大人も感染する溶連菌はどうやってうつる?原因と治療法を解説

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溶連菌という菌の名前を聞いたことはあるでしょうか。風邪の原因となるライノウイルスやRSウイルス、インフルエンザウイルスや、大腸菌、カンジダなどよく聞く感染症に比べるとあまり聞くことが少ない菌かもしれません。

近年では感染例が減ってきていますが、それでもときどき感染者が出る感染症です。また、感染を起こしたそのときの症状だけではなく、さまざまな合併症を引き起こす病気でもあります。ここでは、そのような溶連菌感染症について解説します。

溶連菌感染症とは

溶連菌は溶血性連鎖球菌の略です。連鎖のところをカタカナでレンサと表現することも多いです。この溶血性連鎖球菌の特徴は、名前によく現れています。

まず、連鎖球菌というところから解説しましょう。細菌にはさまざまな種類がありますが、その中でも連鎖球菌とはグラム陽性菌というグループに所属します。グラム染色という特殊な染色をして顕微鏡で見ると青く染色されることから名付けられました。このグラム染色では、細胞壁が強く、アルコールでなかなか破壊されないものに青く色素がつく特徴があり、連鎖球菌も実際強い細胞壁を有しています。

グラム陽性菌のなかにもさまざまな種類がありますが、連鎖球菌はさらに球形の構造をしており、連鎖、すなわちチェーンのようにいくつもの細菌がつながっていることから連鎖球菌と名付けられました。英語名もStreptococcus属となっており、「連鎖した」という意味のStreptoと、「球菌」という意味のcoccusが合わさった名前になっています。

連鎖球菌自体も複数の種類がありますが、特に人間の血液中にある赤血球を破壊する効果のある溶血毒を産生するものがあり、それらをまとめて溶血性連鎖球菌といいます。

さらに溶血性の強さによってα、β、γの3種類に分類され、細胞壁に対する抗原の種類によってAからVまでの種類に分類されます。β溶連菌がもっとも溶血性が強いため、溶血性連鎖球菌のことを示します。

さまざまある溶連菌の中でも、咽頭炎、扁桃炎や丹毒、劇症型A群連鎖球菌感染症などの感染症を発症させる菌がA群β連鎖球菌、すなわちA群溶血性連鎖球菌と呼ばれます。ここからは溶連菌の中でもA群溶血性連鎖球菌について解説していきます。

原因となるA群溶血性レンサ球菌

A群溶血性連鎖球菌は前述のようにA群に分類され、溶血性の強い連鎖球菌です。感染力が強く、化膿性連鎖球菌とも呼ばれます。ただし、A群溶血性連鎖球菌にも複数種類があり、ごく一部には化膿性連鎖球菌に含まれないものもありますが、ほぼ同義で使われていることが多いです。

A群溶血性連鎖球菌がやっかいなのは、感染力が比較的強いということの他に、人の体の反応性がややこしいという点があります。

感染症が体に侵入すると、人の体は感染症に対抗するため抗体というものを産生します。抗体は感染症に結合すると目印となり、その目印がついている細胞に対して免疫細胞が攻撃を仕掛けることで体から感染症を排除します。

抗体が結合する細菌の部位を抗原といいます。人の体は抗原を認識することで抗体が抗原に結合するだけではなく、抗体の産生を増加させるのです。

しかし非常にやっかいなことに、A群溶血性連鎖球菌の抗原と、人の体の扁桃腺や腎臓にある成分がよく似ているため、A群溶血性連鎖球菌に対抗するためにできた抗体が扁桃腺や腎臓に結合してしまい、免疫反応が起こってしまいます。そのため、A群溶血性連鎖球菌に感染したあと数週間して体の各所で免疫反応が起こってしまう続発症が起こり得るのです。

主な症状

A群溶血性連鎖球菌による症状について、詳しく見ていきましょう。

まずは、菌の感染による症状です。細菌が感染して起こる症状には主に2つあります。1つ目は、感染者の咳やくしゃみによって菌が移る飛沫感染によって、気道に起こる感染症です。多くの場合学童に広がり、咽頭炎や扁桃炎を引き起こします。急性扁桃炎では扁桃に菌が感染し、赤く腫れる一方で、白苔という白い物質が付着します。

発熱も見られ、発熱に伴って胸部を中心とした赤い皮疹が出ることもあります。舌のブツブツが大きくなり、イチゴ舌と呼ばれる症状を呈します。しかし症状は長引くことはあまりなく、発疹も1週間程度で消えます。ただし、数週間後に合併症を引き起こすことがあるので注意が必要です。

もう1つの感染経路は皮膚の感染症です。もともと連鎖球菌は環境中の色々な場所にいる細菌ですが、怪我をしたり、免疫状態が悪くなったりすると、皮膚から皮下へと入り込み、そこで増殖して感染症を起こします。

浅い層で感染を起こすと、丹毒と呼ばれる境界明瞭で熱感をもつ発赤班を形成したり、膿痂疹、蜂巣炎などの感染症を引き起こしたりします。深部にまで入り込んで増殖すると、壊死性筋膜炎や劇症型A群連鎖球菌感染症といった症状も引き起こします。これについては後述します。

流行する時期

症状は大きく分けて2種類に分かれますが、それぞれ流行する時期が異なります。気道に起こる感染症は、寒くて湿度が低い時期に流行しやすく、冬の子どもの発熱のうちの一角を占めます。

一方で、皮疹は夏に多い傾向があります。夏の方が汗をかきやすく、皮膚のバリア機能が低下しているという面に加えて、外での活動が増え、外傷によって皮下に菌が入りやすいことも関係していると思われます。

どうやってうつる?溶連菌の感染経路

どのような感染症も、何らかの経路で人から人へとうつらなければ感染する事はありません。

溶連菌の感染経路は、飛沫感染や接触感染であるとされています。

咳やくしゃみをしたときに唾液を中心とした飛沫がとびます。その飛沫の中に細菌が含まれる事によってほかの人に至ります。その飛沫が口や鼻から身体の中に入ると感染が成立するのが飛沫感染です。

接触感染というのは、手と手が触れるなどして起こってくる感染です。とはいえ溶連菌が皮膚からしみ出してきて他の人に触れる事で感染が成立する、という訳ではありません。

ここでもやはり基本は咳やくしゃみなどになります。咳やくしゃみなどによって飛沫が本人の手や環境中に付着した場合、他人がその飛沫に触ってしまった後、口や鼻を触ることによって飛沫の中に存在していた細菌が体内に侵入して感染が成立してくるのです。

溶連菌感染は冬に起こりやすいのですが、原因としては咳やくしゃみがよく起こる季節である事と、鼻をかむなどの行為で鼻や口の周りを触りやすいことが挙げられます。

また、子どものおもちゃに付着した飛沫で接触感染することも多いですから、兄弟がいる場合に感染が広がりやすいのも特徴です。家庭内での感染予防が重要となります。

大人も感染することがある?

溶連菌感染症は子どもの間で感染が起こることが多いのですが、大人にも起こりえます。特に子どもが溶連菌感染症になった場合に、家族間で感染が起こることが多く、子どもが溶連菌感染と診断されたらマスクを着用し、手指衛生をするなど基本的な感染対策をする必要があります。また、皮膚の感染症は大人に多い感染症になっています。

劇症型とは

先ほどの症状のところでも紹介しましたが、A群溶血性連鎖球菌の重症なものとして劇症型の感染症があります。これは、皮膚の深い層に菌が入り込んで増殖してしまう状態です。もともと体の中は細菌が非常に繁殖しやすい環境になっています。感染症が入り込まないように皮膚というバリアを作り、さらに細菌が侵入したらすぐに対応できるような免疫機能を持っています。

しかし溶連菌が筋肉のあるような深い層まで入り込んでしまうと、非常に速いスピードで増殖します。これにより、筋膜という筋肉を包む膜が破壊されてしまい、壊死性筋膜炎を来します。

さらに溶連菌は毒素を産生して放出します。体中に毒素が回ることで発熱を起こしたり、四肢の痛みを感じたりします。異物に反応して体中で血液が凝固し血栓ができる一方、血栓を溶かす機構もフルに作動します。その結果、血液を固まらせる成分も、血液を溶かす成分も枯渇してしまい、体中で出血しやすい上に余計な血栓ができやすいという危険な状態になってしまいます。

これらの反応は短期間に進み、1~2日でショック状態、多臓器不全となってしまうのです。抗生物質の投与、全身の臓器の管理、血液凝固系の補充などさまざまな治療を行いますが、致死率が非常に高い危険な病気です。

溶連菌感染症の合併症

溶連菌感染が起こると感染による症状に加え、菌に対する抗体によって免疫反応の異常が起こり、さまざまな合併症が起こります。

いずれの合併症も、昔はよくみられましたが、近年では抗生物質による治療が確立しており、抗体が過剰に産生される前に治療効果が認められ、これらの合併症はあまり見られなくなっています。

リウマチ熱

溶連菌の中でもM蛋白という構造物に対する抗体によって起こることが多くなります。M蛋白は、人の心臓の筋肉と似たような構造をしていますから、抗体が産生されると心臓を中心にさまざまな症状が起こります。

初回の咽頭炎感染から数週間後に、心筋炎や多発関節炎、発熱、関節痛などが起こります。また、中枢神経への影響として舞踏病という歩行の異常が起こることもありますし、輪状紅斑や皮膚結節といった皮膚症状も起こりえます。

さらに心臓の中でも心臓弁の辺りで炎症が反復することで、弁の構造が変性してしまい、心臓の機能が落ちてしまうこともあります。

M蛋白を持つ溶連菌は、ほとんどが咽頭炎の原因となる菌で、皮膚への感染症を起こす溶連菌はM蛋白を持たないという特徴があるので、リウマチ熱は咽頭炎の後にしか起こりません。なお、リウマチといいますが、関節リウマチとは全く別の病気ですので、混同しないようにしてください。

急性糸球体腎炎

溶連菌感染が起こると、菌体の内外様々な蛋白に対する抗体が作られます。やっかいなことにこれらの抗体は互いに絡み合い、免疫複合体という塊になることがあります。この塊が血液の流れに乗って腎臓にたどり着くと、腎臓の中の尿を産生する糸球体という構造に沈着し、腎機能を傷害します。

尿を産生する部分の障害ですから、尿量が減ったり、血尿が出たり、蛋白尿が出たりします。また、尿が出ずに水分が体にたまってしまい、血圧が高くなったりむくみが出たりといった症状が出てきます。

溶連菌感染症の治療法

溶連菌感染症の治療には抗生物質を用います。特にグラム陽性菌に効くグループの抗生物質が非常によく効きます。具体的にはペニシリンや、ペニシリンの類似物質として作られているセフェム系の一部などです。

これらをじゅうぶんな日数を内服すれば、基本的には数日で軽快しますし、合併症も抑えられます。ただし、中途半端なところで治療を中止してしまうと耐性菌が出現したり、合併症が出現したりするので飲みきるのが重要となります。

咽頭痛がひどく、水も飲めないような場合は点滴を行うなど、種々の症状に対してはそれぞれ対症療法を行います。

壊死性筋膜炎や劇症型A群連鎖球菌感染症を引き起こしている場合はすぐに抗生剤の全身投与に加えて、感染部位を手術で取り除き、持続的に洗浄を行うなどの治療を行った上で、全身管理を行います。

溶連菌の感染を予防するポイント

溶連菌の感染を予防するためのポイントを確認しましょう。

手洗い・うがい

感染対策として最も基本的な手洗いうがいを行う事が必要となります。手に付着した飛沫が鼻や口から入ってくるのを防ぐ前にしっかり手洗いをすることで感染を予防することができます。

また、口周りやのどに付着したウイルスを排出するためにも、うがいを行う事は感染予防に重要となります。

特に食事をする前やトイレの後などに、こまめに手を洗うように声をかけたり、手洗いがまだ上手にできない年齢の子どもには手を洗ってあげたりすると良いでしょう。特に指の間や指先は洗い残しが多い場所になります。

手洗いをするときにはなるべく石けんを使用して手洗いをするとよいです。乾燥させることも感染予防になりますから、手を洗った後はしっかりとタオルやペーパータオルで拭き取ると良いです。

手洗いが困難な場合には濡らしたタオルやウェットティッシュなどでふいてあげるのも有効でしょう。

食器やタオルを共有しない

ものに付着した細菌が口に入ることで感染が成立しますから、同じものを共有する事によって感染が広がりやすくなってしまいます。特に食事の時には飛沫が多く飛びますから、食器を共有すると食事中に出た飛沫が他の子にうつってしまう可能性があり、避けた方が良いでしょう。

また、口周りや手をふくために使うタオルも飛沫が付着して感染を広げる原因となります。可能な限りタオルの共有は避けた方が良いでしょう。

アルコール消毒

手洗いができない場合、あるいは手洗いをした場合でもアルコール消毒は有用です。アルコールによって溶連菌は死滅しますから、感染力を失って感染を防ぐことができます。

特に外出先など、手洗いができない場面ではこまめにアルコール消毒をされることをおすすめします。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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