リンパの痛みの原因になるリンパ節腫脹とリンパ浮腫の違い

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首や脇などの「ぐりぐり」が腫れて痛いという人がいます。この「ぐりぐり」はリンパ節です。リンパ節は種々の疾患で腫脹し、痛みを伴います。

そもそもリンパ節はどのようなもので、どのような原因で腫脹し、痛みを感じるのでしょうか。また、このように生じる腫れや痛みは、リンパ浮腫とどのように異なるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

リンパ節の役割

リンパ節というのはどのような役割を担っているのでしょうか。

人の体内には水分が非常に多くあることはご存じと思います。年齢によって差はありますが、だいたい体重の60%が水分と言われています。この水分のうち、3分の2は細胞の中に存在しますが、残りの3分の1は細胞の外にあります。

細胞の外の水分は、全て血管の中にあるわけではなく、細胞の外かつ血管の外にあります。細胞の外の水分のうち、だいたい4分の1が血管の中にあり、残りの4分の3が細胞外血管外にあると言うわけです。

この細胞外血管外の液の多くは組織液と呼ばれ、細胞との間で栄養素や老廃物のやりとりをしたり、細胞と細胞の間の動きをスムーズにしたりする役割があります。

組織液はその場にとどまってしまうと栄養が循環してきませんし、老廃物もたまってしまいます。そのため、組織液を集めて血管に戻す脈管があります。これがリンパ管です。リンパ管は非常に細い脈管で、組織液を集めて静脈まで流します。

リンパ管は全身に張り巡らされていますから、感染症も入り込みやすい場所と言えます。ですので、リンパ管の途中には関所となる免疫の場が用意されています。これがリンパ節です。リンパ節ではリンパ球を主とした免疫細胞が非常に多く集まっています。リンパ液中に感染源となるものがあればいち早く察知し、すぐに排除したり、免疫の元となる抗体を産生したりします。

ここで感染症を察知したリンパ球やその他の免疫細胞は体中に広がり、感染症が広がってもすぐに対応できるようになるのです。つまり、リンパ節は全身の感染対策の最前線でもあり、感染対策の要ともなる組織なのです。

痛みを伴うことがあるリンパ節腫脹

リンパ節腫脹とは、リンパ節が直径1cmを超えて大きくなることを言います。リンパ節腫脹の原因はさまざまありますが、基本的にリンパ節の中で細胞が増えることで腫脹してきます。

細胞が増えるとリンパ節の中で圧力が上昇します。組織の中で圧力が上昇すると、それを検知して痛みが出てきます。ゆっくり細胞が増殖した場合にはだんだんと圧力が上がるため痛みを感じないことが多いのですが、急激に細胞が増殖した場合には痛みを感じることが多いです。

また、炎症を伴うと、痛みも起こりやすくなります。炎症が起こると痛覚を感じるセンサーが過敏になりますから、痛みをより感じやすくなるのです。

リンパ節腫脹の原因になる疾患

リンパ節腫脹をきたす疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。代表的なものをカテゴリーに分けて紹介しましょう。

感染症

痛みを生じるリンパ節腫脹の場合、最も多いのが感染症です。

感染症は細菌、ウイルス、真菌などさまざまな種類がありますが、いずれの感染症でもリンパ節腫脹は起こりえます。

特に細菌感染症の場合は、細菌の種類によっては増殖のスピードが早いため早期にリンパ節に細菌が入り込み、痛みを伴って腫脹してくる事が多くなります。

感染症によるリンパ節腫脹の場合、原因となる感染症によって腫脹してくるリンパ節が異なり、大まかな鑑別の手がかりになります。

例えば、首の前が腫脹する感染症としては、一般的な咽頭炎、伝染性単核球症、トキソプラズマ症などがあります。

首の後ろはHIV感染症や結核、伝染性単核球症が、耳の前は結膜炎、風疹、レプトスピラ症が、耳の後ろは伝染性単核球症や風疹、中耳炎などが当てはまります。

お気づきのように、伝染性単核球症は多くのリンパ節の腫脹を来します。伝染性単核球症はほとんどがEBウイルスというウイルスの感染によって起こり、一端潜伏した後、リンパ球に感染して増殖します。リンパ球のなかでウイルスが増殖しますから、全身のさまざまなリンパ節の中でリンパ球の中にあるウイルスが活性化し、非常に多くの場所でリンパ球が腫脹します。

免疫性疾患

リンパ節は免疫細胞が集簇している場所ですから、免疫系の異常が起こると免疫細胞の機能や数に異常を生じ、リンパ節の腫脹を来します。

例えば、いろいろな膠原病でリンパ節腫脹をきたすほか、一般的なアレルギー疾患でもリンパ節腫脹をきたすことがあります。

他にはサルコイドーシス、川崎病などの全身の炎症が引き起こされる免疫病や、IgG4関連疾患、キャッスル万病、組織球性壊死性リンパ節炎などの種々の免疫病でリンパ節腫脹が起こります。

免疫性疾患に伴うリンパ節腫脹は、免疫細胞の機能や量に異常が起こりますから、全身でさまざまなリンパ節で腫脹がおこるのが特徴です。また、リンパ節の中は細胞でいっぱいで充実しますから、固いリンパ節になる事が多くなります。

内分泌疾患

甲状腺機能亢進症や副腎不全といった内分泌の異常でもリンパ節腫脹が起こります。

甲状腺は首の前にある、ホルモンを分泌する器官です。甲状腺ホルモンは体の活力を出すためのホルモンですが、甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまいます。その結果、動悸や多汗などの症状が出現しますが、その一環として免疫細胞の活性化が起こり、リンパ節腫脹を起こすことがあります。

副腎は腹部の後ろ側にある組織で、こちらも体の活力を保ったり、ストレスに対応したりするためのホルモンが分泌されます。このホルモンはやはり免疫系にも作用するため、副腎の異常でリンパ節腫脹をきたすことがあります。

悪性腫瘍

悪性腫瘍も、リンパ節腫脹を来します。

悪性腫瘍も初期はその場で増殖腫大していくだけなのですが、だんだんと腫瘍が成長するに従って組織の中に腫瘍細胞が浸潤していきます。リンパ管にまで腫瘍が浸潤すると、リンパ管の中を腫瘍細胞が流れていき、全身に転移を起こします。

このとき、腫瘍細胞がリンパ節を通り、リンパ節にとどまった腫瘍細胞がその場で増殖を始めるとリンパ節腫脹を来します。リンパ節の中で腫瘍細胞が非常に多く細胞分裂して増殖しますから、固く、どんどんと大きくなっていくのが特徴です。

リンパ節腫脹をきたす場所は、腫瘍の場所によってある程度決まってきます。

例えば、甲状腺の腫瘍であれば頸部のリンパ節が腫脹します。陰部の腫瘍であれば、鼠径部のリンパ節が腫脹します。

特徴的なのは、腹部の腫瘍の場合、左鎖骨下のリンパ節が腫れることが多くなる点です。これはリンパ管の流れによって決まっています。

実は、腹部のリンパ管はだんだんと集まって、横隔膜のところでひとまとまりになります。このひとまとまりになったリンパ管を胸管と言います。胸管は脊椎の横を上行し、左鎖骨下の場所で静脈へと流れ込み、心臓へとリンパ液を返します。

そのため、胸管がたどり着く場所である左鎖骨下にあるリンパ節に腫瘍細胞がたどり着き、そこで増殖することでリンパ節の腫脹がおこるのです。

血液の腫瘍としては、悪性リンパ腫がリンパ節の腫脹をきたす疾患として知られています。悪性リンパ腫はリンパ球が腫瘍性に増殖する病気ですから、リンパ節で増殖し、リンパ節の腫脹をきたすのです。もちろん、全身のリンパ節で腫脹が起こりえます。

亜急性壊死性リンパ節炎

リンパ節腫脹をきたす疾患として、特殊なものである亜急性壊死性リンパ節炎を紹介します。

この病気は4歳ごろから80歳頃と非常に広い年代に見られるリンパ節腫脹をきたす病気です。発熱や皮膚の発疹も伴います。発熱は非常に長い期間にわたるのが特徴です。

リンパ節は首のリンパ節が腫れる事が多く、続いて脇の下のリンパ節です。痛みを伴うのも特徴です。

現在のところ、原因がはっきり分かっておらず、治療についてもステロイドや消炎鎮痛薬などによる対症療法が行われます。

症状は強く長引く傾向がありますが、1~3か月程度で治癒することが多い病気になります。

リンパ節腫脹とリンパ浮腫の違い 

リンパ節腫脹と同じように、リンパの流れに何らかの異常があることによって、体表上からわかる異常が出てくるものがあります。リンパ浮腫です。

リンパ節腫脹とリンパ浮腫はどのように違うのでしょうか。

リンパ浮腫とは? 

リンパ管が、何らかの理由で流れが悪くなってしまい、組織液が十分に回収されなくなった状態をリンパ浮腫と言います。 

リンパ管やリンパ節が損傷して組織液の流れが悪くなると、行き場を失ったリンパ液が四肢にたまります。これによってむくみが出てきます。これはリンパ浮腫の始まりです。

組織液が貯留すると、近くにあるリンパ管が代わりに吸収を引き受けるのですが、回収量が増えてリンパ管の中の圧が上昇し、リンパ管の逆流を防ぐ弁の機能が働かなくなるなどのリンパ管の機能不全が起こってきます。 

さらに、内側に強い圧力がかかり続けることによって、リンパ管自体が圧力に耐えようとして強く変性してしまいます。この変性は内側へとリンパ管の壁が厚くなってくることによって起こってきますので、リンパ管の内腔がどんどん狭くなってしまいます。 

するとリンパ管で送ることができる組織液の量が減少し、組織の中に溜まってくる組織液の量が多くなることによって、さらにリンパ浮腫がひどくなります。

慢性的なむくみに至ると、リンパ管に回収されにくくなった脂肪が皮下組織に沈着しやすくなります。同じようにタンパク質も回収されにくくなり、皮下組織に沈着する結果、皮下組織の繊維化をきたします。これにより、腕や足が太くなったり、皮膚が硬くなって凸凹したりするようになるのです。

リンパ浮腫のさまざまな原因

リンパ浮腫の原因には、生まれつきリンパ管 やリンパ節に問題があるために発症する「原発性リンパ浮腫」と、手術などで損傷を受けて発症する「続発性リンパ浮腫」があります。

続発性リンパ浮腫の大半は、がんを手術することによってリンパ管が損傷し、リンパ浮腫が起こってくるものです。手術だけではなく、放射線治療や抗がん剤によっても起こってくることがあります。

リンパ浮腫を起こしやすい癌としては、乳がん、子宮癌、卵巣がん、前立腺がん、大腸がんなどがあります。この中でも特に腕のリンパ浮腫のほとんどが乳がんによるもので、足のリンパ浮腫のほとんどが子宮癌や卵巣がんによるものとなっています。いずれのがんも女性に多いため、リンパ浮腫は女性に起こりやすい と言えます。

がん以外の原因としては、交通事故などで広範囲に外傷を受けた場合や、静脈血栓、血管障害などで起こってくることがあります。

リンパ節腫脹との違い

ここまで説明してきたように、リンパ節腫脹とリンパ浮腫は、でき方も、実際に出てくる症状も全く違うものです。

リンパ節腫脹は、リンパ節自体が何らかの異常によって、大きく腫れてしまう病気です。一方でリンパ浮腫は、リンパ液の流れが何らかの原因で悪くなることによってリンパ液が四肢にたまることによって起こってくる病気です。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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