パーキンソン病とアルツハイマー病の違いや、レビー小体病との関係を解説
アルツハイマー病とパーキンソン病。どちらも一度は聞いたことがあることでしょう。でも、違いに関しては、知らない方も多いと思います。ここではアルツハイマー病、パーキンソン病のそれぞれの症状や、違いについてみていきましょう。
アルツハイマー病とは
アルツハイマー病はアミロイドβというタンパク質の蓄積によって、神経細胞が減少し脳全体が萎縮することで発症します。
記憶を司る部位である海馬から萎縮から始まるため、初期では記憶障害が現れます。昔のことはよく覚えているが、最近のことが覚えられず、日付がわからなくなったり、いつもの道でも迷ったりするなどの症状が出現し、進行性に記憶力や思考能力が失われていきます。
症状はゆっくりと進み、症状が出現してから約半数が寝たきりとなるまで約2~8年、死亡までの平均罹患期間は約8〜10年といわれています。
パーキンソン病とは
パーキンソン病とは、脳の神経細胞に障害が生じることによって、体の動きに問題が生じる病気です。
本来であれば人間の体は、大脳皮質からの指令が筋肉に伝わることで動いています。スムーズに体を動かせるように運動調節の指令役を担っているものが、神経伝達物質であるドパミンです。パーキンソン病では、このドパミン神経細胞が壊れることで、ドパミンの生成量が減少して発症します。
パーキンソン病には特徴的な症状として、以下に示すものがあります。
無動
動きがすばやくできなくなる症状です。歩くときに足が出なくなったり、話し方に抑揚がなくなって声が小さくなったりします。
安静時振戦
何もしていないときに震えが起こる症状です。片方の手や足の震えから発生することが多いです。睡眠中は震えが収まります。1秒間に4〜6回ほどの震えが特徴です。
筋固縮
肩、膝、指などの筋肉がかたくなり、スムーズに動かしにくくなります。顔の筋肉がこわばって無表情に感じられるようになり、痛みを感じることもあります。
姿勢反射障害
体のバランスがとりにくくなり、転びやすくなります。歩いていると止まれなくなり、方向転換するのが難しいなどの症状が特徴です。
パーキンソン病はアルツハイマー病と同様に時間をかけてゆっくりと進行します。
アルツハイマー病とパーキンソン病の違い
アルツハイマー病とパーキンソン病には具体的にどのような違いがあるのでしょうか。原因、症状、治療法の3つの観点から違いについてみていきましょう。
原因の違い
アルツハイマー病は、アミロイドβというタンパク質の蓄積によって、神経細胞が減少し海馬から萎縮が始まり、脳全体が萎縮することで発症するとされています。
一方でパーキンソン病は、中脳の黒質と呼ばれる部位の神経細胞が壊れることによって起こります。この黒質はドパミンという神経伝達物質を分泌し、ドパミンは人間が元気で活発に生きていくために必要な、感情、学習、意欲に深く関わります。
症状の違い
アルツハイマー病は記憶を司る部位である海馬の萎縮により、初期には物忘れなどの記憶障害が目立つようになります。アルツハイマー病の記憶障害は加齢による自然な物忘れとは異なり、自分が体験した内容自体を忘れることなどが特徴となります。
一方でパーキンソン病は運動調節を行うドパミンが不足することによって、手足の震えが初期から目立つようになります。パーキンソン病でみられる手足の震えは、力を抜いて安静にしているときに小刻みに震えることが特徴です。また、手足の震え以外に足を前に出しづらくなったり、引きずって歩くようになったりするなどの歩行障害もみられます。
初期以降の症状の違いを見ると、アルツハイマー病では記憶障害の他に、見当識障害や物事を効率的に進めることができなくなる実行機能障害が現れます。また、見たものが何かを理解することができない失認や人格に変化が起こる場合もあります。
一方でパーキンソン病では手足の震えの他に筋固縮や、便秘や頻尿、むくみといった症状が現れます。
治療の違い
アルツハイマー病そのものを根本的に治す薬はありません。治療薬として4種類の薬物があります(アリセプト、イクセロンパッチ、レミニール、メマリー)。患者の症状や他の疾患、投薬の反応などによって使用する薬物が異なってきます。
これらの薬物は認知症の症状の進行を抑制し、思考力・記憶力を維持する効果があります。また、特定の行動や精神症状の緩和などにも役立つとされています。
しかし、効果を示す方がいればそうでない方もおり、一定の期間のみにしか効果が出ない場合もあり、適宜調整や治療薬の変更などが必要となります。リハビリやデイケアなども必要に応じて利用します。
一方でパーキンソン病には、薬物療法とデバイス補助療法といった治療法が用いられます。パーキンソン病を発症すると脳内のドパミンが減少するので、ドパミンの供給量を増やすための薬(L-ドパ、ドパミンアゴニスト)を用います。
そして、パーキンソン病の進行に伴い薬物療法に十分な効果が得られなくなった場合は、デバイス補助療法が検討されます。デバイス補助療法は専用のポンプやチューブを用い、小腸に薬物を送る持続経腸療法や細い電線を用い、脳に電気信号を送る脳深部刺激療法があります。
さらに、パーキンソン病は症状が進行するにつれて体の動きが不自由になります。そのため、運動療法や作業療法などのリハビリも行われます。リハビリを行うことで体力や筋力を維持するほか、日常生活における基本的動作の維持や改善を図ります。意欲的な生活を送ることでドパミンの生成量を増やすことができます。
パーキンソン病と認知症(レビー小体病)の関係
パーキンソン病になると約3割が認知症となります。パーキンソン病になることで認知症のリスクが上がるのです。認知症の生じ方は、運動障害からだんだんと認知機能障害が現れるパターンと、認知機能の低下から運動機能が衰えてくるパターンがあります。
運動障害から認知機能障害が現れるパターンは、認知症を伴うパーキンソン病と呼ばれ、高齢者になるほど発症率が高くなり、妄想や幻聴も出てきます。
一方で、認知機能の低下から運動障害が現れてくるパターンは、レビー小体型認知症と呼ばれます。レビー小体型認知症は、認知症の中ではアルツハイマー型認知症についで患者の多い認知症です。パーキンソン病から始まる認知症も認知症から始まるパーキンソン病も、病理学的には同一の病気となります。
それは、黒質の神経細胞が減少するにつれてレビー小体が増えるという相関関係があり、両方とも進行すれば黒質の神経細胞がどんどん減っていき、レビー小体はどんどん増えていく病態であるからです。
アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症について見てきました。どれも聞いたことはあるけれど、違いについてはよくわからないことが多いと思います。これらの病気が疑われる症状に気づいたときは、医師の診断を受けることでできる治療も変わってきます。単なる痴呆と決めつけるのではなく、一度病院にご相談ください。
<執筆・監修>
九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師
高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。