脳梗塞の前兆とは?注意したい初期症状を解説

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脳梗塞は急に発症することもありますが、前兆症状があらわれることもあります。

ここでは脳梗塞の前兆と言われる一過性脳虚血発作(TIA:Transit Ischemic Attack)および注意したい初期症状について見ていきましょう。

一過性脳虚血発作(TIA)とは

一過性脳虚血発作は脳梗塞の前兆症状と言われており、血液の流れが一時的に悪くなる(一時的に血管が詰まる、あるいは血液の量が減る)ことで、脳梗塞と似た症状が短時間(数分から1時間、最長で24時間)現れて消える状態のことを言います。

血液が細胞へと戻れば細胞は死滅しないため、画像検査を行なっても梗塞は見られません。しかし、重度な脳梗塞につながる可能性のある前兆と考えられるため、脳梗塞と同様の治療を行なっていく必要があります。

一過性脳虚血発作の症状は内頸動脈系と椎骨脳底動脈系のふたつに分けられます。これらの症状の出方の比率はおよそ内頸動脈系:椎骨動脈系=4:1です。内頸動脈系のTIAの方が多いのは、内頸動脈系の方が血液の供給量が多く、脳を支配している領域が広いためです。

内頸動脈系の一過性脳虚血発作の症状

内頸動脈は前頭葉・側頭葉・頭頂葉の3つの領域を支配しており、代表的な症状には次の5つがあります。

・片側の運動障害(片麻痺)

・感覚障害

・失語症

・一過性黒内障

・視野障害(半盲)

椎骨脳底動脈系の一過性脳虚血発作の症状

椎骨動脈は後頭葉・脳幹・小脳の3領域を支配しています。代表的な症状には次の5つがあります。

・バランス障害(めまい、歩行障害)

・言語障害(呂律が回らない)

・複視(物が二重に見える)

・運動障害

・感覚障害

それぞれの症状については後ほど説明しますが、片麻痺や失語症、あるいは一過性黒内障や半盲といった症状は一過性脳虚血発作に特有の症状です。

めまいや感覚障害は特有とは言えません。めまいは耳鼻科の疾患で起こることのほうがはるかに多く、手足のしびれはさまざまな原因で起こります。

一過性脳虚血発作の症状なのかそうでないのかを自分で判断することは困難なので、症状が出たら即日救急病院を受診するようにしましょう。

脳梗塞の前兆症状には何がある?

脳梗塞の前兆症状は、脳の虚血になる場所によってさまざまです。それでは、一つずつどんな症状があるのか見ていきましょう。

運動障害

よく知られているのが片側の手足や顔が麻痺(力が入らない、自分の思ったように動かないなど)してうまく動かせなくなる障害です。

片麻痺と言いますが、皆さんが想像されているような全く動かない完全麻痺が生じることは前兆症状としては少なく、少し動かしづらいといった障害となります。

例)

・手に力が入らず、箸や物を落としてしまう。

・文字を書こうとすると、字が書けない。鉛筆が握れない。

・歩いてトイレに行こうとすると、どちらかに傾く。歩けない。

このように動くけれど思い通りに動かない、といった症状が多いです。本人は気づいておらず、家族に言われて受診する方も多くいらっしゃいます。

顔面麻痺

イーと笑って笑顔をつくったとき、普通はほうれい線が左右に出ますが、それが片方だけ出なくなり、片方だけ垂れ下がってしまいます。

そのため顔の半分が歪んでいるように見えます。また、口をしっかり閉じることができなくなるため、水などを飲むと、口の半分(口角)から水がこぼれたりします。

言語障害

言葉がいきなり出なくなる(失語症)ことや、言葉は出るけれども呂律が回らなくなる、口が回りにくくなる(構音障害)があります。

失語症は言葉が全く出なくなることもありますが、自分の話そうと思っている言葉がうまく出てこない、出そうと思っている言葉と全く違う言葉が出てくる、といった症状の方が多いです。

呂律が回らない症状で来られた方に対し、外来では「パタカ」と言ってもらい判断しています。もし、呂律が回らないなと思ったときは、自分でも「パタカ」と言って確認してみましょう。

感覚障害

感覚障害とは、片側の手足や顔がしびれる、または鈍く感じるといった状態のことです。感覚障害は他人からは気づきにくく、診察においても自覚症状に頼ることが多くなります。

感覚障害は脊椎や内分泌などさまざまな病気でも起きるため、区別がなかなかつきづらいですが、両側ではなく片側に出るのが特徴です。

例)

・朝起きて温かいお湯で顔を洗おうと思ったら、なぜか片方だけ温かさを感じない。

・突然片方の手が痺れる。

・片方の足が何も履いていないのに、ゴム草履を履いているような感覚になっている。

・片方の手の力が入らず、反対側の手が痺れたようになっている。

このように片側に感覚障害が出た場合は、脳卒中の前兆症状の可能性があります。ご自身で判断が難しい場合は当日すぐに救急病院を受診しましょう。

視覚障害

目の網膜に血流を送る血管の血流が低下することで、片方の視力が急激に低下する一過性黒内障があります。これは、内頸動脈系のTIAが疑われます。

そのほかにも、物が二重に見える(複視)ことや、視界の片側が見えなくなる(半盲)といった視野障害が出ることもあります。これは、片側の物だけ食べなかったり、ドアや物などにぶつかったりする事で、家族が気づく場合も多いです。

バランス障害

小脳は主にバランス感覚を司っています。この小脳が虚血になることでバランスが保てなくなります。

例)

・うまく真っ直ぐ歩けない。

・激しいめまいが急に起こる。

・コップをつかもうとするとコップまでの距離がよくわからず、つかめない。

このようにバランス感覚がおかしいなと思った際は前兆症状である可能性があります。すぐに救急病院を受診しましょう。

脳梗塞の前兆症状に気づいたら

一過性脳虚血発作は突然やってきます。しかし、症状は長くは続かず、短い人は数秒から数分で消失してしまいます。

「勘違いだったのかな?」で済ませてしまう人もきっと多いでしょう。気づいたのが本人だけであるのならば、家族に話さないでやり過ごす人もいると思います。

しかし、こうしたちょっとした症状は自身の身体に発せられた危険信号なのです。危険信号をやり過ごしてしまうと、今度は後戻りできない後遺症(麻痺)としてご自身の身に降りかかってくることもあります。

そうならないためにも、「何かおかしいな」と感じた症状が出たときは、遠慮せずにすぐに救急科、脳神経外科、神経内科などを受診しましょう。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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