多汗症の症状レベルの違いとさまざまな治療法
多汗症で困っていらっしゃる方は大勢いらっしゃいます。多汗症の症状にはレベルがあり、どのような状態かによって治療の適応が異なります。ここでは多汗症に対するさまざまな治療法を紹介します。
多汗症の症状レベルの違い
多汗症にはどのようなレベルがあるのでしょうか。
まず汗が多い状態が多汗症かどうかが問題となります。大まかに言うと、暑かったり緊張したりして汗が出るのはただの汗ですが、そのような条件がないのに汗が多く出てきたり、汗がしたたり落ちるほどに出てくる状態は多汗症と言えるでしょう。
- 原因不明の大量の発汗がある
- 緊張すると大量の汗が出る
- 汗の量がしたたり落ちるほどの量である
- 常に手のひらや足の裏、脇が湿っている
- 脇の汗染みが常に目立つ
- 汗が原因で1日に何回も着替える必要がある
- 日中には大量の汗が出るのに寝ている間はほとんど汗が出ない
などの状態であれば、多汗症と診断される可能性があります。
そして多汗症と診断される場合、汗のかき具合によってレベル分けがなされます。
レベル1
レベル1の多汗症では、皮膚が軽く湿っていたり、触れると汗ばんでいることが分かるが水滴はできていない様な状態になっています。
外見の特徴としては汗によるつややテカリが認められる事が多いです。また、他の人よりも汗の量が多いことに対してコンプレックスを感じ、自信をなくしてしまうなどの心理的な影響が及ぶことがあります。
レベル2
レベル2の多汗症では、レベル1の多汗症よりも汗の量が増えます。具体的には汗が水滴になっているのが見えます。しかし次に説明するレベル3とは違い、皮膚が汗で濡れているもののしたたり落ちるほどではありません。
このレベルになると、相手に不快感を与えないか気になり、人とのコミュニケーションに影響が及ぶことも稀ではありません。また、汗が多い事によって書類をぬらしてしまうなど、社会的にも大きな影響が出始めます。
レベル3
レベル3の多汗症では汗がしたたり落ちます。普通なら汗をかかないような状態でも汗がしたたり落ちますから、人の眼が気になってしまいます。早期に病院を受診して治療を行うことがすすめられます。
多汗症のさまざまな治療法
多汗症には、次に紹介するようなさまざまな治療法があります。
原因の除去
まずは多汗症と診断された場合、その原因が何なのかを調べます。例えば何らかの薬を使用している場合や基礎疾患がある場合には、その除去が行われます。
薬剤によるものと診断し得た場合には薬剤を中止します。悪性腫瘍によるものであれば悪性腫瘍の治療が優先されます。甲状腺機能亢進症によるものであれば、専用の治療を行います。このように、何らかの病気や外的要因によって多汗症になっているものを続発性多汗症といい、このような場合には原因の除去が最優先です。
一方で、続発性多汗症以外の場合を原発性多汗症と言います。診断基準としては、発症が25歳以下である、左右対称に症状が見られる、睡眠中は発汗が止まっている、週1回以上の多汗のエピソードがある、家族歴が見られる、それらにより日常生活に影響が出ている、といった条件のうち2つ以上を満たす場合に診断されます。
原発性多汗症の場合、その部位によって治療方法がそれぞれ変わってきます。どのような治療があるのでしょうか。
塗り薬
塗り薬は最初に使用される治療方法です。塩化アルミニウムという物質を塗ることで対処します。塩化アルミニウムを塗ると、皮膚表面にある汗の出口が塞がれるため、汗の量が減ります。副作用としては塗布部位の皮膚の炎症やかゆみが挙げられます。
この治療法はどのような場所でも適応になりますが、特に手のひらや足の裏に対しては塗った後に密封をする事で効果を高める治療法が行われます。その他の場所に対しては単純に外用するのみの治療となります。
他の塗り薬としては、抗コリン薬の外用薬があります。コリンというのは、アセチルコリンのことです。脳から汗が出る指令が出ると、交感神経がその情報を伝達し、交感神経から皮膚にある汗腺にアセチルコリンという物質が放出されることでその刺激を受け取った汗腺から汗が分泌されます。抗コリン薬はアセチルコリンの働きをブロックする薬ですからこの伝達が阻害され、汗が出なくなります。
手掌多汗症に対してはローションタイプの外用薬があります。副作用としては塗布部位の皮膚の炎症や湿疹、口の渇きなどがあります。
ボツリヌス毒素局注療法
多汗症の部位に注射する薬です。ボツリヌス菌という菌が産生する毒素を利用する治療法です。ボツリヌス毒素は身体の神経伝達をブロックする働きがあります。汗が多く出ている部位に注射すると、アセチルコリンが神経から放出されないようになりますから、汗の分泌が止まるというわけです。
この治療は種々の部位での多汗症の治療第2選択となっています。ただし、保険適応となるのは腋窩のみで、手のひらや足の裏には保険適応となっていません。理由としては施術の際の痛みが強いこと、あるいは必要な分量がまだ定まっていないことが挙げられます。
脇の場合には使用量など十分な情報が蓄積されています。1回注射すると4~9か月効果が持続します。
内服治療
外用薬として使用していた抗コリン作用を、内服薬によって効果を得ようとする治療法です。ただし全身に投与されますから、外用に比べて副作用が多くなってしまうのが欠点です。副作用としては口の渇きや便秘、目のかすみなどがあります。
漢方薬も多汗症に対して使用されることがあります。多汗症は漢方の考え方では、生体のエネルギーである気の動きが不安定になり、上の方につき上がる気逆の状態にあると考えられます。このような場合に使用されるのが防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)や桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)などになります。
イオントフォレーシス療法
手や足の多汗症の時に使われる治療法です。手や足を水中や濡れた布の上に置き、電気を通すことで治療を行います。水中では水素イオンが発生します。水素イオンは汗の出口を小さくしてくれますので、それによって汗の量が減少するようになります。
施術時間は1日15分程度です。効果の持続時間は数日から数週間となりますから、頻回の通院が必要になります。
しかし、身体への負担が小さいことから、手や足の多汗症に対しては塗り薬と同じく第一選択となる治療法になります。
手術療法
上記の治療を行っても発汗が収まらない場合には、手術療法が行われます。
特に脇汗の場合には、汗腺を手術で取り去る手術が行われます。脇の下の皮膚を切除し、なくなった皮膚の部分には他の部分から皮膚を移植することで覆う治療が一般に行われます。
手掌多汗症に対しては、内視鏡的胸部神経遮断術(ETS)が行われます。これにより交感神経の働きがブロックされ、手掌からの発汗がなくなります。ただし、他の部分の交感神経が活性化されることで手のひら以外からの多汗が起こる事があり、適応は慎重に検討されます。