「健康に良い」と注目される貧乏ゆすり(ジグリング)の効果とは?

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貧乏ゆすりには「行儀が悪い」というイメージがあるかもしれません。しかし、健康面に目を向けると、足の筋肉を小刻みに動かして、関節に負担をかけずに運動できる貧乏ゆすりには、いくつものメリットがあります。

医療現場で貧乏ゆすりは「ジグリング」と呼ばれ、足元からの健康法として注目されています。ここでは貧乏ゆすりに期待できるさまざまな効果を紹介します。

「健康に良い」と注目される貧乏ゆすり

女性の両足

座っている時間が長く、あまり活動していない人は筋力が衰えやすく、また、足を動かさない時間が長くなると静脈のなかに血栓ができやすくなります。貧乏ゆすりには、こうした健康上のリスクを低下させる働きが期待されています。詳しく見てみましょう。

座り過ぎは健康に悪い

長時間のデスクワークなどをはじめとして、現代人は、1日の大半を座って過ごしています。長時間座っていると、筋肉の代謝や血行が低下することで健康に害を及ぼし、長く座っている人ほど、肥満、糖尿病、がん、脳血管疾患、認知症などが増加し、寿命が縮まる可能性があります。

1日8時間以上座っている人は、3時間未満の人と比べて、死亡リスクが1.2倍になるという研究結果もありますし、1日12時間以上座っている人は、6時間未満の人と比べて、メンタルヘルスが悪い人が3倍も多いこともわかっています。

これらの悪影響は、週末に運動する程度では完全に打ち消すことはできません。座っている時間を減らすことが理想ですが、最近の研究では、運動を毎日1時間すれば、長時間座っている人でも健康が保てるといわれています。

貧乏ゆすり(ジグリング)とは

「貧乏ゆすり」はいすに座っているときなど、体の一部分、特に膝やかかとなどを小刻みに揺らし続けている行為を指していて、医療現場ではジグリングと呼ばれ、今注目の足元からの健康法です。

ジグリングとは、股関節や膝関節を自分で小刻みに動かすエクササイズのことであり、見ている方は少し不快になるかもしれませんが、身体に良い作用を引き起こすことが分かってきました。

実際の方法は、足裏がぴったり床につく高さの椅子を用いて、膝の角度が90度、または90度以内になるように腰かけたのち、つま先を床につけたまま、左右のかかとを小刻みに上下させ、かかとは床から2cm程度上げます。

両足同時もしくは左右交互に行ったり、大きく上下させたりする動作を、1日の中で2時間以上行うことを目指します。3か月くらい続けてみるのが理想ですが、まずは心地良く感じるペースで、できるだけ多くゆするように意識するとよいでしょう。

貧乏ゆすりの効果①エコノミークラス症候群の予防に

長い時間をかけて足を動かすことがないために足の血液の流れが悪くなることによって、足の静脈のなかに血栓と呼ばれる血の塊ができやすくなります。

足にできた血栓は歩行動作などを契機にして、突如として血液の流れに乗って肺まで到達することがあり、この際に肺に到達した血栓が肺の血管を塞いでしまうと、胸の痛みや息切れなどの症状が現れるようになります。

エコノミークラス症候群は、飛行機のエコノミークラスへの搭乗によってのみ起こるわけではなく、狭いところで座ったままで長時間過ごして足を動かすことが少なければ、どこでも発生する可能性があるといっても過言ではありません。

長時間にわたる車の運転や車中泊、さらに災害時の避難所への滞在やデスクワーク中でもエコノミークラス症候群を予防することが大切です。

なお、エコノミークラス症候群は実は正式な病気の名称ではなく、医学界では、エコノミークラス症候群の本態である深部静脈血栓症と急性肺血栓塞栓症は一連の病気として静脈血栓症と総称されています。

貧乏ゆすりに期待される効果

ジグリングによってふくらはぎの筋肉が動き、血液の循環が改善されることでエコノミークラス症候群が予防できると考えられています。

貧乏ゆすりの効果②変形性股関節症の対策に

変形性股関節症の解説イラスト

変形性股関節症は何らかの原因で股関節の軟骨がすり減り、骨が変形してしまう病気です。関節の隙間が狭くなったり、関節の受け皿が小さかったりすることによって、股関節に痛みが出現します。

本来、股関節は、大腿骨(太ももにある骨)の上端にある骨頭と呼ばれる球状の部分が、骨盤の寛骨臼と呼ばれるお椀のようになっている部分にはまり込む形をしているのが特徴です。

変形性股関節症は、寛骨臼の形成が不十分であったり、骨頭と寛骨臼の間が狭くなりすぎてしまったりしていることで、股関節に痛みがでる状態です。

股関節周囲の痛みと、股関節の可動域の制限が主な症状ですが、進行するとじっとしていても股関節部位が痛み、左右の足の長さが違ってくることがあります。

貧乏ゆすりに期待される効果

「あまり好ましくないクセ」と思われることが多い貧乏ゆすりですが、この動きに似たジグリングが変形性股関節症の運動療法として取り入れられ、その健康効果に注目が集まっています。

変形性股関節症の治療には、薬物療法や理学療法による保存療法と、変形が進んだ股関節を人工関節に置き換える人工関節置換術などの手術療法の2種類があります。

ジグリングは病気の進行度や年齢などにかかわらず、座ったまま行うことができるので、多くの人にとって取り入れやすい運動療法といえます。

変形性股関節症の保存療法のひとつとしてジグリングが行われることがあり、ジグリングを実施することによって、変形性股関節症の痛みの軽減、軟骨の再生、関節裂隙拡大などの効果が期待できます。

関節軟骨には関節内にある関節液によって栄養が補給されていますが、ジグリング運動に伴って、股関節に負荷をかけることなく持続的に動かすことで関節液が循環しやすくなり、関節軟骨に栄養が供給されやすくなると考えられています。

貧乏ゆすりの効果③冷えやむくみの改善に

デスクワークなどで長時間座りっぱなしの生活をしていて、足先が冷えてむくんでいる人にも、下肢の血流改善効果が期待できるジグリングは推奨されます。

ジグリングを実践することで、下肢の血流が良くなり、足の冷えやむくみなどの軽減につながりやすくなりますし、動かさないことで凝り固まりやすくなる下肢の筋肉の柔軟性を高める効果も期待できます。

下肢の血流改善効果という観点からは、ジグリングをする前と後では、ふくらはぎの皮膚の温度が5分後に平均約2度上昇したという実験結果があります。

ふくらはぎの筋肉が動くと、全身の血流が促進されることでむくみの解消も期待できます。

まとめ

これまで、「健康に良い」と注目される貧乏ゆすり(ジグリング)の効果などを中心に解説してきました。

ジグリングとは股関節と膝関節を自分で小刻みに動かす方法であり、そのやり方は椅子に浅めに腰掛けて、股関節と膝関節を直角に曲げ、足趾の先を床につけて踵を浮かせて上下させます。

この貧乏ゆすりを毎日30分以上、できるだけ早く上下させることによって、いくつかの病気の予防や改善の効果が期待できます。

ジグリングの効果としては、ふくらはぎの筋肉を動かすことによる血液循環が改善するのでエコノミークラス症候群の予防効果もありますし、膝や股関節の痛みを訴えている方や、下半身の冷えやむくみを感じやすい方にも効果があります。

長時間のテレワークで外出する機会が減ってしまった方、デスクワークでずっと座りっぱなしになっている方も、貧乏ゆすりを健康法として取り入れることができます。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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