高次脳機能障害とは?脳梗塞が原因で生じる後遺症の種類
脳梗塞は脳の細胞がダメージを受けて脳細胞が死亡してしまう病気です。
脳には、さまざまな機能を持ったネットワークが存在します。そのネットワークが脳梗塞によって障害されると、症状という形になって現れます。
この症状が他のネットワークで補えず、改善せずに残ってしまった場合、後遺症になります。ここでは脳梗塞の後遺症について詳しく解説します。
脳梗塞の後遺症の種類
脳梗塞の後遺症は梗塞の起こる範囲によって、身体のどの部分にどのような症状が出るかが異なってきます。
後遺症にはどういったものがあるのでしょうか。順番に見ていきましょう。
運動麻痺
運動麻痺は右手足あるいは左手足が動かなくなる症状で、痙性麻痺と弛緩性麻痺があります。
痙性麻痺とは手足が硬くなり動かなくなることです。痙性麻痺が強くなると洋服を着替えたり、トイレやお風呂といった日常の動作に支障をきたすようになります。
弛緩性麻痺とは逆に手足がだらんとなって動かないことです。こちらは洋服を着替えたりなどはできますが、力が入らないため、物を持ったり、支えたりという動作に支障をきたすようになります。
感覚障害
感覚障害は運動麻痺と同じように左右どちらかに現れやすいです。触っている感覚(触覚)や痛いといった感覚(痛覚)が鈍くなる場合がよく知られていますが、逆に過敏になって痺れを感じる場合もあります。熱い、冷たいといった感覚がわからなくなるという障害もあります。
視野障害
脳幹の眼球運動を司っている部分が障害を受けると、二重に見える後遺症(複視)が現れる場合があります。複視は脳梗塞発症時に強く現れますが、後遺症が改善する場合も多いと言われています。
後頭葉にも視覚を司る部分があり、その部位が脳梗塞に陥ると、片目で見ても、あるいは両目で見ても視野の左右どちらかが欠けて見えるといった後遺症が出ます(半盲)。視野の4分の1が欠けるなど部分的に見えなくなる場合(視野欠損)もあります。
構音障害
構音障害とは呂律が回らず、はっきりとした会話ができないことです。呂律が回らないため、誰ともしゃべりたがらなくなる人もいます。
失語症
失語症は大脳の言語中枢という場所に障害を受けると起こります。障害を受ける場所によって運動性失語と感覚性失語という大きく2つのパターンに分けられます。
運動性失語とは自分の思った言葉がうまく口から出ず、相手と会話ができないことです。感覚性失語とは全く的外れなワードをしゃべってしまい、会話がままならないことです。
◎運動性失語の例
「今日は暑いですね」→「…、はい(暑いと思ったが、暑いですという言葉が出てこない)」
◎感覚性失語の例
「今日は暑いですね」→「宇宙が飛んで仲間がありがとう(全く会話と関係ないワードが並ぶ)」
失語症はコミュニケーションがとりにくいことから、本人も家族も生活するのが大変になります。
嚥下障害
嚥下障害とは、運動障害や感覚障害によって口や舌・喉などをスムーズに動かせなくなり、食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなる後遺症です。
のどに食べ物が詰まりやすくなったり、誤って気管に入り込んでムセたりします。また、ムセることなく本人が気づかないうちに飲食物が気管へと流れ込み、肺に炎症を引き起こすこともあります(誤嚥性肺炎)。
食べることが難しい場合は、胃に直接水分や栄養を流すことがあります(胃瘻)。
排尿障害
おしっこの間隔が短くなったり、トイレに間に合わなくなったりします。排尿をコントロールする神経回路に障害を受けることで起こる後遺症です。
排尿後すぐに尿意が起こり、何度もトイレに行ったり(頻尿)、尿意の我慢ができず失禁してしまったりします。また、おしっこが自分で出せなくなることもあります(神経因性膀胱)。
高次脳機能障害とは
運動障害や感覚障害などと違い、記憶の障害や考える力の障害、物事を自分で計画して行動できない障害など、より高度な機能が障害されることを高次脳機能障害と言います。
身体に麻痺などの後遺症がないことも少なくなく、障害がないと勘違いされてしまうことが多くあります。しかし、実際の社会生活におけるさまざまな場面で困った問題や人間関係でのトラブルが出てきます。高次脳機能障害の症状について見てみましょう。
◎発動性の低下
・何も意欲を持てない
・前向きに物事を考えられなくなる
・ボーッとしてしまい、固まってしまう
◎脱抑制の症状
・一度怒り出すと、収拾がつかなくなる
・衝動的に行動をしてしまう
・長い間じっとしていることができない。
・してはいけない行動とは分かっていても、抑えることができない
・急に泣き出してしまう
◎記憶障害
・人の名前や顔が覚えられない
・作業中に自分が何をしていたのかを忘れてしまう
・人との約束を忘れてしまう
・さっき言ったことを忘れてしまう
◎注意障害
・集中して作業が持続できない
・気が散りやすく集中できない
・呼びかけに対して反応が遅い
◎遂行機能障害
・自分で計画が立てられない
・間違えを修正して、計画を変更することができない
・要点を絞り込むができない
◎失行
・箸を使って問題なく食べているのに、どうやって箸を使うのか途端にわからなくなる
・ズボンを履こうとするが、どうやって履けばいいかわからなくなり、着替えることができない
・自分の部屋や家への行き方がわからなくなる
◎失認
・はさみを見ても、どんな形状なのかはわかるが、それが何なのかわからなくなる
・ご飯を食べるが左側においてあるものは全く手をつけない
気づかれないこともある高次脳機能障害
高次脳機能障害とひとくくりにされますが、症状は非常にたくさんあります。脳梗塞で入院しているときは気づかれなくても、退院して実際に自分で行動するようになって初めて気づく症状もたくさんあります。
これらの症状もれっきとした後遺症になりますが、周りからは理解を得られないことも多々あります。家族も「何でできないのか」と責めるのではなく、温かくサポートするようにしてください。
いかがだったでしょうか。脳梗塞は発症して治療したらそれで終わりというわけではなく、多くの場合、後遺症と一生涯付き合っていかなければならない病気です。
どのような後遺症があるのか理解し、寄り添っていくことで本人、家族ともに有意義な生活を送ることができればと思います。