらないのかを見ていきます。その過程で腫瘍のサイズが大きくなったり、症状が出現したりした場合は、手術による摘出を検討します。

手術が望ましい場合

サイズが小さい場合は、経過観察でもよいのですが、経過観察の過程でサイズが大きくなってきていたり、症状が出てきている場合は積極的に手術をすることが望ましいです。

手術で腫瘍を全て取り除くことができれば再発するリスクはかなり低くなります。

手術できない場合

聴神経腫瘍など脳幹に近く、腫瘍が大きくなっている場合、手術による命のリスクが高くなるため、手術が困難となることがあります。また、腫瘍のサイズが小さい場合は、手術によって腫瘍が見つからない可能性もあり、手術ができない場合があります。

全身状態が悪い場合も手術が困難となることがあります。

手術にともなうリスクが大きい場合

聴神経腫瘍などで腫瘍が大きく、症状が出ている場合でも、手術による命のリスクが大きい場合は定位放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフ)を検討することがあります。

また、他の良性脳腫瘍でも、全身状態が悪い場合や、再発を繰り返す場合などは、放射線治療で腫瘍が大きくなるのを抑えることがあります。

いかがでしたでしょうか。良性脳腫瘍は手術で全摘出できれば再発も非常に少なくなる腫瘍であり、5年以上生存できる可能性は100%に近いです。

しかし、だからといって楽観視できる腫瘍というわけではなく、良性脳腫瘍であっても重症化することもあります。良性脳腫瘍を指摘された方は、定期的に病院を通院して、しっかりと経過をみていきましょう。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

プロフィール

関連記事