胃がんの手術方法と、ダブルトラクト法など再建法のメリット・デメリット

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胃がん手術は、胃がんを確実に切除し、術後に患者さんの順調な回復を促進させる目的で行われます。

胃がんの病変部がどこまで広がっているか、周囲リンパ節に転移があるかなどを含め、個々の患者さんにどの手術がもっとも適しているかを術前に熟慮し、手術方法が選択されます。

ここでは胃がんの手術を取り上げ、切除手術や再建法の種類、開腹手術と腹腔鏡下手術の違いなどについて解説します。

胃がん手術とは

胃がん手術に関する基本的な事柄を確認しておきましょう。

定型手術と非定型手術

胃がんを根治的に外科的手術で治療するケースでは、胃全体、あるいは胃の2/3以上を切除してがん周囲に所属するリンパ節を周辺の脂肪組織と一塊に取り除く「定型手術」が一般的に知られています。

また、胃がん手術における胃の切除範囲と手術方法に関連して、胃の一部を切除する「縮小手術」、もしくは胃や周囲リンパ節のみならず胃の周辺に位置する膵臓や脾臓などの臓器も共に切除する「拡大手術」などを始めとする「非定型手術」が挙げられます。

胃がんを罹患した患者さん個々のケースにおいて、悪性腫瘍の広がりや深達度、あるいは進展度などによってさまざまな手術様式を考慮します。また、実際に手術を実施する場合には患者さんの体力や手術の侵襲度、胃がんを確実に切除できる手段を含めて色々な視点から検討します。

リンパ節郭清術とは

胃がんのステージや解剖学的なロケーションに応じてそれぞれの症例で術前に定められた手術の術式にしたがって、胃の全部あるいは一部、そして胃周囲に所属している周辺リンパ節をあわせて切除するリンパ節郭清術を実施されることも往々にしてあります。

リンパ節郭清術は、肉眼でははっきり観察できない悪性腫瘍のがん病巣を切除しきれずに取りこぼす危険性を減らすために行います。郭清する範囲は胃がんが存在する部位や深達度などに応じて決定します。

胃がん手術の種類

胃がん手術にはいくつもの種類があります。

胃全摘術

胃がんの存在範囲が広い場合などに、胃の入口部(口側)と出口部(肛門側)を並行して切離し、胃の全ての部位を切除する方法です。

胃の上部(口側)に及んでいる進行した胃がん、あるいは胃の上部(口側)にがん病巣が進展しており切除後に残る胃組織が半分以上に満たない早期胃がんの病変に対して実施されます。

昨今では、胃を全て摘出することは侵襲度が高く患者さんの負担も大きくなるため、この方法は避けられる傾向があり、腫瘍を切除した上で可能な範囲で胃を残すことによって術後の食思不振や体重減少を軽減させるように努めています。

胃全摘術を実施した際の再建方法は、残った食道と小腸を吻合して、かつ十二指腸に分泌される膵液や胆汁などの消化液と食べ物を混じり合わせるために、小腸どうしの吻合もあわせて施行することになります。

幽門側胃切除術

胃の肛門側に該当する出口で十二指腸への入口部に当たる部分を「幽門部」といいます。幽門側胃切除術は、幽門部周囲を切除する最も一般的な胃切除法であり、主に噴門部(胃の口側に該当する入口部)に及ばない胃がん病変に対して実施されます。

選択される再建法として、前述のビルロート I法、あるいはルーワイ法が実施されます。

幽門保存胃切除術

胃の噴門部や幽門部ではなく胃体中部に位置している早期胃がんであり、胃の幽門部から約4cm以上離れて存在するがん病巣を対象として実施される術式です。

幽門部を機能的に温存して残すことにより、摂取した食べ物がすぐに十二指腸のほうへ流れ込まず、十二指腸から分泌液が逆流しないように工夫することで、手術をした後にダンピング症候群や急激な栄養失調や体重減少を回避することを目的とした手術方法になります。

再建する際には、胃体中部を切除したのちに残った胃の部分どうしを吻合します。

噴門側胃切除

胃の上部(口側)に存在する胃がん病変に対して行われる術式であり、基本的には2/3以上の胃部分を温存できる方法となっています。

本術式では、食道と胃の接合部における逆流防止機構を腫瘍と共に切除する必要があり、術後に胃酸の逆流が引き起こされることが課題として認識されています。手術前に劣らない生活が送れるように再建することがキーポイントとなります。

実際に再建方法はいくつか考えられていますが、食道と胃を直接的に吻合して胃酸が食道に逆流する後遺症を少しでも軽減させるために、「観音開き法」という再建法を取り入れることで数々の再建吻合策より逆流や消化管狭窄を起こしにくいと考えられています。

また、本術式を実施する際の再建法として、小腸を食道レベルの上部にまで持ち上げて挙上させ、食道と小腸、小腸と残胃、そして小腸と小腸を吻合するダブルトラクト法も広く知られています。

この再建法では、残胃の機能が温存できるのみならず、食べ物の通り道が単一ではなく2種類確保されることが利点と考えられます。

開腹手術と腹腔鏡下手術の違い

内視鏡治療以外で胃がん手術を外科的に行う際には、主に開腹手術と腹腔鏡手術のいずれかが選択されます。

胃がんの病変部を確実に切除して治癒するために切除する胃やリンパ節の範囲に関しては、個々のケースでがん組織の進行度や病期によって決定されるので、実際の切除範囲は腹腔鏡下手術でも開腹手術でもほとんど変化ありません。

開腹手術は以前から実施されてきた大きな傷を腹部に切開して開腹する術式です。実際には直視下に胃を切除して、周囲の所属リンパ節を郭清し再建吻合を従来から行っていましたが、この手法では患者さんに与える侵襲度や負担が大きく、術後の創部痛が強くてリハビリが進みにくい、整容的に傷が目立つなどのデメリットが課題としてありました。

そんな中で、胃がん病巣に対する腹腔鏡手術が1990年代に世界に先駆けて日本で開発され、現在では腹腔鏡下胃切除術が実施されてからおよそ30年が経過し、手術件数は年々増加傾向にあります。

開腹手術と比較して、短期的な手術成績や術後生存率の違いがまだ充分理解されていないために、昨今の胃がん治療ガイドラインでは、幽門側胃切除術が適応となるステージI期の早期胃がん例の場合に腹腔鏡を用いた胃がん手術が選択肢として位置づけられています。

腹腔鏡手術では傷が小さくて済むことで術後の創部痛が少ないために術後の回復が速く、若年者はもとより高齢者でも手術の後で早期に食事ができ、入院期間が短縮されて社会復帰がスムーズにできることが利点といえます。

再建法の特徴とメリット・デメリット

胃がんの手術では、原発巣の切除、および転移していることが懸念される周囲リンパ節を郭清して腫瘍と同時に切除したあと、術後に食物がスムーズに胃腸を流れて摂取できるように切除した部分の消化管をつなぎ合わせて吻合する再建術が併施されます。

胃がんを切除する手術では、術後に食べ物が順調に胃より奥の腸管へ運搬されていくように再建することを心がけて、消化液に含まれる消化酵素による炎症、あるいは腸管内の腸液や消化された食べ物が逆流しないためにも個々の患者さんに適した再建法が選択されます。

再建法の特徴とメリット・デメリットを見てみましょう。

ルーワイ法

ルーワイ法は、スイスのLausanne大学を主宰していたRoux氏によって、1893年に報告された胃がんの手術治療における再建方法のひとつであり、ビルロートI法とともに日本で普及している再建方法と認識されています。

吻合部位が2か所 (残胃空腸吻合と空腸空腸吻合) となり、手術手技がやや煩雑になりますが、縫合不全が少ないという点から安全な方法です。

また、十二指腸液の逆流が少ないために残胃炎が少ないことがメリットの一つであるため、術前に食道裂孔ヘルニアや逆流性食道炎を認めるケースには、ビルロートI法ではなく、ルーワイ法が推奨されます。

ただし、術後に胆道系のいずれかにトラブルが生じた際には、内視鏡的処置の施行が困難であるため、他のアプローチでの治療が必要となる点が考えられます。

具体的な手技内容としては、十二指腸断端を閉鎖して、Treiz靱帯から15~20cmの部位で空腸を切離し、空腸を結腸前または結腸後経路で挙上し、残胃空腸吻合を行うという流れになります。

残胃空腸吻合部から30~35cmの部位で空腸空腸吻合を行い、2つの小腸間膜の間隙は閉鎖するようにします。

特に、近年では、挙上空腸と結腸間膜の間隙に小腸がはまり込むという内ヘルニアの状態が多数報告されており、同部位も術中に閉鎖することが重要であると認知されています。

簡便で安全性の高いルーワイ法は、幽門側胃切除術だけでなく、胃全摘術後の再建の場面でも幅広く行われている再建手段です。

ビルロートI法

ビルロートI法は、最初の胃切除術で行われた残胃と十二指腸を吻合する再建方法であり、日本では胃切除時に、この再建方法を第一選択としている施設が多いといわれています。

食物の流れが生理的である点が特徴の一つであり、術後に万が一胆道系に合併症などトラブルがあった場合に内視鏡処置を実施しやすい点がメリットとなります。

その一方で、縫合不全の危険性と縫合不全を生じた場合に状態が重篤になりやすい点がデメリットとして挙げられますし、十二指腸液の逆流による食道炎や残胃炎の頻度がやや高い点が短所です。

以前は手縫い縫合で消化管吻合が行われていましたが、最近では、手術機器の進歩によって、自動吻合器で器械吻合されることが多く見受けられます。

ダブルトラクト法

胃全摘術の場合に、消化管の再建方法としてダブルトラクト法が選択される場合もあります。

基本的な再建の方法は、ルーワイ法とほぼ同様ですが、ダブルトラクト法では、十二指腸断端は閉鎖せずに挙上空腸の側面へと側端吻合します。

吻合部位が多くなりますが、食べ物や十二指腸液が空腸十二指腸吻合部を通過することで、より生理的な食物の流れを確保できますし、術後の胆道系トラブルに対して、内視鏡処置を施行することが可能となります。

ダブルトラクト法の短所としては、挙上空腸に食べ物が停滞する通過障害、あるいは十二指腸液の逆流があると考えられています。

まとめ

これまで胃がんの手術方法と再建法、開腹手術と腹腔鏡下手術の違いを中心に解説してきました。

近年では、医療技術や手術成績が進歩して、特に早期胃がんは治癒する時代となりました。手術後も合併症を起こさず不自由なく日常生活を過ごせるように、確実で安全な手術方法や再建法への期待が高まっています。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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