柴苓湯(さいれいとう)は治りが悪い風邪、むくみ改善、不妊治療に

漢方事典

柴苓湯(さいれいとう)は、元(げん)の時代の世医得効方(せいいとくこうほう)という医方書に収載されている漢方薬です。

免疫を調整し、抗炎症作用がある小柴胡湯(しょうさいことう)に、水分代謝を活性化する五苓散(ごれいさん)を合わせたものです。抗炎症作用のある柴胡(さいこ)、黄芩(おうごん)、利水作用を促す猪苓や茯苓など、合計12種類の生薬が含まれています。甘辛味で、温服が効果的です。

風邪やむくみに対する柴苓湯の効果

柴苓湯は、風邪の治りが悪い場合の症状に適応します。また、回復の悪い下痢にも応用されています。そのほかの代表的な効能についても見ていきましょう。

柴苓湯には、猪苓(ちょれい)や茯苓(ぶくりょう)といった、利水作用のある生薬が含まれています。尿の排出や発汗を促すとともに水分を巡らせて、むくみの改善を期待できます。

不妊治療にも用いられる柴苓湯

柴苓湯は、不妊治療に使用されることがあります。自己免疫疾患など、精子を異物として判断し拒否反応を起こす早期流産に対し、有効性が示唆されています。そのほかにも、不育症や多囊胞性卵巣症候群に使用されることがあります。

漢方薬を不妊治療に使用する場合、かかりつけの医師などに相談したうえで、説明をよく聞き、指導に従ってください。服用期間についても同じく、医師の指導に従ってください。

柴苓湯の副作用

柴苓湯は、副作用として胃の不快感や吐き気、排尿痛、発疹、かゆみなどが起こる可能性があります。

重い副作用はめったに起こりませんが、まれに間質性肺炎が起こることがあります。また、生薬に甘草(かんぞう)が含まれているので、甘草の重複によってまれに偽アルドステロン症が起こる場合があります。

柴苓湯が適応となる病名・病態

保険適応病名・病態

効能または効果

吐き気、食欲不振、のどのかわき、排尿が少ないなどの次の諸症:水瀉性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、むくみ。

より深い理解のために

本方は医学的判断で臨床応用されるケースが多いので、病名に注意します。

漢方的適応病態

1)半表半裏証(少陽病)、水滞。
すなわち発熱性疾患の経過中にみられます。
発熱、往来寒熱、胸脇部が脹って苦しい(胸脇苦満)、胸脇部痛、口が苦い、悪心、嘔吐、咳嗽、咽のかわき、食欲がない、目がくらむなどの症候に下痢、浮腫などの水滞を伴ったものです。

2)肝鬱化火・脾気虚・水滞。
すなわち、ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、口が苦い、胸脇部が脹って苦しい、寝つきが悪いなどの肝鬱化火の症候に、元気がない、食欲がない、疲れやすいなどの脾気虚の症候と、悪心、嘔吐、咳嗽、多痰、浮腫などの水滞の症候を伴うものです。

柴苓湯の組成や効能について

組成

柴胡5 黄芩3 半夏5 人参3 甘草2 生姜1 大棗3 茯苓3 沢瀉5 猪苓3 桂枝2 白朮3

効能

疏肝和胃・利水渗湿

主治

肝胃不和・水湿停滞

解説

柴苓湯は「小柴胡湯」と「五苓散」を合方した処方です。
「小柴胡湯」は肝の疏泄機能調節して肝気の鬱滞を通じ、胃気を下降させて肝胃不和を治療します。
さらに紫胡と黄芩によって、鬱熱を清します。
「五苓散」は停滞した水湿を小便にして体外へ拙します。
人参、白朮甘草、生姜、大棗はいずれも脾胃の気を補益し、運化機能を調節します。

臨床応用

◇下痢

「五苓散」は水湿の停滞による下痢に用いることが多く、「小柴胡湯」は熱症状(発熱、口渇など)、肝鬱気滞の症状(胸満胃痞)、胃处逆の症状(悪心、嘔吐など)、脾胃不足の症状(食欲不振、疲労など)に用いることができます。
急性胃腸炎、暑気あたりなどの下痢に用いるとよいでしょう。

◇浮腫

「五苓散」の配合があるので、全身の浮腫みを治療することができます。
「小柴胡湯」は三焦の気を疏通し、水湿の運行を補佐します。
また原因不明の浮腫、あるいは月経期間中の浮腫に対して、肝の機能を調節できる本方は、単一的な利水剤を用いるより効果があります。
慢性肝炎、肝硬変腎臓病の浮腫にも使用します。
ただし慢性肝臓、腎臓疾患には弁証した上で、活血剤、補益剤などの併用が必要です。

◎肝臓疾患の脇辰脇痛には+「冠元(活血化瘀、理気止痛)

または+「加味逍遥散」(疏肝健脾、清熱)

◎腎臓疾患の腰痛、冷え、舌淡、苔白には+「八味地黄丸」(温補腎陽)

または+「牛車腎気丸」(補腎、活血、利水)

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