レム睡眠行動障害(睡眠時随伴症)の症状と治療法
睡眠の経過中に起こる心身機能の異常を睡眠時随伴症と呼びます。その中のひとつにレム睡眠行動障害と呼ばれるものがあります。
ここではレム睡眠行動障害の症状と治療法について詳しく見ていきましょう。
レム睡眠とノンレム睡眠
検査としては、血液検査、頭部MRI検査を行い、原因疾患がないかをまず調べます。一泊入院して、終夜睡眠ポリソムノグラフィ検査によって、脳波や心電図を測りながら睡眠中の様子を動画撮影し、レム睡眠中に異常な行動が生じるかを調べます。
睡眠中には脳が休まる深い眠りのノンレム睡眠と体は休んで脳が活発になっているレム睡眠が交互に繰り返されています。
通常は、眠りについた直後はノンレム睡眠の状態となり、約90分後にレム睡眠が出現し、一晩の睡眠のなかで交互に繰り返して、朝目覚めるまでに5~6回現れます。
レム睡眠の特徴としては、急速眼球運動が現れ、身体の姿勢を保つ筋肉の緊張がほとんどなくなり、脈拍、呼吸、血圧など自律神経機能が不規則に変化します。また、感覚刺激を与えても目覚めにくいという特徴があります。
このレム睡眠期には、脳は働いているが、身体の筋肉がゆるんでいることから、身体の睡眠とも呼ばれています。逆にノンレム睡眠は、身体の筋肉の緊張が保たれ、脈拍、血圧、呼吸が安定します。また、成長ホルモン分泌や蛋白同化が行われ、免疫増強作用があります。そのため、ノンレム睡眠期は大脳の睡眠とも呼ばれています。
このレム睡眠の際に起こる行動障害のことを、レム睡眠行動障害と言います。
レム睡眠行動障害とは
レム睡眠行動障害は男性に多く、加齢とともに増加していきます。睡眠中に「大声で叫ぶ」「悲鳴を上げて飛び起きる」「腕を振り回す」「隣に寝ている人をたたく・殴る・蹴る・首を絞める」などの症状が起こる病気です。
誰かと争ったり、追いかけられているなどの悪夢をみているときに現れることが多く、夢の中で行なっている行動が現実にも現れてしまいます。睡眠ポリグラフ検査により筋肉の緊張消失の見られないレム睡眠期に見られることが特徴です。
通常、レム睡眠中は筋肉の緊張が緩んでいるので、夢の中で行動しても実際には体は動きません。しかし、レム睡眠行動障害では、何らかの原因で筋肉の緊張を緩める機能が妨げられて、夢の中での行動がそのまま寝言や行動として現れると考えられています。
原因として40%は頭部の外傷、髄膜炎、脳炎といった炎症性疾患、アルコール、睡眠不足、抗うつ薬の内服などに伴って二次的に引き起こされます。その他の基礎疾患として、脳幹部の腫瘍、パーキンソン病、オリーブ橋小脳萎縮症、レビー小体型認知症、多発硬化症などの神経変性疾患、くも膜下出血、虚血性脳血管障害、脳血管性疾患などがあります。
残りの60%は原発性で、明確な原因は不明です。機序としては、何らかの理由で錐体路という大脳皮質の運動野から脊髄を通って骨格筋に至る神経の抑制が効かなくなって起こると言われています。
パーキンソン病とレビー小体型認知症との関連
レム睡眠行動障害の原因の一つとして、αシヌクレインが関係していると言われていますが、このαシヌクレインは、パーキンソン病やレビー小体型認知症と関係がある脳内物質です。
これらの病気の初期症状としてレム睡眠行動障害が生じることがあります。そのほかにもパーキンソン病では手足の震えやぎこちない動き、自律神経症状がみられます。レビー小体型認知症では認知機能の低下が見られます。
夜驚症
夜間、深い睡眠中に突然恐怖の叫び声をあげて起き上がり、強い不安、体動、頻脈、呼吸促迫、発汗など自律神経系の興奮を示します。数分間は周囲に対する反応が極めて乏しく、失見当識と保続的な動作がみられます。
これは、睡眠の前半に多いノンレム睡眠で起こります。覚醒後夜驚体験の内容はごく断片的にしか記憶していません。小児に多い疾患であり、小児期にみられる睡眠時随伴症は、成長とともに自然に改善することが多いですが、症状が強い場合は、薬物療法が必要となることがあります。
夢中遊行症
睡眠中に寝床を出て歩き回り、時には走り出すことを夢遊病(睡眠時遊行症)といいます。夢遊病が発生する割合は7~10人に1人で、多くは3歳〜9歳ごろから始まり、通常は成長とともに少なくなっていき、思春期までには自然に治ることが多いです。
幼少期は女児に多く認められますが、大人では男性に多いとされています。また、同じ睡眠時随伴症である、睡眠時驚愕症(睡眠中に突然叫び声を上げたり泣き出したりすること)を合併することがあります。
夢遊病は、入眠して1〜3時間後のノンレム睡眠と呼ばれる睡眠状態の時によく起こります。深い睡眠状態なので、起こそうとしても覚醒させることはとても困難であり、後で症状が出ている間の出来事を覚えていないのが特徴です。
レム睡眠行動障害の治療法
まず、レム睡眠行動障害の原因がはっきりしている場合は、それを除去することが治療になります。激しい異常行動がある場合には、自ら負傷することも多いですし、一緒に寝ている家族が怪我をすることもあります。
転倒を防ぐため、立ち上がりがある場合にはベッドを低いものに交換したり、布団にするなどして転倒の予防策をとります。また、薬物療法として、ベンゾジアゼピン系の抗てんかん薬であるクロナゼパムを使用します。
クロナゼパムは多くの場合有効な薬です。しかし、副作用として日中の眠気、ふらつき、転倒があるので、高齢者では注意が必要な薬となります。その他、症状に応じて、抑肝散(ヨクカクサン)などの漢方薬や、三環系抗うつ薬やメラトニン系の睡眠薬が有効な場合があります。
いかがでしたでしょうか。高齢者になると0.3〜0.5%がなると言われているレム睡眠行動障害。ご自身、ご家族でこのような症状がある場合は一度医療機関を受診して、相談してみましょう。