アトピー咳嗽の症状の特徴は?咳喘息や花粉症との関係
咳が長引いたときに、「アトピーによる咳ではないか」と言われた方も多いと思います。似たような疾患として咳喘息もあり、違いがよくわからないという方もいらっしゃるでしょう。ここではアトピー咳嗽を取り上げ、症状の特徴、咳喘息や花粉症との関係について解説します。
アトピー咳嗽とは
アトピー咳嗽(がいそう)というのは、アトピー素因がある人におこってくる咳症状の事を言います。アトピー素因というのはアレルギーが起こりやすい体質と思っていただければいいでしょう。
アレルギーにはいくつか種類がありますが、免疫が異常に反応してしまう状態を言います。もともと人の体は病原菌などさまざまな異物に対して攻撃をして排除をするために免疫機能を有しています。
しかし、何らかの理由で普通では免疫反応を起こさないような異物に対しても免疫反応が起こってしまい、それに伴ってさまざまな症状が起こってしまう事をアレルギーと言います。アレルギーのなかでも、特定の物質が体内に侵入するとヒスタミンという物質が過剰に分泌されて鼻炎や皮膚炎などを起こしてしまうアレルギーをI型アレルギーといいます。
このI型アレルギーを起こしやすい状態が遺伝しやすい場合があり、このような遺伝を受け継いでいる体質の事をアトピー素因といます。所謂アレルギー体質と言われる状態です。
アトピー素因がある場合、さまざまな症状が起こってきます。鼻炎やアレルギー性皮膚炎などは代表的なものです。皮膚の過敏性が亢進していますから、いつもかゆみを感じて掻いている人も多くいます。
このようなアトピー素因があると、呼吸をして大気から吸い込んだものに過剰に反応してしまい、咳が出てしまうこともあります。これがアトピー咳嗽と呼ばれるものです。
つまりアトピー咳嗽というのは、
- アトピー素因がある人に
- 何らかの物質が気道から入り込むことでおこる
- 咳症状
の事を指します。
アトピー咳嗽の症状
アトピー咳嗽ではどのような症状が出るのでしょうか。
咳嗽というわけですから、咳が出てきますが、単に風邪を引いたときの咳とは特徴が異なります。
まず、ほとんどの場合は咳以外の症状が出ません。例えば風邪であれば熱が出たり、痰がでたりします。喘息であれば、ゼーゼーといった呼吸苦症状が合併します。しかし、アトピー咳嗽の場合にはそのような症状はありません。鼻水が出る場合はありますが、これはアトピーの症状のなかに鼻炎がありますから、咳と鼻水が同時に出る場合はアトピー咳嗽か風邪かは判断がやや困難となります。
咳の出方にも特徴があり、咳に伴ってのどや胸にかゆみやチリチリとした違和感が伴います。気管をツンツンと刺激されているような、不快な症状によって咳が引き起こされているような症状です。これは体内に侵入した物質と免疫が反応していることによっておこっている症状と考えられます。
咳が出る時間帯にも特徴があります。特に就寝時から起床時にかけての夜の時間帯に症状が起こりやすくなります。
咳を誘発する因子もあります。エアコンの風やタバコの煙などは、吸い込むことで咳を起こしやすくなります。また、運動をしたり、会話をしたりといった呼吸を多くするような状態でも咳が起こりやすくなってきます。
アトピー咳嗽と咳喘息
アトピー性皮膚炎と症状が似ている病気に咳喘息があります。どちらも咳が長く続く病気で、気道の違和感があって咳が止まらなくなると言う症状もよく似ています。では、アトピー性皮膚炎と咳喘息にはどのような違いがあるのでしょうか。
咳喘息とは
咳喘息も、アトピー性咳嗽のようにアレルギーが原因となって咳が止まらなくなる病気です。
そもそも喘息というのは気道の病気です。気管や気管支の表面が過敏となってしまい、さまざまな物質による刺激を受けたときに、通常ではおこらないような過敏な反応が起こってしまうのが病気の主体となります。
例えば、花粉やタバコの煙などの異物が入ってきたときや、冷たい空気を吸い込んだときに、通常であればそこまで気道の粘膜は反応をしません。しかし、喘息を起こしている気道ではそれらの刺激に対して過敏に反応してしまうため、咳を過剰に引き起こして異物を排出しようとしたりするほか、気管や気管支の内側にある粘膜が分厚くなって防御をしようとします。その結果、気道が狭くなって息苦しさを感じてしまうのです。
咳喘息は喘息のように気道が狭くなってしまうほどの反応は起こらなくても、咳が出てしまう病気と考えられます。そのため、すこしの異物が気道に入るだけでも咳が止まらなくなってしまうのです。
アトピー咳嗽と咳喘息の違い
ここまで説明してきたように、アトピー咳嗽は全身のアトピー素因がある人が、気道に異物が触れたときにアレルギー反応を起こすことで咳を起こす疾患です。一方で咳喘息は気道自体に過敏性があり、全身症状はありません。
また、年齢にも特徴があり、ほとんどの場合アトピー咳嗽は小児期に発症します。一方で、咳喘息は成人するころ以降に発症してきます。
しかし実際には、症状だけから鑑別をするのはなかなか難しい事があります。アトピー素因があるのに他の症状が出ずに咳だけが出る場合や、アトピーがある人が喘息を発症する場合もあるからです。
鑑別のためには治療薬を使用してみて症状が改善するかを診る方法がとられます。特に有用なのが気管支拡張薬です。気管支拡張薬は喘息の治療薬としてよく使われるもので、気管支粘膜の腫脹を抑える事で喘息の症状を改善させます。
咳喘息の場合も気管支粘膜の腫脹が抑えられますから、咳は出にくくなります。一方でアトピー咳嗽の場合は気管粘膜には問題がなく、全身のアレルギー症状の一部が気道で出ているだけですから、気管支拡張薬は効果を発揮しません。
ですので、気管支拡張薬を使用しても症状が改善しなければアトピー咳嗽であると考え、治療を開始するのです。
花粉症とアトピー咳嗽の関係
花粉症の人の中には、くしゃみだけではなく、咳が長引くような人もいます。このような場合、アトピー咳嗽である可能性があります。
アトピー咳嗽の人は、様々なアレルギー疾患と併発することがあります。アレルゲンが起動の中枢に付着すると、通常では咳が出ないほどの少ない量のアレルゲンでも、過敏に気道が反応し、喉がイガイガしたり、アレルゲンを外に排出しようとして咳が増えたりしてきます。
花粉症はもともと花粉を追い出すために体が過剰に反応して出現する一連の症状ですから、アトピー咳嗽は花粉症の症状の一つとも言えます。ですので、花粉症の時にはアトピー咳嗽を併発することが多いのです。
アトピー咳嗽の診断
アトピー咳嗽はどのようにして診断されるのでしょうか。
アトピー咳嗽の診断基準
花粉症の人に咳が出たら、全てアトピー咳嗽となるわけではありません。診断基準には次のような4つの項目があり、全て満たす場合にアトピー咳嗽となります。
1.喘鳴や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が3週間以上持続する
2.気管支拡張薬が無効である
3.「アトピー素因を示唆する所見」または「誘発喀痰中好酸球増加」の1つを認める
4.ヒスタミンH1受容体拮抗薬、または・およびステロイド薬にて咳嗽発作が消失
1については、長引く咳を示しています。咳に加えて、喘鳴や呼吸困難が存在すると、喘息によって起こっている症状と診断されます。
2も同じように、気管支拡張薬が効果的であると、喘息と診断されます。
3については、アレルギー性のものであるということを確認していると思えばいいでしょう。
4は、アトピー咳嗽の治療薬であるヒスタミンH1受容体拮抗薬や、ステロイドが効果的であることを確認することによって、診断がつけられます。
検査方法
アトピー咳嗽では、どのような検査をするのでしょうか。
まず行われるのが血液検査です。血液検査では、一般的な採血に加えて、アレルギーを示す白血球の中でも好酸球の増加や、IgEという抗体の値を調べます。IgEについては、総量も調べますし、特異的IgE抗体といって、特定の抗原に対して作られている抗体があるかを調べます。
呼吸機能検査では、検査に異常がないことを確認します。似たような疾患である喘息であれば、閉塞性呼吸障害として、息を吐くスピードが低下していることが認められますが、アトピー咳嗽ではそのような所見は認められません。
他には皮膚テストなどが行われます。アレルゲンがある程度推定される状態の時に、アレルゲンを皮膚に付着させることによって、アレルギー反応が起こるかどうかを確認します。
アトピー咳嗽の治療法
アトピー咳嗽の治療としては、おもに全身の免疫を抑える薬が使用されます。
よく使用されるのが、抗ヒスタミン薬と言ってヒスタミンの分泌を抑える薬です。アレルギーの薬としてよく使用されます。また、免疫反応全体を抑える薬として内服のステロイド薬を使用する場合もあります。ステロイドは効果が強いのですが、副作用も多くあるため、なるべく少量から開始するのが普通です。
また、吸入のステロイド薬も使用されます。吸入することで、実際にアレルギー反応が起こっている気道粘膜に薬を届かせ、直接免疫反応を抑えます。副作用も少ないため非常によく使用されます。
治療を継続すると、暫くして症状は治まってきます。症状が治まってくるに従って、徐々に治療を終了していくことで完全に治療を終了できる場合も多くあります。
しかし、もともと体質的にアレルギーを起こしやすい状態には変わりませんから、体調不良などをきっかけとして、再度発症することも稀ではありません。約50%のひとが再発するとも言われており、発症した際は再び治療を行います。