坐骨神経痛とは?原因になる疾患と注意したい生活習慣

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お尻から、太ももの後ろにかけてビリビリ、ジンジンした症状が起こる坐骨神経痛。坐骨神経という神経が障害を受けることで生じ、痛みは比較的強く、痛み止めもあまり効かないことが多いのでやっかいです。ここではそんな坐骨神経痛の主な原因について紹介します。

坐骨神経痛とは

坐骨神経というのは、お尻から下肢に向けて走行する神経です。根本付近では直径が1cm程と、人体の中でも最も太い神経です。また、坐骨神経は膝の後ろ辺りから分岐をしていきますが、その中でも最も長い神経はかかとの近くを通って足裏から足先まで至ります。この神経は脊髄からでて足先まで、1m近くもある神経となり、こちらも人体の中で最も長い神経となります。

坐骨神経の成り立ちと走行についてもう少し詳しくみていきましょう。

坐骨神経は、脊髄から出てきます。とはいえ、脊髄から1cmほどの太さの神経がドンと出てくるわけではありません。脊髄からは、各脊椎に合わせた高さで左右1対ずつ神経が出てきます。それぞれ出てくる脊椎に合わせて、例えば第3腰椎の脇から出てくる神経は第3腰椎神経などと呼ばれています。

坐骨神経を形成する神経は、だいたい第4腰椎から第3仙椎までのところから出てくる神経から構成されます。これらの場所から出てきた神経は、骨盤内で仙骨神経叢という神経の塊をまず形成します。その塊から、何本もの神経が出てきて骨盤内や下肢のさまざまな場所に至ります。

坐骨神経もその神経のうちの一つです。骨盤の後ろ側の仙骨神経叢から出てきた坐骨神経は、骨盤の後ろ側の穴から出てきます。お尻の部分に出てきた神経は、お尻の筋肉と筋肉の間を通って下肢へと向かいます。太ももの部分では大きな筋肉と筋肉の間、深いところを走行します。

膝の後ろ辺りまで至ると、筋肉は腱になり、薄くなります。その辺りで坐骨神経は分岐を始めます。何本もの神経に分かれながら、それぞれの場所へと神経は向かっていきます。

坐骨神経はこのように、足の各所に至り、役割を果たします。具体的には、太ももの後ろ側と、膝から下全体の皮膚の感覚を頭まで伝えるほか、同じく太ももの後ろ側や膝下の筋肉の動きの指示を伝える役割を担っています。

坐骨神経痛のメカニズム

このように、坐骨神経は骨盤のなかから足先まで走行していますが、その途中で何らかの原因で傷害されると、痛みを感じます。

神経を傷害されたときの痛みのことを神経障害性疼痛と言います。痛みの感じ方としては、「ビリビリ、ジンジン」とした痛みとして表現されます。正座をしたときに足がだんだん痺れてくるのを感じる方も多いと思いますが、あの痛みこそが神経障害性疼痛になります。正座によって坐骨神経が圧迫されることで神経が痛み、症状を感じているのです。

正座によって神経が傷害されて痛みを感じているのであれば、体勢を変えることで神経の圧迫を解除させて痛みを和らげることができます。しかし、何らかの理由で神経が圧迫され、しかもそれが体勢を変えてもなかなか圧迫が解除されないような状態であれば、痛みが長期間にわたって続くことになります。これが坐骨神経痛です。

また、神経障害性疼痛の特徴としては、神経が障害を受けているときに痛みを感じることもありますが、それに加えて神経が修復されるときにも痛みを感じることがあります。

さまざまな病気によって神経障害が起こります。中でも最も多いのは糖尿病です。糖尿病ではちいさな血管が傷害されて、さまざまな臓器に影響が出ます。全身のちいさな血管のなかの代表的なものが神経の末端を栄養する血管ですので、糖尿病が進行すると神経が傷害されてしまいます。このとき、神経が長ければ長いほど、血管が障害を受けやすいので、最初に症状が出てくるのが坐骨神経になります。

ただし、糖尿病をはじめとしてさまざまな全身疾患によっておこってくる神経障害の場合、感覚障害が最初に出てきます。つまり、痛みを感じるのではなく、末端の感覚が分からなくなるという症状から出てくるのです。そのため、坐骨神経痛の原因とはなりません。基本的には坐骨神経痛は、全身の病気による神経障害ではなく、圧迫による症状だと思ってください。

坐骨神経痛の原因となる疾患

坐骨神経痛が起こってくる疾患としてはどのようなものがあるのでしょうか。具体的に挙げていきましょう。

腰部脊柱管狭窄

脊柱管というのは、脊髄が通っている場所のことを言います。人体には背骨があり、脊椎と呼ばれています。椎骨という骨が縦に連なることで体全体を支える屋台骨となっています。

椎骨はどっしりと体を支える椎体という構造に加えて、椎弓というUの字の構造物が後方に付着しています。このUの字の中は全方向を靱帯ががっちり固めていて、上下の椎弓と椎弓が強い力が加わってもずれないようにし、内腔が変形しないように支えているのです。この椎弓で支えられている内側を脊柱管といい、脳から骨盤まで縦に内腔が確保されています。この中に脊髄が納められているのです。

しかし、何らかの原因でこの脊柱管が圧迫されてしまうことがあります。これを脊柱管狭窄症と言います。

脊柱管狭窄症が起こると、脊髄自体が圧迫されてしまったり、脊髄から出てきた神経が圧迫されてしまったりします。これによって神経が損傷を受け、神経障害性疼痛が起こってきます。

特に腰部の脊柱管が狭窄すると、坐骨神経の根元の神経が圧迫されてしまい、坐骨神経痛が起こってくることがあります。症状は両側のこともありますが、片側であることが多いです。

腰部脊柱管狭窄症は、脊柱管が狭くなること全般を示す言葉になりますので、脊柱管狭窄を起こす原因によって、それぞれ病名が異なります。腰椎椎間板ヘルニア、腰椎すべり症、変形性腰椎症などが原因となります。また、稀に脊柱管の中や周囲に腫瘍ができることで起こってくることもあります。

では、脊柱管狭窄症を引き起こす各種疾患についても説明しましょう。

腰椎椎間板ヘルニア

坐骨神経痛をきたす疾患の中で、脊柱管周囲に原因があるものとしては最も多いものが腰椎椎間板ヘルニアです。

椎間板というのは、椎体と椎体の間にあるクッションの様な役割をする構造物です。クッションと言っても、柔らかすぎては背骨の大黒柱としての役割が不十分となってしまいますから、しっかりとした堅さも必要になります。

そのため、椎間板は二つの構造物を持っています。1つ目が髄核です。髄核というのは椎間板の真ん中にある構造物で、弾力のあるゴムのような構造物です。これがクッション材として働きます。

そして、2つ目の構造物が線維輪です。線維輪は、髄核の周りにグルグルと取り囲むように巻いている線維性の構造物です。線維でできていますから、非常に頑強で、圧迫されても容易には変形しません。しっかりと脊椎と脊椎の間で力を支える役割を担っています。

しかし、強い力が椎間板にかかり続けると、線維輪が変形してしまいます。それに伴って、内部の髄核が押しつぶされて線維輪を押しのけて外に出てきてしまうのです。これが椎間板ヘルニアです。構造上、特に後ろへ脱出しやすく、丁度脊柱管の方へと脱出してしまい、脊柱管を狭くしてしまうのです。

椎間板ヘルニアは頸椎並びに腰椎で起こりやすくなっています。頸椎は高齢者に多いのですが、腰椎は20代から40代に多くみられます。

症状は、髄核がグニュっと脱出した際におこりますから、突然におこります。神経の圧迫される具合によってさまざまな具合の神経症状をきたします。ほとんどの場合、腰痛が主となり、加えて末梢神経の症状が出ることがあります。

そして、神経圧迫の中でも坐骨神経になる神経が圧迫されることで、坐骨神経痛がおこってくるのです。

基本的には安静にして症状の改善を待ちますが、場合によっては手術によってヘルニアを摘出する必要が出てくることもあります。

腰椎すべり症

腰椎すべり症というのは、椎体と椎体の位置関係がずれてしまうことを言います。小児から思春期におこりやすく、スポーツを激しく行っている人におこりやすいです。

軽症であれば腰痛のみの症状となりますが、重度になる場合や、滑りの角度によっては脊柱管の圧迫症状や、脊髄から出てきた神経を圧迫することによる症状が出てくることで、坐骨神経痛を起こすことがあります。

基本的には安静にして、コルセットなどを使用して軽快するのを待ちつつ、場合によっては脊椎固定術などの手術を必要とする場合があります。また、手術に至らないまでも疼痛が強い場合には神経ブロックなどが行われることもあります。

変形性腰椎症

変形性の疾患というのは、長年にわたって骨や関節に力が加わり続けた結果、組織が摩耗してしまい痛みなどの症状が出現することを言います。例として、変形性膝関節症や変形性股関節症等がよくみられます。

変形性腰椎症はその名の通り、長年の腰椎への負担からだんだんと摩耗してくることで変形がおこってくる症候群です。変形によって腰痛が起こるほか、変形の仕方によっては神経の圧迫症状が出現し、神経痛に悩まされることになります。

こちらも基本的にはコルセットなどを使用して保存療法を行うのが基本です。こちらも神経ブロックを併用する場合があります。

梨状筋症候群

ここまでは脊柱管狭窄症や、脊柱管周囲で神経が圧迫されることでおこってくる坐骨神経痛を紹介してきました。梨状筋症候群はそれとは違い、骨盤から神経が出てきたところで圧迫されるものをいいます。

梨状筋というのは、仙骨と大腿骨を繋いでいる筋肉です。大腿骨が骨盤から離れないようにしっかりと支えています。

坐骨神経は、この梨状筋に接するように走行し、梨状筋の下から骨盤外に出てきます。そのため、梨状筋が張ってくると神経が圧迫されてしまうことがあるのです。

もちろん、急に筋肉が固くなるということはありませんし、普通に生活をしていれば筋肉は収縮したり弛緩したりしますから、神経を圧迫し続けると言うことはありません。しかし、ゆがんだ姿勢を長い期間続けていると、だんだんと骨盤と大腿骨の位置関係がずれてきて、梨状筋が引っ張られてしまいます。それに伴って、坐骨神経が圧迫されてしまうのです。

こちらも基本的には安静による経過観察が行われます。また、神経ブロックにより痛みを緩和させることもあります。

坐骨神経痛の原因となる生活習慣

ここまで説明してきたとおり、坐骨神経痛の原因は、腰椎の異常か、もしくは梨状筋付近の異常によって起こってくることになります。

重いものを持ち上げたり、腰を強くひねったりという動作を急に起こしたり、もしくは慢性に行うことで脊椎の構造の変形が起こり、坐骨神経痛が起こってくる原因となる場合があります。

坐骨神経痛を起こしにくくするためには、正しい姿勢を保つことが重要です。足を組んで座ったり、いわゆるスマホ首になるような頭を前屈した姿勢を長時間保ったりすると、ゆがみが脊椎に蓄積し、だんだんと変形してきます。

また、姿勢を保つ為には筋力も必要です。しっかりと正しい姿勢を保持して活動することで筋力も保たれますので、日頃から正しい姿勢を心がけましょう。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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