腹痛に波があるのはなぜ?蠕動運動の影響と過敏性腸症候群

お悩み

腹痛が生じたときに、痛みが強くなったり、弱くなったりすることがあります。痛みが一定ではなく、波のある腹痛を経験された方もいらっしゃることでしょう。ここでは波のある腹痛に関連し、腹痛の2つのタイプ、蠕動運動の影響、過敏性腸症候群について解説します。

腹痛の2つのタイプ

痛みの分類法には、部位による分類、あるいは原因による分類などの観点から様々な分類が知られています。

腹痛の部位による分類では、内臓痛と体性痛(体表の痛み)に大別されています。

内臓痛

腹痛とは、「お腹が痛い」という症状を総称したものであり、痛みの部位、痛みの強さ、鈍い痛み(鈍痛)、さしこみ痛(疝痛)、発症のしかた、併発している症状などによって原因を特定します。

痛みの中でも内臓痛は、内臓が感じる痛みであり、内臓痛は体性痛と異なる性質を有しています。消化管の収縮、伸展、痙攣、拡張などによって起こる痛みであることが知られていて、内臓神経(自律神経)を介して感じる腹痛です。

肝臓・腎臓などの実質部は痛みを感じませんが、腹膜の過伸展により痛みを生じますし、平滑筋の痙攣性収縮でも痛みを感じます。

痛みの部位が明確でなく、周期的にお腹全体が何となく痛いという鈍痛で、吐き気や悪心、冷や汗といった症状をともなうことがあり、例えば下痢でおこる痛みが内臓痛になります。

内臓痛の主な原因は管腔臓器の内圧の上昇により起こる痛みであり、最終的には、管腔の閉塞、牽引で痛み症状が起こります。

体性痛

体性痛は鋭い痛みであり、大脳の体性感覚野へ投射され、局在がはっきりしている一方で、内臓痛は鈍い痛みであり、投射部位や局在は明確ではありません。

体性痛は、体表への刺激により惹起される痛みであり、体性痛を起こす刺激には、熱刺激・機械刺激・化学刺激などが挙げられます。

腹痛の中でも体性痛の場合には、内臓をとりまく腹膜や腸間膜(腸と腸との間にある膜)、横隔膜などに分布している知覚神経が刺激されて起こります。

一般に刺すような鋭い痛み(疝痛)が持続的に続き、内臓痛よりも痛みの部位がはっきりとしています。

例えば虫垂炎の場合、最初は胃の辺りが痛くなり、徐々に気分が悪くなり微熱が出て虫垂周辺が痛くなりますが、最後には差し込むように痛くなります。

最初は、腸の動きが止まるので内圧が上がってぜん動運動のバランスが崩れ、内臓痛が起こっていますが、虫垂炎が腹膜炎に及んでくると体性痛が起こり、疝痛症状を感じることになります。

波のある腹痛は蠕動運動の影響?

蠕動運動とは、胃周辺の筋肉の収縮によって生じたくびれが波のように徐々に伝わっていく運動のことです。

胃では、食物に胃酸・ペプシンを混ぜて攪拌し、粥状にして十二指腸へ送る働きをしていて、食事を摂取してから胃が空腹の状態になるまでは約4時間程度かかりますが、加齢などによって胃腸が弱ってくると蠕動運動が低下し、消化にも時間がかかります。

その結果、波のある腹痛や胃もたれ、胸焼けなどを感じるようになります。

例えば、蠕動運動が亢進する急性腸炎による腹痛は、腸の動きにそった腹痛で、痛みが強弱のある波のように襲ってくるのが特徴的です。

検査で異常が見つからない過敏性腸症候群(IBS)

過敏性腸症候群は、小腸や大腸に器質的な異常所見が指摘されないのにもかかわらず下痢や便秘などの便通異常を伴う腹部不快感が慢性的に長期間にわたって繰り返される病気を指しています。

腸は「第二の脳」とも呼ばれるほど独自の神経ネットワークを多数持っており、脳からの指令が無くても活動することが出来ると言われています。

「腸脳相関」とは、生物にとって重要な器官である脳と腸がお互いに影響を及ぼし合うことを意味し、ストレスを感じるとおなかが痛くなって便意をもよおすことも腸脳相関のひとつであると考えられています。

過敏性腸症候群は、はっきりとした原因が分かっておらず予防が難しい疾患ですが、細菌やウイルスによる感染性腸炎の回復後に過敏性腸症候群になりやすいことが知られています。

最近の研究では、何らかのストレスが加わると、ストレスホルモンが脳下垂体から放出されて、その刺激で腸の動きが悪化して、過敏性腸症候群の典型症状が認められると想定されています。

過敏性腸症候群の症状の特徴

ストレスが発症に関連している過敏性腸症候群は、腹痛や腹部全体の不快感だけでなく下痢や便秘症状を伴う疾患であり、男性では腹痛やお腹の不快感をともなう下痢型、女性では便秘型として出現する傾向があります。

命に直結する致命的な病気ではありませんが、電車の中などトイレのないところでは非常に困るなど生活の質を著しく悪化させます。

過敏性腸症候群の症状である排便の異常は、人によって様々で、絶えず下痢が続く場合や便秘と下痢を数日ごとに繰り返す場合などあります。

また、ストレスがかかる場面で急に腹痛を伴い下痢が止まらないということも多く、人前に出るといつも症状がでてしまうなどと日常生活に支障をきたすようなこともありえます。

過敏性腸症候群では、腸が刺激に対して「知覚過敏」になり、ほんの少しの痛みやストレスから、脳のストレス反応を惹起して、症状が悪循環になるという負のスパイラルに陥ってしまうこともあります。

過敏性腸症候群でよく見られる症状は、長期間続く下痢・便秘、排便時の痛み、腹部の張りおなら、吐き気、頭痛、全身の疲労などが挙げられます。

痛みが発生している部位や排便のパターンは、時間が経過してもあまり変化しない傾向にありますが、症状は時間の経過と共に重くなったり、軽くなったりとその時々で変わってきます。

過敏性腸症候群になりやすい人

過敏性腸症候群は、人口の約15%程度に認められるとされており、そのなかでも特に女性に引き起こされやすい疾患であると認識されていて、年齢を重ねるごとに罹患頻度は減少していくことが判明しています。

腹痛や腹部の不快感、下痢や便秘などをくり返す病気が過敏性腸症候群ですが、これはストレスを受けやすい20〜40歳代に特に多くみられて、過労や睡眠不足、不規則な食生活や不規則な排便などが誘因となることが知られています。

ストレスや緊張によって自律神経が乱れると、腸管にけいれんが起きて排便のリズムが崩れることによって、下痢などの便通症状がもたらされることにも繋がります。

日々の生活のなかで緊張を感じて、不安になることがあると、腸全体の働きが影響を受けて、下痢などの症状が出現することがありますので、多大なストレスや過度の緊張などに伴って自律神経のバランスが崩れている人は過敏性腸症候群を発症しやすいと考えられます。

まとめ

これまで、腹痛に波があるのはなぜか、蠕動運動の影響と過敏性腸症候群などを中心に解説してきました。

過敏性腸症候群の発症原因はまだ明確となっておりませんが、心理的ストレスや遺伝が過敏性腸症候群の発症に深く関わっていると言われています。

ストレスや不安に感じる期間が長期間続く事で、脳内にある副交感神経系が活性化状態となり、排便に関わる腸管の蠕動運動に異常が生じます。

また、過敏性腸症候群を発症している状態では腸管の表面が過敏状態となっている事が多く、少しの刺激でも腹痛に感じてしまいます。

過敏性腸症候群の症状は下痢や便秘など比較的軽視される事が多い症状が頻繁にありますが、これらの症状を治療せずに放置していると合併症を招くこともあるので早期の治療が推奨されます。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

プロフィール

関連記事