遺伝性の脂質異常症「家族性コレステロール血症」の診断と治療

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脂質異常症のなかで高LDLコレステロール血症と診断される方は多くいます。重症な方のなかには家族性高コレステロール血症と診断される方がいます。

最近、注目されてきているもので動脈硬化が進みやすく心臓病を発症しやすいことから早めに治療することが勧められています。家族性コレステロール血症について詳しく見ていきましょう。

家族性コレステロール血症とは

家族性高コレステロール血症は、LDLコレステロールが血液中で高くなり、若いときから動脈硬化が進んで、血管が細くなったり詰まったりする病気です。

特に、全身の血管の中でも、心臓の冠動脈に影響が大きく、心筋梗塞や狭心症を引き起こします。

疫学的には、一般人口の300人に1人程度と比較的高頻度の遺伝性疾患です。重症の場合(ホモ接合体と呼ばれます)は、36~100万人に1人以上の頻度と言われており、ホモ接合体性の場合には指定難病となります。

この病気はLDLを代謝する遺伝子異常の遺伝性疾患です。遺伝子は父親と母親からそれぞれ受け継ぎ、2本1組となって作られています(対立遺伝子)。そのどちらか片方に異常がみられる場合をヘテロ接合体、両方に異常がみられる場合をホモ接合体といいます。

家族性高コレステロール血症と診断される人は、血縁者にLDLコレステロールが高く、心筋梗塞や狭心症などの動脈硬化性疾患の人がいる場合が多く見られます。

家族性コレステロール血症のリスク

家族性高コレステロール血症は高LDLコレステロール血症の方のなかでも生まれつき血中のLDLコレステロールの数値が高い状態です。

若いころからLDLコレステロールが血管内に多すぎるため動脈硬化が進みやすいのが問題となり、特に心臓の冠動脈の動脈硬化が進むことで狭心症や心筋梗塞といった命に関わる病気を発症する人が一般の人に比べて多いことが指摘されています。

多くは、若年期からLDLコレステロールが高いこと以外は、特に症状はありませんが、コレステロールが沈着した黄色っぽい隆起(皮膚黄色種)が、手の甲、膝、肘、まぶたなどにできる人もいます。

LDLコレステロールは通常、肝臓で大部分が処理されますが、この病気では、血液中のLDLコレステロールを肝臓で処理できないか処理する能力が低いため、血液中濃度が上昇し、血管壁にたまって動脈硬化が進みます。

特に冠動脈が動脈硬化を引き起こすことに伴い、心筋梗塞の発症が男性では20歳代、女性では30歳代から見られるようになります。

重症の場合、幼児期に心筋梗塞を発症することもあるように、体質が遺伝するので、親、兄弟、叔父、叔母、祖父母、子供など、血のつながった家族や親せきの中にも同じようにコレステロールの数値が高く、心筋梗塞や狭心症などを発症する人が多いことも特徴です。

家族性コレステロール血症の診断

家族性コレステロール血症の診断方法の一つに、未治療時のLDLコレステロールが180mg/dL以上である、皮膚や腱に黄色腫があるなどが挙げられます。

また、家族や親戚のなかで、LDLコレステロールが180mg/dL以上、あるいは若年で冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)と診断されている(男性は55歳以下、女性は65歳以下)という条件に該当する場合にも家族性コレステロール血症を疑います。

このように、家族性コレステロール血症に関する診断には、LDLコレステロールの測定をはじめ、家系内調査、アキレス腱の厚さのチェックが役立ちます。

遺伝学的検査についても2022年度より医療保険の適応となりましたが、検査が実施できる施設は限られています。

また、通常の採血検査におけるコレステロール値などの測定とは異なり、解析には通常1か月程度を要します。

動脈硬化がどの程度進行しているか調べることにより、合併症の発症を避けることもできます。例えば、頸動脈エコー検査では、血管壁の厚さを測ることにより動脈硬化の重症度を判定します。心臓の血管が細くなっている可能性がある場合には、運動負荷心電図検査や、運動負荷心筋シンチグラフィー、心臓CT、冠動脈造影などの検査を行います。

家族性コレステロール血症の治療

コップ1杯の水と錠剤

家族性コレステロール血症の治療法には次のものがあります。

生活習慣の改善

家族性高コレステロール血症の診断がついたら、LDLコレステロールを充分に低下させる治療を受けることが重要です。

コレステロールや動物性脂肪の少ない食事に変え、生活習慣の改善を心がけて、特にタバコを吸っている人では禁煙することも重要です。

ただし、生活習慣病とは全く病態が異なるため、食事・運動療法だけで、LDLコレステロールを改善させることは困難です。

定期的な運動習慣を持ち、食事をコントロールすること自体は好ましいですが、無理に体重を落とすような食事制限は、かえって筋量を減少させ、身体機能が低下したフレイルといわれる状態につながるので注意が必要です。

薬物治療

家族性高コレステロール血症の方の中で、生活習慣の改善だけでLDLコレステロール値がコントロール出来る人は少なく、病状をコントロールできない場合は、薬物療法が必要になります。

1種類の薬剤でLDLコレステロールがコントロール出来なくても、薬の量を増やしたり、2種類以上の薬剤を服用したりすれば、大部分の患者さんで充分な効果が得られます。

薬物治療はスタチン系に代表される内服薬が一般的ですが、複数の内服薬を使っても十分な改善が得られない場合は注射治療を行ないます。

特に重症なケースでは、エボロクマブと呼ばれる強力な皮下注射の製剤もあります。

LDLアフェレシス療法

家族性コレステロール血症の状態が重症な場合には体外循環を用いた透析治療によって、人工的に血液中の余分な水分や老廃物を除去し、血液をきれいにする治療を行なうこともあります。

最重症例に対してはLDLを吸着除去するLDLアフェレシスが有効です。LDLアフェレシスとは、血液透析装置のような血液を体外循環させる装置で血液中のLDLを吸着除去する治療法のことです。

まとめ

これまで、遺伝性の脂質異常症である家族性コレステロール血症はどのような病気なのか、その診断と治療などを中心に解説してきました。

家族性高コレステロール血症は、生まれつき血液中のLDLコレステロール値が異常に高くなる病気です。

LDLコレステロールは肝臓で作られたコレステロールを全身に運搬するはたらきがあり、動脈硬化の原因になります。

ほとんどの患者さんはLDLコレステロール値が高いだけで自覚症状が出にくいため、検査を受ける機会がないと、そのまま放置されやすい病気ですが、適切な治療を行なわずにいると、若い頃から動脈硬化が進み、20代や30代で心筋梗塞になることもあります。

自覚症状が乏しくても、高コレステロール血症であり、特に男性55歳以下、女性65歳以下で心筋梗塞や狭心症を発症した血縁者がいる場合には、まずは健診を受けて、身体変化があるかどうか確認しましょう。

医療機関での診断方法は、LDLコレステロール測定や家族歴、アキレス腱肥厚をもとに行なうことが一般的ですが、一部の施設では保険診療で遺伝学的検査を実施することも可能です。

家族性高コレステロール血症の患者さんでは、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの病気になる前から動脈硬化を予防することが特に重要です。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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