膵臓がんの検査方法とは?早期発見・治療を目指す診断の流れ

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膵臓は胃の後ろに位置しており、食べ物の消化や吸収を促進する膵液を膵管内に分泌する外分泌作用と、血糖値を調節するためにインスリンと呼ばれるホルモンを血中に分泌する内分泌作用機能を持っています。

膵臓がんのほとんどは、膵液の通り路である膵管と呼ばれる管腔組織から発生することが知られており、膵臓がんが発見される際にはすでに膵臓実質内に腫瘍性病変を形成している場合が多く見受けられます。

膵臓がんでは、初期段階では自覚症状が乏しく早期に発見されにくい疾患であるといわれています。

ここでは膵臓がんの検査方法について詳しく解説します。

膵臓がんの診断までの流れ

膵臓がんを罹患した患者さんのなかで、およそ半数の人は自覚症状が出現したことを契機に病院などの医療機関を受診して病変を発見されており、約15%の方々は健康診断で腫瘍を指摘されたという統計があります。

膵臓がんは病状が進行する速度がかなり速く、本疾患を発症したことに気づかないことも多く、気づいた際にも膵臓自体が身体の深部にあり、周囲臓器や重要な血管などに囲まれている性質上、病巣部が進行しているケースが多い厄介な病気と考えられます。

膵臓がんの診断は、自覚症状や膵臓がんを発生させる糖尿病や慢性膵炎などのリスク要因の有無を問診で確認する以外にも、採血検査、CTやMRIなどを始めとする画像検査、内視鏡検査などを行います。

特に、血液検査や超音波検査で異常が認められて膵臓がんが強く疑われる際には、造影剤を用いたCT検査やMRI検査(MRCPも含む)、あるいは超音波内視鏡検査(EUS)の実施を検討します。

これらの数々の検査によって正確に診断できない症例においては、内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)、細胞診や組織診を含む病理組織学的診断を行い、総合的に適切な判断ができるように努めます。

膵臓がんの検査方法

膵臓がんの検査方法について詳しく見てみましょう。

血液検査

採血検査を実施することにより、血液中の血清アミラーゼ、エラスターゼ1などの膵酵素が上昇していないかを評価することができます。

また、血液検査にてがんの種類ごとに比較的特異的に合成される物質として知られている腫瘍マーカーを測定することが可能であり、特に膵臓がんでは、CA19-9、SPan-1、DUPAN-2、CEAなどの指標を調査することが有用であると考えられています。

ただし、これらの検査だけで必ずしも悪性疾患の有無を確定できるわけではなく、悪性腫瘍があっても腫瘍マーカー値が増加しないこともある一方で、膵臓がんが存在しなくても何かしらかの影響で指標値が増加することも見受けられます。

それ以外にも、血液検査を実施することで膵酵素の上昇のみならず、胆管や胆道が狭窄した場合に胆道系酵素であるγ-GTP、ALPなどの肝胆道系酵素の上昇が認められることによって膵臓がんの診断補助に役立つこともあります。

腹部超音波検査

腹部超音波検査は、体の表面に超音波の出る超音波の探触子を当てて、膵臓がんの部位や形状、膵臓周囲の他の臓器の状態、あるいは膵臓周囲の血流状態などを評価するための検査です。

この検査では、検査時に患者さんが痛みを自覚することはほとんどないために身体への侵襲度も少なく、その場でリアルタイムに状態を確認することができ、膵臓がんのスクリーニング目的で実施するのに最適な検査とされています。

CT検査

CT検査は、X線を利用して全身を輪切りにした画像イメージが得られるコンピューター断層撮影です。この検査を実施することで悪性腫瘍の存在を確認でき、周囲の臓器との位置関係や周囲組織への浸潤度を評価することができます。

膵臓がんを評価する上では、腫瘍の部位や形状をより詳しく映し出すために造影剤を使用することもあり、膵臓の周囲リンパ節や他臓器への転移を確認するためにも有用な検査であると考えられています。

ヨード造影剤を静脈血管に直接注入して活用することが一般的ではありますが、造影剤は原則的にヨード(あるいは、ヨウ素)のアレルギーを有する場合には使用できないことに留意しておく必要があります。

MRI検査

MRI検査は、磁気や磁力を利用して、身体の内部をさまざまな方向から断面像に構築して、膵臓がんの存在部位や進展度を確認する、あるいは他臓器への転移の有無を評価するための検査です。

MRI検査は、CT検査とは異なって放射線による被爆の心配がなく、MR胆管膵管撮影(MRCP)を実施することによって胆管や膵管の画像を詳細に写し出して、胆管や膵管の状態を詳しく調べることができます。

MRCPは、内視鏡や造影剤を使用せずに患者さんの負担度が少なくて実行できる検査であり、膵臓がんによって近傍に位置する胆管や膵管が狭窄していないか、あるいは腫瘍の位置関係などを確認することができる点がメリットと考えられます。

ただし、MRI検査は磁気を共鳴する装置を利用しているため、心臓ペースメーカー、入れ歯、人工関節など体内に金属を有する場合には使用できないことがあります。

超音波内視鏡検査(EUS)

超音波内視鏡検査は、主に内視鏡専門医が先端部分に超音波プローブを装着した内視鏡装置を患者さんの口から十二指腸まで挿入して、病変部を確認すると同時に、腫瘍組織を針で刺して腫瘍細胞を採取する穿刺吸引生検(EUS-FNA)を実施できる検査方法です。

本検査では、内視鏡の先端についた超音波端子で胃壁や十二指腸壁を通じて膵臓や胆管などの組織を観察することが可能となり、腹部超音波やCT、MRIなどの画像検査で撮像できないごく小さな病変部をも指摘することができる場合もあります。

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)

内視鏡的逆行性胆管膵管造影は、EUSと同様に内視鏡専門医によって患者さんの口から内視鏡を挿入して、先端部を十二指腸付近まで進めて、膵管と胆管の出口部に該当する十二指腸乳頭部に細い管を通して造影剤を注入して、膵管や胆管を撮影します。

ERCPは、CT検査や超音波検査によって膵臓がんが積極的に疑われるケースに前向きに実施される傾向があり、膵臓がんによって閉塞性黄疸を呈している場合に一時的に黄疸を解除する目的にも実施される治療的手技とも呼ばれます。

また、本検査を施行して膵管内の細胞を採取する膵液細胞診検査などの病理組織検査も同時に実践することによって、正確な確定診断に結び付けることが可能となります。ただし、手技に伴って急性膵炎などの合併症を引き起こすことがあるので一定の注意が必要です。

細胞診・組織診

EUSやERCPで採取した細胞や組織が本当に悪性腫瘍かどうか、あるいは膵臓がんかどうかを含めてどのような種類の悪性疾患かについて正確な診断を確定するための検査として知られています。

超音波内視鏡検査に伴う穿刺吸引生検で得られた検体や内視鏡的逆行性胆管膵管造影によって採取された膵液組織を、病理専門医が顕微鏡で確定診断することで、がん組織が切除可能か、またどの抗がん剤を選択するなど具体的な治療方針を決定するのに有効的です。

膵臓がんの早期発見を目指すには

上で紹介したような膵臓がんの検査を活用して、どのように膵臓がんの早期発見につなげるのかを紹介します。

腹部超音波検査の活用

膵臓がんの早期発見を目指すために、最初に検査費用が約5000円と比較的簡便に実施できる腹部超音波検査(腹部エコー検査)を活用してスクリーニングを実施することが有効と考えられます。

腹部超音波検査は、腹部にプローブという端末機を当て、臓器に反射した超音波を画像にして腹部内に異常所見があるかどうかを評価できる検査方法となります。

体外から臓器の状態を観察する検査手段であるため、腸管ガスや肥満など体格の影響を受けやすく時に病変抽出が困難であるケースも想定されますが、CT検査などのように放射線被曝の心配がなく病変部のサイズ計測も容易に出来るのが利点となっています。

間接所見の発見

MR胆膵管撮影では、MRI検査時に膵臓がんが発生しやすい膵管を撮影して膵臓がんの間接的所見として知られている主膵管の拡張の有無を評価できますし、膵臓の近傍に位置している胆管や胆嚢を同時に撮影する有用な検査方法です。

MRCP検査では、検査費用が約3万円前後と腹部超音波検査より高いものの、造影剤を使用しなくても実施できる点や、膵炎を併発して内視鏡を用いたERCP検査が実施不可の際にも施行できるメリットが挙げられます。

また、膵臓がんの中には膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と呼ばれる腫瘍性の膵嚢胞から発生するものが存在し、この粘液を産生する腫瘍細胞が過形成や腺腫など良性の性質から悪性の膵臓がんに変化する場合があると指摘されています。

MRCP検査は、この膵管内乳頭粘液性腫瘍のサイズや形状などを経過観察する目的にも使用される検査です。

まとめ

膵臓がんは60歳以上の中高年の男性に多く見られ、近年では発症率が上昇している病気です。

膵臓がんは進行スピードが速く、発見時には治療が難しい場合も少なくないため、膵臓がんを早期的に発見するには定期的ながん検診を受けることが大切です。

膵臓がんを早期の段階で発見するために有用な検査には様々な種類があり、現在の健康状態を把握するためにも、年に一度は人間ドックなどを活用して異常がないことを確認すると共に、心配であれば消化器内科など専門医療機関を受診されることをおすすめします。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。


<執筆・監修>

国家公務員共済組合連合会大手前病院
救急科医長 甲斐沼孟 医師

大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院を経て、令和3年より現職。
消化器外科や心臓血管外科の経験を生かし、現在は救急医学診療を中心とする地域医療に携わり、学会発表や論文執筆などの学術活動にも積極的に取り組む。
日本外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。
「さまざまな病気や健康の悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして微力ながら貢献できれば幸いです」

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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