脳梗塞の治療法を解説…保存的治療と手術の種類

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脳梗塞を発症した際に選択できる治療法は、発症からどれくらいの時間が経過したかによって変わることがあります。

脳梗塞になったときにどのような治療が行われるのかを知っておけば、ご自身もしくは家族が脳梗塞になった際に役立つでしょう。

ここでは脳梗塞の治療法について解説します。

脳梗塞の保存的治療

保存的治療とは、手術などの外科的処置以外の治療のことを言います。脳梗塞の治療は一般的には点滴治療の保存的治療が中心となります。

血をサラサラにする点滴や薬、血を固まりにくくする薬を使用します。脳梗塞のタイプによって使用する点滴や薬は異なります。その他には、脳の腫れを抑える点滴や脳を保護する点滴を使用します。

点滴はおよそ1~2週間程度使用します。その後は内服薬で再発予防をしていきます。この内服薬はずっと続けていくことが多く、自己判断でやめてしまうと脳梗塞が再発する危険性が高くなります。

その他にも動脈硬化の原因となる高血圧症や脂質異常症、糖尿病がみられた際は、それに対しても厳重な薬での管理が必要となります。

t-PA治療

現在点滴での治療として発症から4、5時間以内であれば、血栓溶解剤(アルテプラーぜ:t-PA)を使用したt-PA治療が行えます。これは血管内にある血栓を溶かす点滴です。

血栓が溶けて早い時間に血流が再開すると脳梗塞を防ぐことができ、劇的に症状が改善することがあります。しかし、血管内に血栓を溶かす点滴をするため、逆に脳内の出血をする危険性も高くなるため、出血のリスクが高い方は使うことができません。

脳梗塞の手術による治療

脳梗塞の大部分は上記のように点滴や内服治療が中心となりますが、中には下記のような治療(手術)をすることで悪化を防げる場合があります。

脳血管内治療

発症から4、5時間経ってしまってt-PA治療ができない場合や、t-PA治療の危険性が高い場合、t-PA治療を行なっても効果がない方に対して、脳血管内治療というカテーテルを使った治療があります。

これは、発症から8時間以内で、CTまたはMRI検査で脳梗塞の所見が乏しい人が対象となります。

脳血管内治療とは、カテーテルという細い管を足の付け根の血管から挿入して、頭の血管へ進めて行う治療です。頭を切って行う手術とは違い、血管の中から詰まった血栓をカテーテルで粉砕したり、血栓溶解剤を注入して血栓を溶かしたりして、閉塞している血管を再度開通することで、脳梗塞になるのを防いだり、悪化するのを防止します。

この治療の問題点は、t-PAの治療と同じように治療後に起きる脳出血です。もし、すでに脳梗塞(死んでしまった脳)に血流を再開させると、血管が裂けて脳出血が起こるからです。

頸動脈狭窄症の治療

脳梗塞のタイプはさまざまありますが、頸部の血管(頸動脈)が硬化して血液の流れが悪くなる事で脳梗塞になることがあります。

症状が出ている頸動脈狭窄症では、狭窄率70%以上のうち、32.3%が2年以内に死亡または脳梗塞になり、狭窄率50~69%のうち22.2%が5年以内に死亡または脳梗塞になると言われています。

そのため、狭窄率が50%以上の場合は、手術を行うことがあります。手術の方法には頸動脈内膜剥離術と頸動脈ステント留置術の2種類があります。

頸動脈内膜剥離術は全身麻酔下で行います。首を約10cmほど切って、頸動脈を十分に露出します。その時点で一度血流を遮断しながら、動脈を開いて、動脈硬化を起こしているプラークを全て取り除きます。血管を元通りに縫合して手術を終わります。

頸動脈ステント留置術は局所麻酔もしくは全身麻酔で行います。こちらは切ったりはせず、足の付け根からカテーテルを首の血管まで誘導して、狭窄している部分をステント(金属のメッシュ状の筒)や風船をふくらませて狭くなっている血管を広げます。

こちらは手術と比べて侵襲度は低いですが、再度狭窄する可能性があり、根治度(完全に治癒する)は低くなります。高齢や合併症、全身状態などで全身麻酔での手術のリスクが高い場合などに選択します。

減圧開頭術

脳梗塞になると、梗塞になった脳は腫れます(脳浮腫)。この脳梗塞の範囲が広範囲であると、その分脳浮腫の範囲が広範囲となります。

脳は頭蓋骨で守られているため、脳浮腫の程度が強くなると脳の逃げ場がなくなり、脳幹(脳の中枢部分)に脳ヘルニアを起こします。

脳幹が圧迫されると意識障害を引き起こし、死にいたります。これを防ぐために、広範囲の脳梗塞を起こし、脳浮腫の程度が強い場合は、脳梗塞を起こしている側の頭蓋骨を一時的に除去する手術を行います。

そうすることで脳浮腫が外へと逃げるため、脳幹の圧迫を防ぐことになります。脳浮腫が改善した段階で、外していた頭蓋骨を再度戻す手術をします。

脳血管バイパス術

脳の大きな動脈が狭窄していくと、脳の広範囲に血液がいかなくなり、広範な脳梗塞を起こすリスクが高くなります。徐々に進行する大きな動脈の狭窄がある場合、この広範な脳梗塞を予防するために脳血管バイパス術を行う場合があります。

これは、頭の皮膚を通っている血管を頭蓋骨の中の脳の血管につなぐ(バイパス)ことで血流を補う場合と、腕などから採取した動脈を首の血管(頸動脈)から脳の大きな動脈につないで血流を補う場合があります。この手術は緊急で行うものではなく、事前にしっかりと検査等を行なって予定を組んで手術します。

いかがでしたでしょうか。脳梗塞は脳に血が供給されなくなってから、脳細胞が死滅(脳梗塞)するまでに時間があります。

そのため、発症から治療を開始できる時間が短ければ短いほど症状がよくなる可能性が高くなります。実際に、もっと早く受診していれば治療もできて麻痺がよくなったかもしれないのに、という患者さんはたくさんいます。

多くの患者さんが、症状が出たのはわかっていたけど、様子を見ていたと言います。「なんかおかしいけどちょっと様子をみようかな」ではなく、「なんかおかしいからすぐに救急病院を受診しよう」という意識をもつことが、自身もしくは家族の将来の幸せにつながると思います。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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